第五話 総統閣下、総統閣下する
前回とうとうXXI型Uボートが完成し、就役しました。そして数多の欠陥が発覚しました。
という訳でノルマ回収回です。
因みにネタ回なので割と色々滅茶苦茶です。予め御了承ください。なおXXI型Uボートの欠陥は史実準拠な模様。
1943年5月28日総統地下壕・作戦室
総統地下壕に於いて、総統閣下はクレープス参謀総長から大西洋の戦いに関する報告を受けていた。
「Es ist dem Feind gelungen, die Front in breiter Formation zu durchbrechen.
Im Süden hat der Gegner Zossen genommen und stösst auf Stahnsdorf vor.
Der Feind operiert am nördlichen Stadtrand zwischen Frohnau und Pankow, und im Osten, der Feind hat an der Linie Lichtenberg, Mahlsdorf, Karlshorst gelangt。
(総統閣下、大西洋は今や悲惨な状況です。
南方では敵護衛艦隊が我がUボート群を蹴散らし、敵の輸送船団が自由を謳歌しております。
北部海域では敵輸送船団がソ連へ続々と物資を送り込んでおります。)」
クレーブス参謀総長が大西洋の戦いに関して報告を説明する。
「Mit dem Angriff Steiners wird das alles in Ordnung kommen。
(間もなくXXI型Uボートが就役して大西洋で勝利出来るだろう。)」
総統閣下はXXI型Uボートへの期待を口にする。
「Mein Führer…
(それが総統閣下...)
Steiner…
(XXI型Uボートなのですが…)」
クレーブス参謀総長は報告しようとするも、XXI型Uボートに対する総統閣下からの期待の重さを前に口籠ってしまう。
それをヨードル作戦部長が引き継ぐ。
「Steiner konnte nicht genügend Kräfte für einen Angriff massieren。
(XXI型Uボートは欠陥だらけです。
プレハブ工法の溶接不良で圧力殻に3センチもの隙間ができ、油圧式魚雷装填システムは故障連発、シュノーケルは振動で浸水、エンジン過給器と操舵機構も不良続きで、とても実戦に投入できる状態じゃありません。)
Der Angriff Steiners ist nicht erfolgt。
(XXI型Uボートは大幅な改修が必要で、出撃すら儘なりません。)」
総統閣下は震える手で眼鏡を取り海軍からの報告書を黙読する。
その光景に、総統地下壕は沈黙と緊張感に包まれる。
沈黙を破ったのは、総統閣下だった。
「Es bleiben im Raum: Keitel, Jodl, Krebs und Burgdorf.
(以下の者は部屋に残れ:カイテル、ヨードル、クレーブス、アンポンタン。)」
総統閣下は4人に残るよう命じると、指名された4名とゲッベルス宣伝大臣とボルマン官房長官を除いて退室する。
そして扉が閉まると、総統閣下はブチギレた。
「Das war ein Befehl!
(なんだその体たらくは!)
Der Angriff Steiners war ein Befehl!
(海軍はあれだけ自信満々だったじゃないか!)
Wer sind Sie, dass Sie es wagen, sich meinen Befehlen zu widersetzen?
(誰がこんな大それた詐欺などはたらこうというのだ!?)
So weit ist es also gekommen…
(いや違うな…)
Das Militär hat mich belogen!
(海軍は勇み足が過ぎたのだ!)
Jeder hat mich belogen, sogar die SS!
(誰もが前のめり過ぎたのだ、SSでさえも!)
Die gesamte Generalität ist nichts weiter als ein Haufen niederträchtiger, treuloser Feiglinge!
(夢想者で妄言ばかり垂れ流す奴なんか大っ嫌いだ!)」
総統閣下は立ち上がり怒鳴り続ける。
「Mein Führer, ich kann nicht zulassen die Soldaten die für Sie verbluten…
(総統閣下、水兵たちが総統閣下のために血を流すのを…)」
総統閣下の言い様にブルクドルフ陸軍人事局長が反論しようとする。
「Sie sind Feiglinge! Verräter! Versager!
(夢想者なんか大っ嫌いだ!バーカ!)」
総統閣下はブルクドルフ陸軍人事局長の反論を遮る。
「Mein Führer, Was Sie da sagen, ist ungeheuerlich.
(総統閣下、それはあまりにもとんでもない言い方です。)」
ブルクドルフ陸軍人事局長は逆ギレ気味に反論する。
「Die Generalität ist das Geschmeiss des deutschen Volkes!
(将校連中はドイツ国民のクズだ!)」
総統閣下は一言言うと赤青鉛筆を海図に叩き付けて叫ぶ。
「Sie ist ohne Ehre!
(チクショーメ!)」
「Sie nennen sich Generale, weil Sie Jahre auf Militärakademien zugebracht haben nur um zu lernen, wie man Messer und Gabel hält!
