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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第一章

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10.パンデミック

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 夜、手に入れたばかりの自宅。
 一番広い部屋をおれの自室にして、そこで手紙を書いた。

 奴隷のサヤカがSランクの冒険者になったこと。
 家を手に入れた事。

 今までの出来事を書いた手紙を封筒に入れて、まだ整理してない荷物の中から電書ハトを取り出す。
 右手に電書ハト、左に手紙――くっつける。

「アン♪」

 男の人っぽいあえぎ声がして、手紙は小さな雷に打たれて、灰になって消えた。
 うん、これでソフトのところに手紙が届いたはずだ。

 コンコン。部屋のドアがノックされた。
 返事をすると、サヤカがドアを開けて中に入ってきた。

「ハードさんちょっと聞きたいことが――あっ、ひよこちゃんだ。お手紙を書いてたんですか?」
「もう送った後だから大丈夫」

 手乗りの電書ハトを荷物の中にしまい直して、サヤカと向き直る。

「どうしたんだ?」
「あの、わたしの部屋にこんなものがおちてました」

 サヤカはそう言って、一枚の紙を差し出す。
 受け取って、内容を見る。

「宣伝チラシだな。タイラー・ボーンの店の」
「さっきの不動産屋さんのですか?」

「そうだ。増築の事が書かれてあるな。新しい家族が増える前に是非増築を。安心簡単に二部屋ずつ増築できます――ってあるな」
「なんか怪しい広告のようです」

「特殊新工法だから段階的に簡単に増築できるとも書いてるな。毎回二部屋ずつ広げていくらしい」
「二部屋ずつですか?」

 おれは頷いた。
 料金表も書いてあって、増築するごとに高くなってくみたいだ。

 最初の二部屋はリユ銀貨500枚、その次の二部屋はリユ銀貨1000枚、その次は3000枚――。
 まったく同じ金額じゃなくて、増やすごとに次の増築高くなっていく仕組みなんだな。

 ちなみに工事はどうやら一晩ですむらしい。
 金さえあれば、一気に払って三日待つ――で六部屋ふやすなんてのも可能っぽい。

「それは難しいから、まずは二部屋増やす……いや、ローンの完済が先だな」

 増築の話は当分先だな。
 おれはチラシを大事にしまった。

     ☆

 次の日、サヤカとコハク姫を連れてギルド『ラブ&ヘイト』にやってきた。
 中に入るなり、二人組の冒険者が苦笑いしながら、そそくさと逃げる様に外に出て行った。

 どうしたんだろう、って思ってるとすぐに原因が分かった。

「ちがうんだ、おれは彼女をホテルに誘っただけ――ごぎょ!」
「それは『だけ』っていわないよ♪」

 ギルドの中は修羅場になっていた。
 カウンターの向こうで、サイレンさんが浮気症の旦那さんを折檻している。
 それが冒険者達が逃げ出した理由か。

 って、旦那さんを折檻?
 おれはコハク姫を見た、コハク姫はびっくりした顔でぷるぷる首を振った。

 昨日までコハク姫がその旦那に化けてたんだ。
 そのコハク姫はここにいる、だったら今あそこにいるのは?

 不思議に思いつつ、カウンターに向かって行く。
 サイレンさんと目が合った、折檻をやめてこっちを向いた。

「あらハード、いらっしゃい」
「サイレンさん。それは……?」
「あらごめんなさい、見苦しいところを見られちゃったね。うちのバカがいつも通り(、、、、、)他の女の子に手を出しちゃっててね」

 ハッとした、コハク姫も(ついでにサヤカも)理解した。
 サイレンさんの「いつも通り」という発言。

 さっき出て行った冒険者達は逃げる様に出て行ったが、表情に気まずさはあっても、怯えとかはなかった。
 サイレンさんが旦那さんを折檻する光景はきっとこのギルドの名物のようなものなんだろうな。

 それが急になくなったら誰かが変に思うかも知れない。
 巡り巡ってコハク姫の事がばれてしまうかも知れない。
 そうならないために「いつも通り」にしてるのが一番なのだ。

