星陰のトラバイユ「きみとぼく」
「このボタンを押せば、この世界は終わるね」
「そうだね、終わるね」
「やっぱり、やめにしない?」
「ううん、やめにしない」
「そっか。そうだよね。きみの存在意義だもんね」
「そうだよ、わたしの存在意義だもの」
「生きたいとは思わないの?」
「うん、思わない」
「生きてみようとも思わない?」
「うん、思わない」
「ぼくはきみのことが好きだったんだよ、知ってた?」
「うん、知ってた」
「ぼくにきみを殺せというのかい? それはあまりにも残酷だよ」
「うん、残酷だね」
「この世界の方が残酷だけどさ」
「うん、残酷だよ」
「最後に聞いておきたいことがあるんだ、いいかい?」
「うん、いいよ」
「きみはぼくのことが嫌いなの?」
「ううん、好きだよ」
「そっか」
「そうだよ」
科学兵器に感情プログラムを取り組んでしまった、天才科学者、最期の苦悶だった。