閑話1
「部長、今よろしいですか?」
パソコンに向かって仕事をしている部長に話しかける。
この人はまだ30半ばだというのに、その仕事ぶりからすでに部長という役職に就いていた。
この人が部長職になったとき、私を含め誰からも疑問の声は上がらなかった。
このゲームがβとは言え動かすことが出来るのは、この人のおかげと言っても過言ではないほどだ。
「どうした?」
ここ数日はその多忙っぷりからか、無精髭も生えているしシャツもヨレヨレだ。
しかし、女性社員からは「渋い」だとか「母性本能をくすぐられる」などと不満どころかその人気に拍車をかけている。
しょせん人は顔か!
「例の仕様に気がついたプレイヤーが出ました」
「まだ始まって数時間だぞ?」
「はい。ですが、このようにメールも送られてきました」
そのプレイヤーから送られてきたメールをプリントアウトした物を、部長に渡す。
たった数行のそれをじっくりと何度も読んだ部長は、溜め息を1つつくと顔をあげる。
「完全に気がついているな。このプレイヤーは今は?」
「ログアウト中ですが、この情報をどこかに流している様子はありません」
「なるほど。まぁ、レベルは低くても最強のプレイヤーになれるかもしれない訳だしな。一応彼の動向の様子を見ておいてくれ」
「分かりました」
礼をして、部長のデスクから離れる。
このレベルが下がってもステータスはそのままという仕様は特に意味があって実装されたものではない。
むしろ、私たちもテスト開始直前に気がついたぐらいで、プログラマーに問い合わせるとそんな事はしていないという返事が還ってきたのだ。
一先ず部長に報告と思い話すと、部長はひとしきり笑ったあと、俺がやったと言った。
理由をきけば、面白そうだからと言うだけだ。
部長には何か考えがあるのかもしれないが、それは私達の知るところではない。
しかしあの人のことだ。
本当に面白そうという理由だけでやった可能性も否定できない。
「まぁ、そんなことよりも……」
今度は私が溜め息を1つつく。
フロアをぐるりと見回す。
男性社員は、誰もが無精髭が生えているしシャツもヨレヨレだ。
女性社員は、誰もがジャージを着ている。
苦労するのは、いつだって現場のしたっぱである私たちなのだ。
就活がおわりません。
仕事ください。