表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「オカルト研究会」編
24/74

良き来世を




 時間は流れ、いよいよ深夜。

土岐玲一の身にまとわりつく、己の影との対面の時間が近付く。


 関係の無い中学生のこよみには、真琴が護符を持たせて、早々と就寝させた。

兄の顛末に興味があったらしいが、会った初日でありながら、真琴を心底信頼したこよみは、

穏やかに就寝を促す真琴に応じ、自室の布団にと入り、夢の世界へと落ちて行く。


 ショッキングな思春期体験から立ち直った、一方の玲一は、普段通りに過ごせと、部長のひまりに指示され、

明日の授業の予習を行った後、眠気に耐えられずに、普段通りに深夜0時前に床にへとつく。


一階の居間では、氷見ひまり、丞定菊、加納譲司、クラリッタ・ハーカーが、

交代交代でモニター係となり、小さな異変すら拾い上げようと、血眼になって、モニター画面に食らいつき、

オカルト研究会としての活動を、充実させようとしている。

ただ、玲一のあの、凄まじい変化を垣間見た加納とクラリッタだけは、別の思惑を持って、真剣になっていた様だ。

ただ一人、真琴だけは、「その時が来たら、独自に動くのだ」と仲間達に申し出て、応接間で仮眠を取っていた。


 日付変更線を越えて、時間は2時30分

オカルト研究会メンバーにとって、時間の流れは非常に遅く、

何もしていないのに、それこそ、身体もろくに動かしていないのに、

それぞれが目の下にクマを作り、疲労困憊の様相。

先輩たちと交代した加納とクラリッタは、仮眠も取らずに応接間で、

くだらないテレビショッピングを漠然と見ていた。


 生あくびを繰り返す二人、そして、ソファに猫の様に丸まって眠る真琴にの元に、

食堂に設置されたモニタールールから「静かに」慌てながら、氷見ひまりが飛び込んで来る。


「今!ラップ音と、オーブを確認した」


ひまりの言葉が、電気の様に、仲間達の全身を駆け巡る。

加納はクラリッタに目配せしたまま、そのまま食堂へ。

クラリッタは真琴を揺すりながら起こし、真琴を連れて食堂へと移動した。


食堂に入ると、重苦しい緊張感が漂い、ひまりや菊、先にやって来た加納が、真剣にモニターを凝視している。


「加納教えて、状況の変化を」


普段は皮肉にまみれたジョークや、憎まれ口を叩き合う二人だが、

一つ目的が合致すれば、そこにはもう、無駄な会話の付け入る隙は無い。

加納はクラリッタに頼まれた内容をそのまま、淡々と彼女に伝えた。


 玲一の部屋で、玲一以外の存在を感知し、音感センサーが人間の体温を計測した事。

廊下の集音機がラップ音を確認、録音に成功した事。

そして、廊下に設置した定点カメラが、無数のオーブを撮影した事。


オーブとは、小さな球体状のアストラル体で、心霊現象「そのもの」である。

つまり、これだけの状況証拠が揃ったならば、玲一の部屋に心霊現象が起こっても、おかしくは無い。


何かが始まる!モニタールームは、高揚感に包まれた。


「私とお菊さんで出る!」


部長の氷見ひまりは、神父服に着替え、出動の準備を始める。左手に聖水の入ったポットを掴み、右手には聖書を掲げた。

ひまりに声を掛けられた副部長の丞定菊は、即座に立ち上がるが、右手には何と、いつの間にか日本刀を携えていた。


「部長、菊さん、待つのだ。デーモン・ハントは、今回は無いのだ」


「へにょへにょ」とクラゲの様に手を振り、出撃を制止する真琴。

真琴が言うには、もう人間に対して敵対的な霊は出て来ない。

本来の……本当の姿の、土岐花苗の遺産が現れると言う。


「と、言う事で真琴の出番なのだ。どれ、彼女が何を伝えたいのか、聞いて来るのだ」


 真琴は意気揚々と、一人で玲一の部屋に向かって行く。

真琴に言われるがままに、食堂に残った残りのメンバー。

それはそれで、研究会としての実績は作ろうとばかりに、観測は続行。

モニターの画面で、真琴の姿を追う。


 そんな中、ふと疑問に思ったクラリッタが、部長と副部長の姿に質問した。


「神父服って、部長は本当のエクソシストなんですか?それに副部長は日本刀……?」


玲一も加納も、クラリッタも既にオカルト研究会の正式部員。

別に隠す事は無いと判断したのか、滅多に喋らない丞定菊の分まで、氷見ひまりは快活に答える。


 氷見ひまりの家系はカトリックで、当該教区で古くからエクソシストを任されていた。

