第10話
「ーーーっ!?」
右足に激痛がはしる。その瞬間バランスを崩し、背中から倒れた。やはり多勢に無勢、最初は圧倒していた沙柚も体力が底を尽きていた。
浪士 「くそっ!手間かけさせやがって。・・・だが、終わりだ。残念だったなぁ、調子に乗りすぎだ。小僧。」
一歩一歩と近づいてくる浪士達。起き上がる気も起きず、ただ空を見ていた。すっかり暗くなったその空には星1つ見えない、曇空である。最後ぐらい綺麗な空を見せてくれても・・・と神に悪態を吐く。
浪士 「最後に何か言う事はあるか。」
先ほどまで見えていた空は男の刀に遮られ、見えなくなってしまった。
最後に言い残す事などない。・・・というかあったとしても残せないだろう、声が出ないのだから。
あぁでも1つ言うとしたら、あの男と戦いたかったな と思う。どうせならそいつに斬られたかった。さぞかし楽しいだろうなと勝手に想像すると、自然と口の端が上がってしまう。
浪士 「何も言う事がないとはな、見上げた根性だ。だが、我らの師を愚弄した罪は重い。覚悟しろ」
刀が目の前に振り下ろされる光景がおそろしくゆっくりに見えた。
【キンッ!!】
聞こえるはずのない、刀と刀がぶつかり合う音が聞こえた。
? 「1人の小僧に3人も群がるとはな。お前らには武士の志というものがないのだな。・・・まぁ、そちらの方がやりやすいが。」
昨日ぶりの地を這うような声。
浪士 「お前、何者だ!!」
続いて、浪士の焦る声が聞こえる。
?「お前らに名乗る名などない。」
浪士 「なっ!?」
冷たい声だ。氷のように冷たくて、剣先のように鋭い・・・そして、なぜか安心する声である。
ー最後に見えたのは黒色の着物に身を包んだ男の姿であった。ー