15話『もう一度』
大きく間を空けてしまいました
すみません。
その日、マリーと連絡できなかった。
あれは自分の感情も相手に伝わってしまう。マリーにこんな情けない姿は見せたくなかった。
ちっぽけなプライドだろうか、だが私はマリーのカッコいい姉であり続けたかった。
朝になって重い体を持ち上げる。初っ端でつまずく自分に嫌気をさしつつも街へと向かった。
こういう時に何か気分を変えられるものがあればいいのにと街を歩き続けるが、簡単に出会えれば苦労はしないよなと再びネガティブな思考に陥る。
気持ちが沈んでいてもお腹は空くもので、近くに売っていたパンを買って噴水のある広場で昼食をとることにした。ギルドに行って仕事をしなくてはダメなのにやる気がわかない。
ちょうどその時
「泥棒だ!誰かそいつを捕まえてくれ!」
という声が聞こえた。声の方を見るとフードを被った人が走って逃げているっぽいのだが中々速い、まあ一般の中では程度だが。
手を振って魔法を構築、単体拘束系魔法の《バインド》発動。犯人の体を光の帯が包み動きを封じる。
「うわっ、なんだこれ!」
地面で芋虫のようにうねうね動くがその程度で外れるほど柔ではない、十分もたてば効力を失って消えるだろうが。
周りの人間はそれを機に逃げられないよう囲み、犯人を捕らえた。あとは周りが何とかするだろうと私はその場を後にした。
大通りを歩いていると、騎士団の人がいた。その中には見知ったハンサムフェイスがある。
相手が私に気づいたようだ、私の方に手を降って近づいてきたので私も軽く手を降り返事をする。
「やぁ、ドラコさん。」
「ネフィリム殿は相変わらずそう・・・ではないようだな。何かあったので?」
「対したことじゃない。自分が愚か者だと思った・・・それだけさ」
そう、意味不明な理由で勝手に傷ついてるだけだ。ただ自分が特別だと思いたかった。
小さな子供のわがままなような私の思い上がり。
「そんなことより、さぼりか?」
私は気分を変える意味も込め話を変えてみた。
「休憩だよ。食事を取ったばかりで今から仕事に戻るところだ。にしては雰囲気が・・・いや、君がそういうならば大丈夫なのだろう」
私はそんなにひどい顔をしていたのだろうか。とりあえず表面上の言葉を受け入れたドラコさん。
「だがな、なにかわたしたちにできることがあればいつでも言ってくれ。君はたとえ強くてもまだ小さな子供なんだからな」
クシャリと頭を撫でるドラコさんはとても優しかった。
会って間もないドラコさんに気遣われるとはな・・・。これが心配性で身内のマリーならどうなるのやら。
「わかった。ありがとうドラコさん」
戻ろうとするドラコさんはふと振り向いた。
「おお、そうだ。もし暇ならわたしたちの仕事を手伝ってもらえないか。金はないが食事代くらいは出そう」
もしかしたら、これは彼なりの気遣いなのだろうか。それとも私と親密になって王家のつながりを作るよう命令されてるのかも・・・。いやないな。
彼の持つ雰囲気はなんというか、年頃の娘と距離を測りかねて失敗する父親みたいな感じだ。
ソースは俺の親父とダントンさんである。
はぁ、どうせ今すぐしないといけないものがあるわけでもないしここは甘えるとするか。
「別にかまわないが、私は何をすればいいだろうか。言っておくが騎士の作法なんてものも知らないし、仕事もできるかわからないぞ?なぜなら私は王に頭を下げないで話しかける無礼な人間だからな」
そう言うとドラコさんは大笑いした。
「いやすまない。仕事と言ってもさすがに王族の護衛は外部者に任せないよ」
「だが騎士団だろう?以前もエドたちの護衛をしてたし」
「騎士団だからずっとそばにいるわけじゃないさ、普段は街の巡回や鍛錬とか色々やってるかな」
「ほう、そんなものか」
「そんなものさ、では巡回と行こうか」
爽やかな笑みを見せた彼は私に手を差し伸べた。
私は彼の手を取り、精神系の認識疎外の魔法を自分にかけた。これで私の功績は全て騎士団の手柄だと思われるはずだ。
これくらいはいいだろう?