「ホテル、で……お茶だけ――」
「寝言は寝て言って♪」

 サイレンさんは旦那さんっぽい何かにトドメをさした。永眠しそう。
 トドメをさした時生き生きしてるんだが……それは気にしないことにしよう。

 さしたあと、サイレンさんはあらためてこっちをむいた。

「今日はなんか用? 仕事なら適当に掲示板から選んでね」

 サイレンさんにそう言われて、おれはサヤカとコハク姫と顔を見合わせて、うなずき合った。
 事情をしれば、裏の意味もわかる。

 今日はまだ動く時じゃない、適当に日常を過ごしてて、って意味だ。

「そうする。あしたも仕事できる?」
「うん、あしたも。あさってがちょっと分からないかな?」

 つまり明後日になにかがあるのか。
 おれは分かったといって、サイレンさんを見つめた。

 それでこっちがちゃんと『分かった』って伝わって、サイレンさんが満足げに頷いた。

 カモフラージュの日常を過ごすため、サヤカとコハク姫を連れて、掲示板に向かった。
 Fランク用の掲示板の前に立った。

 サヤカが受けられるSランクじゃないのは、日常を過ごすのはもちろんだけど、この二日間はあまり目立たない方がいい。
 Sランクのすごい依頼よりも、Fランクのどうでもいい依頼で小銭を稼いでた方がいい。
 そう思ったからだ。

 そう思って、Fランクの掲示板を見ていく。
 Sランクまで駆け上がって、一周して戻ってきたFランクの掲示板は、今となっては簡単な依頼ばかりだ。

 その中あら適当なのを選ぼう。
 そう、思っていると。

「ちょっとハード! あんた何をしたのよ!」
「リサ……」

 ドアを乱暴に開け放って、ギルドに入ってくるなり怒鳴りながらおれに向かってくるリサ。
 後ろにイケメンのアイホーンがついてきてる。

 アイホーンは目の下にクマが出来てる。
 顔も憔悴して、疲れ切ってる感じがする。

「あんた何をしたのよ!」
「へ?」
「昨日あれから家を借りに行っただけど貸してもらえなかったわよ。Dランクの冒険者には貸せないって門前払いになったのよ。あんた、どんな手を使ったのさ!」

「どんな手っていうか――」
「ふん! どうせズルでもしたんでしょ。DとEのあたし達が借りれないのに、いまだにFランクの依頼なんか見てるあんたが借りれるわけないでしょ。というか――」

 一方的にわめいていたリサが一方的に納得して、自己完結した。
 そうしながらおれとサヤカとコハク姫を順にながめて、今度は鼻で笑った。

「奴隷増やしたんだ」
「ああ……」
「奴隷増やして、パーティーに三人もいるのにまだFランクの依頼みてるとか。あんたどんだけへたれなの」
「……」

「ふふん、こっちは違うもんね。今日はちゃんと攻略法を考えてきた。邪魔が入ってもちゃんとやれる攻略法を。ねっ、アイホーン」
「ああ」

 疲れた顔をしてるが、アイホーンははっきりとうなずいた。

「あんたはそこでFのやってなさい。あたしたちは依頼をこなして、今日中にCランクになるから」

 リサはそう言って、アイホーンと一緒にカウンターに向かって行った。
 サイレンさんとやりとりを交わして、依頼をうけギルドから出て行った。

 そんなリサの後ろ姿をみつめていた。
 なんか……不思議だ。

「どうしたんですかハードさん」
「いや、あいつ……あんなにキャンキャンキャンキャンうるさいヤツだったっけ……って思ったんだ」
「むかしは違ったんですか?」
「うーん……」

 昔の事を思い出す。
 幼なじみだったから色々想い出はある。それを思い出していく。
 すごく……不思議だ。

「……なんか昔からそうだった気もする」
「するんですか?」
「よくよく考えたらそうだった。不思議だ、なんで今まで気にならなかったんだろう」
「それは、もう見えてるものが違うから」

 コハク姫が静かに口を開いた。
 見えてるものが違う? どういう事なんだろ。

「彼女の事、小型イヌみたいに見えてる。ちがって?」
「その通りだけど……」
「つまりはそういうことなの」

 ……え?
 それだけ?
 つまりはどういう事なの?

