長蛇の鱗の列、抜け出し事件
タイトル『長蛇の鱗の列、抜け出し事件』
作者 道騎士
寒空の下、俺は一人、蛇のように長い列の鱗の一部になっていた。列が進み、ゲートをくぐろうとした瞬間、呼び止められた。
「ちょっと、君。いいかな?」
声をかけてきたのは、イベント会場の整理係りの男性だった。
「何ですか?」
そう聞くと、その男性は、再び聞いてきた。
「チケットを見せてくれないか?」
俺は、財布からチケットを取り出し、チケット見せた。すると、彼はただありがとうと言って、立ち去って行った。後列の人にも同じように聞いていた。整理係りの男子を少し観察していると、ある男に声をかけた瞬間、彼は急に顔色を変え、そして大声をあげた。
「こいつだ! おい貴様! そこを動くな‼ 」
しかし、声をかけられた男は、顔を青くして、逃げ出した。それを整理係りの男性と、その仲間達は追いかけて行った。それに気付いた列は、急に騒ぎ出した。
何やら事件の匂いがするな。チケットを握りしめながら、そう直感した。俺は、昔から事件があると、すぐに突っ込んでいく癖がある。今も列から抜け出して、あの逃げて行った男を追いかけたい。ソワソワしていたのだろうか、後ろに並んでいた赤髪の女性が話しかけてきた。
「どうしたんだい? あんたもあの男の仲間かい?」
俺は急に話しかけられて、動揺してしまった。錯乱状態の中つい口走った。
「い、いや、違う! お、俺は、真実を知りたいんだ‼」
そう言葉を吐くと同時に、列から抜け出して、男を追いかけるべく走り出した。走りながら、さっきの状態を思い返していた。整理係りの男性は何を見て、大声をあげたのだろうか? 遠目だったからどんな男か、判別できなかった。周りの人の行動から推測するに、あの男は、アリーナ近くの森林公園に逃げ込んだようだ。イベントスタッフの人たちが、森の入口で無線を使って、連絡をとっていた。
そこで、ふと気がついた。さっき声をかけた男性がいない。少し気になったので、近くにいるスタッフに聞いてみた。
「あの……、さっきの最初に走り出した男性は、何処に行ったんですか?」
近くのスタッフの人は、少し考えてから答えた。
「ん? みきひこの事かい? 逃げた男を追いかけて、そこの森林公園に入っていったよ」
どうやら、整理係りの男性、みきひこは、森林公園に入ってしまったらしい。この森林公園は別名、『帰らずの森』とも呼ばれている。俺は、勇気を振り絞り、森の中に突入した。落ち葉を踏みわけ、歩いていると、話声が聞こえてきた。誰がいるのか、確認するため、声が聞こえてきた方に、矛先を変えた。
「みきひこ、例のものは盗んできたかい?」
みきひこだと‼ さっきの男性じゃないか! 話している相手は、誰だ! 確認のために、木の陰から、話している二人の男性を覗いてみた。
「ああ、何とか……な。だが、警察に見つかっちまった」
そうみきひこは言った。すると、もう一人の男が答えた。
「そうだな、とりあえず、サツをまかないとまずいな」
俺は、これは手柄をあげるチャンスだと思い、二人に話しかけてみた。
「あの~、すいません。トイレってこの辺にありますか? 迷ってしまって……」
二人は顔を見合わせて、うなずきあい、俺を森の外に誘導した。森の外に出る途中、二人から色々と聞いた。それによると、アリーナで『お祭り』があるらしい。その事を聞き、ふと気付いてしまった。警察はこの森に誘い込まれていたのか! やばい‼ そう思った時には既に、俺は……、粗そうしてしまった。あの二人にトイレの話を振るんじゃなかった。話をしているうちに、話の口実だったものが現実になってしまった。ズボンがびちょ濡れだよ。全く……。とりあえず戻ってから考えよう。
列のあった場所に戻ると、先ほどの雰囲気とはうって変わって、静まり返っていた。
「あ、あんた! これ、あんたの責任じゃないの?」
先ほど、後ろにいた赤髪の女がこちらを指を差し、叫んできた。俺は、咄嗟にマズイ‼ と感じ、踵を返して全力で走りだした。
「こんな所で俺の奇跡の頭脳をふいにしてたまるかよ!」
「俺に解決できない事件など無いのだ! これは俺が解決する山だ!」
そう言い残し、俺は何処かに消え去ったのであった。