女性なら尼僧服を着なければならないかも知れないが、エクソシストは神の戦士なので、

神父服を着て戦場に赴く。それが私のスタイルだと。

また、丞定菊の家は、丞定流抜刀術として古くから剣道場を開いているが、実際は魔剣士の血筋を残す、

魔の力を持って、正義を行使して来たサムライの末裔なのだと。


「いやはや、これはお見それしました」


ひまりの親切丁寧な説明に、感銘を受けたのか受けないのかは別として、クラリッタは礼儀正しく賛辞を送る。


 エクソシストの氷見ひまり、魔剣士の丞定菊、生き神様の伸暁真琴


なるほど、なかなかどうして適材適所なのだと…。

クラリッタは含み笑いをしながら、ひまり達にオカルト研究会の、存在意義を確認した。


「妖魔を排除するべきエクソシストは、人類代表。魔でありながら正義を行う魔剣士は、妖魔代表。

そして生き神様は、人類と妖魔の調整役。良き人材が揃いましたね♪」


 クラリッタの核心を付く発言。

その、挑発とも受け取れる言葉を、ひまりは「鋭いね」と、笑い飛ばして一蹴する。

菊もクラリッタを敵視する訳でもなく、静かに口を閉じて自重していた。


もともとそれを知っていたかの様に、一切口を挟まない加納は、その光景をヒヤヒヤしながら見詰める訳でも無く、

冷静な声で、玲一の部屋を撮影しているモニターの先で、何かが始まったと伝える。

会話を中断した研究会メンバー全員の視点が、定点カメラが映し出すモニターに集中した。



 モニターに映る、玲一の部屋。

室内に足音を立てずゆっくりと、それでいて、背中など丸めず堂々と、伸暁真琴が入って来た。


室内の電気は暗視カメラが反応し易い様に、小さな常夜灯すら点けていない闇。

しかし、真琴は足元に気を取られる事も無く、ベッドに横たわる玲一の元へと赴き、床に正座する。


音感センサー、赤外線暗視カメラ、温度感知器など、全ての機材がフル活動する中、

モニターを見ていた丞定菊が、真っ先に玲一の異変に気付く。


「土岐君、震えてる」


菊の一声で、周囲の者達の視線が全て、玲一の顔に集中する。

ひまりが手元のパソコンを操作、赤外線暗視カメラで、玲一の顔がズームアップされると、

やはり菊の言った通り、玲一の顔が小さく小刻みに震えている。

ひまりが菊に「良くわかったね」と、感心しながら賛辞を送ると、菊は「ナイトメア…始まった」と答えるのみだった。


 真っ暗な部屋。ベッドに横たわる玲一、それを見守る真琴。

パキッ!パチン!と、高い音域でのラップ音が続く中、真琴は部屋の扉に視線を向ける。

高い音域でのラップ音は、心霊現象の対象物が「機嫌の良い状態」と言われている。

それに反し、低い音域でのラップ音は、心霊現象の対象物が「警戒心」や、「憎しみ」などの、負の感情を抱いていると言われている。

つまり、真琴が見詰める先に現れるであろう現象は、このシチュエーションを、非常に歓迎していると言えるのかも知れない。


 真琴は扉に視点を合わせながら一言、「苦しゅうない、楽にするのだ♪」と、何も無い空間に向かって声をかける。

玲一本人は金縛りに遭ったまま、横になっているのだが、閉じていた玲一の眼がゆっくり開く。いよいよ「それ」が現れたのだ。


「我は、品陀和気命ホムダワケノミコト)…。応神天皇の末席に籍を置く身。土岐花苗、ひさかたぶりだな」


気さくに語り掛ける真琴だが、普段のポワポワした喋り方が全く見受けられない。

神らしい威厳を保ちつつも、旧友に再会したかの様な、明るい声で語りかけている。


「お主の事、懐かしく想う。この街の子であり、史上最強との誉れ高き退魔師、土岐花苗。その身に迦楼羅飼う者よ」


真琴の言葉に促されたのか、真琴の目の前に、ぼんやりと人間の姿が現れる。

玲一を養子に迎え、我が子以上に彼を愛した、玲一にとって本当の母、土岐花苗本人の姿だ。


花苗は霊的な響きのする、奥ゆかしくも快活な声で、(伽里田の鎮守様ですね)と、正座しながら真琴にこうべを垂れる。


そして半透明のアストラル体(霊魂物質)の姿をした花苗を、金縛りから解き放たれた玲一は、

上半身を重そうに起こし、身体をひねって見詰め、たどたどしく口を開く。


「……お母さん……」


 ……玲ちゃん……


 真琴を入れての三者面談。

しかし、金縛りは解かれたものの、部屋のアストラル物質の量が尋常ではなく、

玲一は上半身を起こしたまま、母の姿を見詰めるので精一杯。


 玲一の心霊に対する「畏れ」が増幅され、恐怖の塊となって縛られていた花苗。

