生徒会長 義仲籐十郎
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私立青嵐学園、生徒会室。
本日の授業も無事、全て終了し、生徒たちが続々と部活動へ流れる中、
ここ、青嵐学園生徒会室にも、員達が続々と集まり、事務処理などの実務をこなし始める。
そして、その生徒会室の壁には、もう一つ扉があり、その扉には「生徒会長室」と、豪華な表札がかかっている。
放課後の課外活動の時間……、会長室の中では、三人の男女が既に、打ち合わせを始めていた。
生徒会長室、立派な机の前に配置された、応接セットのソファには、生徒会執行部、風紀委員長の【君嶋ちなみ】が背筋を伸ばして座り、
そして、テーブルを挟んで、生徒会副会長の【橋詰佐緒里】が、ゆったりと座る。
もちろん、会長の札が置いてある机には、生徒会執行部の総責任者であり、生徒会長の、【義仲籐十郎】が鎮座している。
副会長の佐緒里が淹れた、上等な紅茶の香りを楽しみながら、風紀委員の君嶋ちなみからの報告を受ける形で、籐十郎たちの会話は進行していた。
「うむ。これが、新入生の民族比率か。迅速な調査はさすがと言ったところだな」
「恐れ入ります」
「しかし、年を追うごとに妖魔の数が増えて行く。新入生のうち、人間73%、妖魔22%、残りは不明……」
「前年度に比べ、妖魔比率が10%近くアップしております」
「長野を目指して妖魔が集まる以上、いつか比率は逆転する」
「そして、残念ながら、非行率や、犯罪発生率も上昇するでしょうね」
「させぬ!」
「籐十郎様、眉間にシワを寄せ過ぎですよ」
深窓の令嬢を彷彿させる様な、奥ゆかしさ漂う上品な笑い声の佐緒里。
自分を笑う佐緒里に激昂せず、それをサラリと受け流しつつも、眉間のシワを取ろうともしない籐十郎。
端から見る者は、このいかつい生徒会長と、眉目秀麗な副会長の信頼関係は、完全に構築されているのだと、確信したはず。
剛の者義仲籐十郎、柔の橋詰佐緒里。まるで、父と母、阿と吽、陰と陽。
人間を象徴する様なこの二人は、とある絆で隙間無く意志を統一させていた。
その強い、強すぎる巌の様な意志が、もちろん、今の生徒会執行部と、青嵐学園に在籍する「日本人」全ての生徒を鼓舞していた事は、間違い無い。
その意志とは【青嵐学園に在籍する、全ての日本人を護る】…である。
青嵐学園生徒会とはつまり、日本政府側の、教育機関に対しての、出先機関。
学園内に組織されてはいるのだが、背後から非公式に、日本政府のバックアップを受けた、準・公共組織であったのだ。
「どんなに比率が変動し、妖魔側の発言力が増したとしても、我々は絶対に折れぬ!
そもそも、日本人に限らず、人類は宿主であって、やつらは寄生虫・害虫の類。害虫は駆逐すべし!人類普遍の認識である!」
毎度毎度の、お決まりのセリフの様に、腹から絞り出した重低音を吐き出す籐十郎。
佐緒里も、君嶋ちなみも、そんな籐十郎の姿に怯えもせず、頼もしく見詰める。
そして、その内「スコーン、どうぞ♪」などと、佐緒里は笑顔で、君嶋に菓子類を取り分けた皿を回す。
だが、この毎度毎度行われる、ルーティンの様なやり取りは中断されてしまう。
君嶋ちなみが、彼らにとって、今一番ホットな話題を切り出したからだ。
「土岐玲一、あっちに行ってしまいましたね」
土岐玲一が所属したのはオカルト研究会。
そして、ちなみが言うあっちに行ったとはもちろん、第三勢力と呼ばれる…妖魔側に組みした事を意味していた。
「彼らが、土岐玲一君を取り込んだと、判断するのは早計ね。もし、彼らが土岐玲一君を本当に脅威と感じているなら…ね♪」
佐緒里は笑顔で籐十郎を見る。すると、籐十郎は佐緒里の期待通りの内容で答える。
「迦楼羅の力は妖魔にとって脅威!妖魔殲滅の力である。やつらが【常識的な】妖魔なら、土岐玲一の命など、もうこの世には存在せん!」
「ですね♪」
「ならば、第三勢力が彼を囲う理由とはつまり、土岐玲一の飼い殺し」
「順当なところかも知れませんわね」
「ただ、今現在は、伸暁真琴が土岐玲一の後見人になっておるふしもあり、あながちダークサイドに墜ちた訳でも無いのでは?」
「ふん!伽里田神社の保護下にあろうと無かろうと、生き神もまた、人ならざる者!
土岐玲一が第三勢力に堕ちたなら堕ちたで構わん、我らは我らの筋道を通すだけ!」
「ですねえ♪」
ティーカップを置き、立ち上がる籐十郎。
エキサイトしているのか、右手に拳を作り、震わせ、力をみなぎらせる。
「この国を、この長野を…!人ならざる者の楽園などにはさせん!させはせんのだ!!」
私立青嵐学園、生徒会長、義仲籐十郎が吠える。
それは、日本に海外からの移住者が激増しただけに留まらず、
妖魔も爆発的にこの世の中に溢れ、浸透した今、人類の、人間の、日本人の尊厳を護ろうと言う、
不退転の決意の現れであった。




