毒のルーティン
「……若いのにこんなところに来るなんてな.何の用だ?」
「ちょっと挨拶をしに」
A国R都市V街のとある刑務所.
「挨拶? なんだ知り合いでもいるのか?」
「違う,そういうのじゃない」
地下2階の21番独居室
「ただの挨拶回りなんだ」
そこが私の新しい職場だった.
1X世紀,A国
産業革命によって絶頂期を迎えていた私の祖国では,文明開化の音が鳴り,ガス灯に変わった電灯が街を照らしていた一方,私は運命の日を迎えていた.
「ジェイ,辞令がきた.君はアビス刑務所勤務になる」
その日,私は上司のフレッグに呼ばれ,半ば彼の私室とかしている応接室に呼ばれていた.
「刑務所……私はこれから看守ということですか?」
「ああ,今までの君の功績を考えると物足りないだろうが,とりあえず今は……」
「いえ,私のような者にまだ役目を与えていただけるのであれば,全力を尽くすだけです」
「……ジェイ,いつも言うようだが,君は自分を卑下しすぎだ.
たしかにあの件に関しては,とやかく言うものもいるだろう.だが,少なくとも私は間違っていなかったと思うよ.だから……」
「フレッグさん,私への辞令は以上でしょうか」
「……ああ」
「承知しました.それでは失礼します.
今までお世話していただきありがとうございました」
私が右手を出すとフレッグは少し逡巡を見せたが,やがて固い握手をしてくれた.
「これにせんべつのつもりはない……だから,必ず帰ってこい」
「私もせんべつのつもりはありませんよ.
……なにせ,フレッグさんにはまだ私のかしたつけが返してもらってないですしね」
「……ふ,相変わらず,冗談がつまらないやつだな」