 コハク姫にちゃんと答えてもらえないまま。
 キャンキャン吠えるだけのリサに対する執着が、いつの間にか跡形もなく消え去っていただのだった。

     ☆

 ギルドを出て、依頼者の元にむかう。
 プリブには学園がある、小さいときに入って、成人するまで色々勉強するための学園がある。

 その学園の生徒が今回の依頼主で、会うために学生寮に向かっていた。

「どんな依頼なんですか? ハードさん」
「センパイ風邪が吹いてるから、それの退治だ」
「先輩風……退治?」

 サヤカは首をひねって、不思議そうな顔をした。
 相変わらずな反応だな。

「センパイ風邪ってのは病気の事だ。その病気にかかった人は熱と鼻水が出たり、頭とか喉がいたくなったりして大変なんだ」
「あっ、そっちの風邪……」
「で、伝染力はかなりあって。センパイに100%うつすやっかいな病気なんだ。組織の中でセンパイからセンパイに次々とうつってって、最終的にはトップの人間がそうなって大変なことになる。ちなみに感染者がセンパイであればあるほど症状が悪くなる」
「こわい……」
「今回はでも大丈夫っぽそうだ」

 サイレンさんからもらった紙を見る。
 依頼者は学園の生徒で、センパイ風邪だって判明した時に後輩達に頼んで隔離してもらった。

 感染者とかいないし、依頼者はまだ子供だから症状も軽い。
 だからこそのFランク依頼だ。

 パパッといって、ぱぱっと終わらせてしまおう。

 プリブの街、オールドブルー学園。
 その学生寮。

 到着したそこはやけに慌ただしかった。
 空気がどんよりしてて――というか悲鳴が飛びかってる!?

 どうしたんだろうかと、用務員室でおろおろしてるおじさんに話しかけた。

「なにがあったんだ?」
「あんたらは?」

「ギルドから来たものだ」
「おそいよ! もっと早く来てくれなきゃ!」

 おじさんは怒鳴ってから、額を押さえて首をふった。

「すまない、あんたらは悪くないんだ。悪いのは時代錯誤の連中だ」
「一体どうしたんだ? センパイ風邪ってきいてやってきたんだけど」

「そうだ。そのセンパイ風邪にかかった子を最初は隔離してたんだ。学生寮の一番離れの部屋に一人にして隔離してたんだ」

 妥当な処理だ。
 センパイ風邪はうつる、だから処理できる人間が来るまで隔離するのがベストなやり方だ。

 この場合ギルドに依頼を出してるし、冒険者が来るのを待つだけだ。
 それだけなんだが――おじさんは忌々しげに続けた。

「その話をどこから聞きつけたのか、OBが乗り込んできたんだ。卒業してン十年も経つようなおっさんが『そんなものにかかるのは根性が足りないから』っていって、むりやり隔離してる子を連れ出して、自力で直せって無理強いをした」
「馬鹿な! センパイ風邪を吹かせすぎると突然変異を起こすんだぞ!」

「それがおきた。突然変異を起こしたセンパイ風邪の魔物はセンパイに乗り移るんじゃなくて、センパイに増殖してふえるようになってしまった。その子はかなり小さかったから、学生寮のほとんどにうつってしまったんだ」
「大感染じゃないか!」

「それだけじゃない、どうやら感染者にとってのセンパイじゃなくて、何かのセンパイなら感染するようになってるらしい」
「大事じゃないか!」
「……国が滅びかねないわ」

 コハク姫がぼそっとつぶやいた。
 まったくその通りだ。

 もともとのセンパイ風邪なら、感染者と関係のない人間ならセンパイにならないから、安心して退治することができるんだが。
 なんかのセンパイなら感染するってなるほど、ほとんどの人間が感染対象になる。

 まったくなんて事をしてくれたんだおっさんは。
 時代錯誤の根性論を押しつけて事態をややっこしくするなんて!