というわけで現在騎士団と一緒に町の警邏中なのだが、歩くたびに事件に出くわす。大きな事件ではないが、スリや殴り合いみたいな小さな事件がたくさんだ。
人が集まればその分事件は起こりやすいということだろう。しかしドラコさんに聞くと此処は他の都市に比べたら少ない方らしい。
場所によっては街全体が無法地帯のような所もあるそうだ。
だてに王都を名乗ってないわけだな。
そんなとこにマリーを絶対連れていけない。あんな天使のようにかわいい子を下衆な悪人が放っておくわけがない。
まあ守りきれる自信はあるし、国が相手でも引く訳がないのだが。
「しかしほんとに事件が多いな、想像以上だ」
私は魔法を使って犯人を捕まえるだけの簡単な仕事だが、数が多い。
肉体的な疲れはないが、精神的に疲れてしまう。
あ、MPじゃないぞ、心的な意味だ。
「まぁネフィリム殿のおかげでいつもより多くの犯罪者を捕まえられているからこちらは感謝しきれないのだがね」
「この程度ならまた手伝うよ。あまり頻繁に言われたらギルドに指名依頼の形を取ってもらって料金をもらうかもだがな」
「これは手厳しい」
楽しそうに笑う彼はなんだか眩しかった。
私はここにいる人たちより大きな力を持っていながら誰よりもくだらない小さなことに怯えている。
所詮偶然手に入れた力はまがい物で、中身は他人とかかわるのを拒絶し逃げていた昔と変わらないのだな。
「わたしはね、一応この国の騎士で一番強いんだ」
突然鬱にふけっていると彼はそんなことを言ってきた。
「部下にも信頼され慕われる。そして魔物や敵にも率先して特攻するような人間なので怖い物がないと思われている」
「どうしたんだいきなり」
「まあ少し聞いてください。そういわれているけれども本当は私は臆病な人間なんですよ。魔物と戦うのだって怪我は痛いですし死ぬかもしれない」
「・・・そうだな」
「新兵のころ昨日ともに食事をした親友がわたしの代わりにオークに叩き潰されたなんてのも事実ありました。それは一番心にキましたね、それ以降大切なものを失うのが嫌なわたしは誰よりも危険なところで戦うんです。大切なものを守るために」
そう言うドラコさんの顔は今を必死に生きる力強さが見えた。
「とまあ臭いことを言いましたが、戦う人間の思想なんて百人いれば百人分の思いがあります。ただ暴力をふるいたいものもいますし、奪われないために強くなる人もいます。結局そんなものです。あなたはあなたの思うように進めばいい」
「私の悩みを知ってたのか?」
「いえ、大人の勘ですよ」
強くなってもやはり大人にはかなわないな。
何のために戦う・・・・・・か。
私は・・・・・・。
宿に帰った私はベットの上で胡坐をかき、マリーに連絡した。
「はいフィーこんにちは」
「やあマリー、元気かい」
「こっちは元気いっぱいよ!それより昨日はどうしたの?連絡がなかったから前に言ってた王族の人たちの事とか別の面倒事でも巻き込まれたのかとか心配いしたのよ」
「はは、ごめんごめん。確かに面倒事には巻き込まれてたけどそれとは別件で少しね」
「もう!フィーは確かに大人たちより強いけど女の子なんだから無茶しちゃだめよ!」
「わかったって。私の妹は心配性だな」
「わたしがお姉ちゃんでフィーが妹だもん!」
そんな風に他愛無い話でワイワイと話し、私は本題というのは大げさだが言った。
「マリー、私は強くなるよ」
「今でも十分強いじゃない。キラーマンティスたちもひょいひょい倒せるくらい」
「ううん、力だけじゃなく心も強くなる。そしていろんなことを見て、聞いて、私のいる理由を知ろうと思う」
「うーん、よく分からないけどきっとフィーならできるわ。お姉ちゃんのわたしが保証する」
「それは何より心強いな」
そう、私はなぜこの世界に来たのか、何のために存在するのか知るために前に進もう。
それが今の自分にできることだから。
「あ、パパたちにも変わった方がいいかしら」
「ううんいいよ、また連絡する」
「そっか、あもうこんな時間!フィーわたしおばば様の弟子になったの。今そこで薬学の勉強をしてるんだ。もう指導の時間だから切るね」
「ああ頑張って」
「フィーもねバイバイ!」
魔力の流れが消えて魔法が切れたのを確認し大きく息を吐いてベットに大の字に寝転んだ。
「さあ明日から色々動かないとな」
決意を新たにし真面目に今後のことを考えようとするとキュウとお腹の音が鳴ってしまった。
「プッ、しまらないなあ」
そう笑って腹ごしらえをしに食堂に向かった。