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銃と魔法と断罪者  作者: 片山順一
一章~ポート・ノゾミの七人~
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現場へ

 署を飛び出す前に、男性用のロッカー室へ。断罪には準備がいる。


 武骨なコンクリートの壁に窓のない狭い部屋。元々あった三呂水上警察のロッカーは撤去され、ガドゥが市販品を改造して作った、クローゼットみたいに分厚いガンセーフが置いてある。圧迫感が増して息苦しい。


 ガンセーフは三つ。俺こと丹沢騎士の分と、クレール、それにガドゥの三人分だが一人が使う備品は多い。


 スレインの奴も男だが、あいつの備品はデカすぎて置けない。あいつらドラゴンピープルは、服を着る習慣がなく、別棟の銃火器庫前で装備を済ませる。


 パスコードを入力して、鍵を突っ込む。

 開き戸を開けると、備品一式が詰まっている。


 銃に弾薬、魔錠、コート、防弾ベスト、ガンベルト。


 日ノ本の警察官なら、定年まで身に着けないこともある重装備だ。


 俺はまずブレザーを脱ぎ、防弾ベストを身に着けた。腰のベルトをガンベルトに換え、端に魔錠を引っ掛ける。


 それから、下がっていた黒のロングコートを取り、袖を通した。

 断罪に行くときは、こいつが必要不可欠だ。


 もうひとつ。絶対に必要な物、吊るしてある細長い銃を取る。


 ショットガン、ウィンチェスターM1897。


 単発のポンプ・アクション式。銃身の黒ずみ具合や、ストックの木目が渋い。特に接近戦で頼りになる、俺の愛銃だ。

 その昔、一次世界大戦では、塹壕戦で兵士を散々苦しめたため、トレンチガンとも呼ばれる。俺は略してM97と呼ぶ。


 元々束帯はなかったが、ガドゥに頼んで金具を補強してつけてもらった。これでコートの上から背負える。

 スライドを引いて、解放した銃身下部のシェルチューブに、ショットシェルを詰める。


 一つ、二つ、三つ、四つ、五つで一杯。

 百年近く前の銃なのだ。装弾数は誇れない。


 ガンベルトにもショットシェルを詰め込んでいると、クレールがため息交じりに言った。


「ショットガンか。初めて見たとき驚いたよ。痛ましい武器だね」


 そう言うクレールの銃は、ショットガンより一回り小さい。


 全長は90センチ。両手で構える、いかついものなのは同じだ。こいつの身長だと、俺が持つよりさらにでかく見える。


 89式5.56mm小銃。俺のM97から数十年を経て生まれた、純日ノ本国産。自衛軍の小銃小隊御用達の銃だ。バンギアでは自衛の名の下にこの銃に傷つけられた者も数多い。


 そんな銃を自衛軍の断罪に持ち出すクレールは、『奴らを奴らの武器で罰する』ことにこだわっているらしい。


 見た目では、銃身に折り畳み式の二脚がついているのが特徴だ。これは陣地を守ったり、伏射したりするとき、固定して撃ちやすくするためだ。


 クレールは狙撃用のスコープもつけている。


「お前、89式で行くんだな」


 ロッカーには、ほかにスナイパーライフルが数丁ある。

 クレールは銃に弾倉を込めながら答えた。


「フルオートは優雅じゃないけど、下僕半の尻拭いが必要だろう」


「少しは丸くなったか」


 唇を歪めた俺に、クレールは冷たくほほ笑んだ。


「馬鹿を言え。囮に長生きしてもらうためさ」


 そう言うと、裏地のポケットに、予備の弾倉を詰める。


 マントをひるがえした。外側は黒、内側は赤、まさにドラキュラの色合いだ。このマントがこいつの断罪者としての証なのだ。


 びしっと決まっているが、俺より背が低いから、妙な愛嬌もある。


「二年の付き合いだろ、冗談ぐらい流してくれよ」


「思ってもいないことを言うな。僕がお前達を許さない様に、お前も僕達を許すつもりはないだろう。それでこそ、この仕事さ」


 銃をかつぐと、さっさと廊下に出て行ってしまう。

 ドアを閉めた背中に、ぽつりとつぶやいた。


「……違いない、な」


 現場で戦うとき、クレールの憎悪はいい発破になる。

 しみったれた気分じゃ、人は撃てないからな。


 俺も装備を済ませ、一階の車庫へ急いだ。


 数十年をかけ、二期にわたって埋め立てて、その面積8平方キロにも達した人工島ポート・ノゾミ。中途半端に広いこの島で、現場に向かう足は欠かせない。


 ガレージを開け、備品のバイクにまたがると、キーを突っ込みエンジンをかける。

 ガソリンは満タン。エンジンが喜びに震える。

 いまだに俺は無免許だが、7年前の紛争から、道交法は島から消えて久しい。


 シャッターの外で待つクレールにヘルメットを投げ渡す。


「運転してみるか?」


 俺の意地悪を悟ったか、美しい顔が憎悪に染まる。


「僕の腕を知ってるだろ、聞くんじゃない。この鉄の馬、本当は音を聞くだけで吐き気がしてくるんだ。存在そのものが魔力を乱している。こんなものを改造する趣味があるなんて、お前達は本当におぞましい種族だ」


 そんなにキレなくてもいいのに。

 お前の相棒の89式も、人間の技術の結晶なんだがね。


「分かってるよ。悪かった悪かった」


 108年も生きてる割に気が短いな。

 ギニョルが言うように、100歳なんて吸血鬼的にはまだガキらしい。


 結局、クレールもタンデムシートにすべり込み、俺の背を抱えた。


 銃と弾薬はともかく、見た目通り女みたいに軽い。

 女、女か。


「どうせ乗せるなら、ユエあたりが良かったね」


 パトロールに出ている断罪者の一人を思い出す。


「ふん、背中に胸があたるとかだろう。女性を身体的特徴で扱うとは下等な」


 反応したな。


「俺はユエをバイクに乗せたいって言っただけだぜ。それを胸と結びつけるってことは……?」


「うっ、うるさい! とっとと行け、これ以上被害が出る前にな」


「違いない、飛ばすぜ」


 クラッチをつなぎ、スロットルを回す。


 ナンバーのないバイクが、警察署前の四車線道路に侵入した。

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