「そういう訳だ、来てもらってわるいんだけど、ギルドに状況を報告して依頼のグレートをあげた。これはもうAランク以上の案件だ」
「……そうか、それなら問題無い」

「なんだって?」
「サヤカ、ギルドカードを」
「はい!」

 サヤカは言われた通りギルドカードを取り出しておじさんに見せた。
 Sランク冒険者を示すギルドカードをみて、おじさんはまるで救いの神を見たかのような顔になる。

「早い! ギルドはもう新しい冒険者を派遣してくれたのか」

 なんか勘違いしてるな。
 そういうわけじゃないけど、そういうことにしておこう。

     ☆

 おじさんをおいて、サヤカとコハク姫を連れて寮に向かっていった。

「サヤカは気をつけろよ」
「わたしですか?」
「そうだ、奴隷としてセンパイだからな」
「あっ……」

 言われてハッとするサヤカ、横にいるコハク姫を見る。
 コハク姫の立場は複雑だが、それでもサヤカがセンパイなことに変わりない。

「分かった、気をつける!」
「コハク姫は大丈夫なのか? なんかのセンパイだったりすることは?」
「そういうのはないわ、王族だから」

 それならいい。
 ちなみにおれも大丈夫だ。

 人口のすくない村に育ったから、センパイじゃない。

 三人で寮にはいった。
 玄関に学生が一人倒れていた。

 倒れてる生徒の横にプカプカと、センパイ風邪の魔物がうかんでいた。
 丸い体がそのまま顔になってて、細い手足とコウモリのような羽が生えてる。

「ヒャッハー、センパイだー!」

 魔物は分裂してサヤカに飛びかかった。

「サヤカ、反撃だ!」
「は、はい!」

 いきなりの事で戸惑ったサヤカ。
 でも魔物の十倍の速度で反撃して、ビンタで張り倒した。

 魔物は地面にたたきつけられて、動かなくなった。

「フリーズ!」

 その間、コハク姫はものすごい速さで魔法を詠唱して、学生に憑いたままの魔物を倒した。
 増殖前と後、両方の魔物を、二人の奴隷のコンビネーションで倒した。

「増殖した分はサヤカを狙ってくるな。サヤカもセンパイだから、うつされると変異する可能性があるから自分をちゃんとまもれ」
「はい!」

「コハク姫は今の用にたのむ」
「わかったわ」

 魔物を退治した学生がもとに戻ったのを確認して、学生寮内を歩き回った。
 あっちこっちに学生が倒れてる凄惨な現場だった、そして魔物は遭遇する度に「センパイだー」って叫んでサヤカに飛びついてくる。

 その度にサヤカとコハクが増殖前と後を余裕で倒した。

 この調子なら大丈夫だな。
 そう思いながら、大食堂にやってきた。

 あっちにこっちに二十人ほど倒れている、全員がセンパイ風邪にかかってる。

「気をつけろサヤカ」
「大丈夫です」

 サヤカははっきり言い切った。
 相手の十倍速く動けるのだからいっぺんに来られても大丈夫ってことか。

 そうだろうな、っておれが思っていると。

「お兄ちゃんだー」
「兄貴だー」
「にぃにー」

 センパイ風邪の魔物が増殖して――おれに向かってきた。
 待ち構えてるサヤカやコハク姫じゃなくて、全員が一斉にこっちに向かってきた。

 なんでおれ?
 ……突然変異か。

 妙に頭が冷静だった。
 大勢がいる大食堂のなか、大量の学生。

 なんかがあってまた突然変異したんだな。
 それが「センパイ」じゃなくて、「お兄ちゃん」にも感染する様になった。

 昨夜電書ハトで送った手紙の事を思い出した。
 手紙、ちゃんと届いたよな。

「やああ!」
「フリーズ」

 両横からサヤカとコハク姫が動いて、襲ってきた魔物をまとめて倒した。

「大丈夫ですかハードさん」
「ああ、大丈夫だ」

「いきなりの事にも動じない……これ程の大物感なら、きっと……」
 コハク姫はサヤカを彷彿させる様な、ぶつぶつの独り言をいった。

 なんだ? 『ちーと』を持つと独り言が増えるのか?
 まあいい、今はそれどころじゃない。

「コハク姫、あなたも気をつけた方がいい」
「え??」
「おれが狙われる様になったって事は、あなたも狙われる突然変異が起きてる可能性がある」
「わかったわ」

「状況判断も速い。奴隷がすごいだけの寄生虫ではない……?」

 頷くコハク姫、だがやっぱりブツブツ言ってる。
 言ってるけど今はそれを気にしてる余裕はない。

 二人を連れて、学生寮内を回った。
 危惧した通り「偉い人ー」を襲うセンパイ風邪の魔物がいた。

 幸いにも、サヤカとコハク姫で全滅させる事が出来た。

 こうして、拡大すれば国そのものが滅びかねない程の突然変異を、なんとか水際で食い止めることが出来たのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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