玲一の畏れと共に、彼の「心の凝り」が、最早花苗を花苗たらしめず、

がんじがらめにしながら、姿を強引に玲一自身の姿へと変えられていた。

そして、自分を解き放ち、本来の姿へと戻してくれた、伸暁真琴に、深々と頭を下げながら感謝を表す花苗。

そして、玲一には取り憑く事は本意ではなかった事、事情があった事を、真琴と玲一に謝罪する。


意外にも…、真琴は全てを知っているかの様に、笑顔でうなづき、そして、花苗の裏にある本題を切り出した。


 「迦楼羅の力、玲一に受け継がせたのだな」


 哀しそうな表情で、花苗はうなづく。


愛娘のこよみが、玲一に力を与えた理由だと、花苗は真琴に説明を始める。


 こよみは、もって生まれた心霊力がずば抜けて強く、いずれは、陰陽道を目指したであろう。

高槻の本家すら及ばない、最強の名を手にするであろう。

そうなれば、彼女が望むと望まないと、彼女の元へ、心霊トラブルが必ず訪れる。

彼女の「匂い」を嗅ぎ分け、必ず悪意がやって来る。

そうなると、一番危険な立場になるのは、彼女の親代わりで兄の玲一。

ごく普通の、一般的な心霊力しか持ち合わせない玲一が、彼女の元へ現れる危険に、挑まなくてはならなくなる。

性格的にも、彼は妹の為なら、命を投げ出す覚悟で、闘うであろう……。


「なるほど、だから迦楼羅を遺したのか」と頷きながら、腕を組んで、真琴は思案する。

真琴が思案している最中は、花苗が玲一に「怖い思いをさせてゴメンね」と、しきりに謝っているが、

ここに来て、真琴の声が、ひどく厳しい声色に変わる。


「花苗よ。その資格を持ち合わさぬ者、土岐玲一が、迦楼羅の力を得たと言う事は、その先の悲劇も、理解しておるのだな」


それは厳しくもあり、哀しくもある声。花苗の想いを受け止め、理解を示しつつも、それでも、真琴は納得出来なかったのだ。


「神の鳥、神鳥迦楼羅は、人の誕生と共にその身に宿り、その死に合わせて去る。人の生死に合わせて、転生を繰り返す。

だが、土岐花苗、汝はその死に際して、迦楼羅と玲一を強引に結びつけた。

迦楼羅の力は、力無き者には毒だ。力を使う度に、玲一の寿命はゴリゴリと削られて行く。それで良かったのか」


 真琴の言葉を受ける花苗、どんどん表情が暗くなり、身体を震わせている。

まるで、うつむきながら、大粒の涙をこぼしている様にも見える。

それが、自分の行為を自分自身で責めている様にも見えるのだが、真琴はやめない。


「もう後戻りは出来ない。玲一は間違い無く迦楼羅と表裏一体となった。彼の性格上、迦楼羅の力を全力で使うだろう、自分の命と引き換えに、本当にそれで……」



 ……良い訳無いじゃないですか!……



誰が好き好んで、愛する息子に危険を背負わせるか。

誰が好き好んで、大好きな玲一に、責任を押し付けるか。


花苗の叫びは、真琴だけでなく、玲一にも聞こえた。

すると、その言葉を待っていたとばかりに、真琴の顔から厳しさが消える。


「そうか、いつかアレが、玲一を襲って来ると見たのか。あい分かった、玲一の面倒は儂がしよう」


真琴が理解を示してくれた事に感謝し、花苗は三つ指をついて、深々と頭を垂れる。

そして、頭を上げると、玲一を見詰めながら、ニッコリと微笑んだ。



 ……玲ちゃん、これからは鎮守様が見ていてくれる。私はこれで消えるけど、自分の力に気をつけるんだよ……




「ちょっと待って!」身体は動かないまま、玲一が叫ぶ。


すると、未練が再び恐怖を生むと、真琴は玲一をたしなめる。

そして真琴は、輪廻転生の輪に戻る事が、今後の花苗にとって一番幸せだと説き、

土岐玲一の迦楼羅の力は、責任を持って守る事を、土岐花苗に誓った。


「汝の命を奪い、玲一の力を狙う者、あらかた見当はついている。土岐花苗、安心せい。玲一は必ず、正しい道を歩む」


真琴はそう言いながら、背筋をすっと伸ばして、ポン!と手を打った。

すると、花苗の身体は光に包まれ、サラサラと姿を崩し、

光の粒が天井を突き抜ける様に、天に昇って行く。



 ……玲ちゃん、大好きだったよ。死んでも付きまとってて、ごめん、ごめんね……


「お母さん!お母さん!……お母さん!」


消え行く花苗は涙声、花苗の名前を叫ぶ玲一も、涙声になっていた。


「花苗、良き来世を…なのだ」


全ては、終わった。

過去に縛られていた全てを解き放ち、堂々と前を向く時が来たのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