(お前らは士官学校で何年も過ごしただけで、学んだのはナイフとフォークの使い方だけ!)」
「Jahrelang hat das Militär meine Aktionen nur behindert!
(長年、海軍は不適切な兵備と稚拙な指揮で私の作戦を妨害し続けた!)」
「Es hat mir jeden nur erdenklichen Widerstand in den Weg gelegt!
(ありとあらゆる不見識を私の前に並べ立てた!)」
「Ich hätte gut daran getan, vor Jahren alle höheren Offiziere liquidieren zu lassen, wie Stalin!
(It's 判断力足らんかった、無能な提督どもを皆粛清しておけば良かった、スターリンのように!)」
総統閣下は一通りキレると椅子に座りる。
「Ich war nie auf einer Akademie.
(私は士官学校などに行ったことはない。)」
総統閣下は静かに語り出す。
「Und doch habe ich allein, allein auf mich gestellt, ganz Europa erobert!
(それでも私は一人で、たった一人で、ヨーロッパ全土を征服したのだ!)」
総統閣下は暫く深呼吸すると、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「Verräter.
(無能どもが…)」
総統閣下は続ける。
「Von allem Anfang an bin ich nur verraten und betrogen worden!
(最初から私は裏切られ、騙され続けてきた!)」
「Es wurde ein ungeheurer Verrat geübt am deutschen Volke.
(ドイツ国民に対してとんでもない大裏切りが行われたのだ!)」
「Aber alle diese Verräter werden bezahlen.
(だがこの裏切り者どもは皆、代償を払うことになる。)」
「Mit ihrem eigenen Blut werden sie zahlen.
(奴等自身の血で償うことになるだろう。)」
「Sie werden ersaufen in ihrem eigenen Blut!
(奴等は己の血に溺れることだろう。)」
総統閣下の怒号に、秘書官のゲルダがとうとう泣き出してしまう。
「Bitte, Gerda, jetzt beruhig dich doch.
(ねえ、ゲルダ、落ち着いて。)」
秘書官のユンゲがゲルダを慰めようとする。
いつの間にか部屋の前の廊下に来ていたエヴァ・ブラウンが心配そうな様子で部屋の扉を見つめる。
総統閣下は廊下の様子を知らないまま椅子に座り項垂れたまま言葉を紡ぐ。
「Meine Befehle sind in den Wind gesprochen.
(私の命令は全部無能と不見識のために波間へと消えた。)」
「Es ist unmöglich, unter diesen Umständen zu führen.
(こんな状況では指揮など不可能だ。)」
「Es ist aus.
(もう終わりだ。)」
「Der Krieg ist verloren.
(大西洋の戦いはもう負けだ。)」
総統閣下は一堂を見回しながら言葉を紡ぐ。
「Aber wenn Sie, meine Herren, glauben, dass ich deswegen Berlin verlasse, irren Sie sich gewaltig.
(だが諸君、私がこの大西洋の敗北のせいで戦いを止めるとでも思うなら大間違いだ。)」
「Eher jage ich mir eine Kugel in den Kopf。
(私は最後まで抗い続けよう。)」
「Tun Sie, was Sie wollen.
(お前らは勝手にしろ。)」
総統閣下は項垂れると言い捨てる。
1943年5月27日、ベルリン郊外、ドイツ海軍総司令部地下会議室。
薄暗い電灯の光が、コンクリートの冷たい壁をぼんやりと照らし出していた。部屋の中央に据えられた巨大な作戦卓の上には、大西洋の海図が広げられ、無数の赤いピンが突き刺さっていた。それはまるで、血に染まった傷跡のようだった。5月の「黒い5月」――Uボート部隊は43隻を失い、狼群戦術は事実上崩壊していた。連合軍の護衛空母群と新型レーダーの網に絡め取られ、浮上攻撃はもはや自殺行為に等しかった。
カール・デーニッツ提督は執務机の向かいに腰を下ろし、両手を固く組んで虚空を見つめていた。1月30日にエーリヒ・レーダー元帥の後任として海軍総司令官に就任して以来、わずか四ヶ月。白髪の混じり始めた短い髪、胸に輝く鉄十字の勲章、そして疲労と苛立ちで赤く充血した目は、53歳の男の重圧を如実に物語っていた。机の上には、XXI型Uボート Uボートの設計図が無造作に広げられていた。
「入れ」
低い、抑揚のない声で命じると、重い鉄製の扉が軋みを上げて開いた。海軍技術局のハインリヒ・シュミット大佐が入室し、敬礼を捧げた。手に厚い報告書と、XXI型Uボートの詳細設計図の束を抱えている。大佐の顔は青ざめ、額に汗が光っていた。
「提督。XXI型Uボート『エレクトロブート』の初期評価報告であります。設計局とダンツィヒ造船所の合同検査結果です……深刻な欠陥が複数発覚いたしました」
デーニッツ提督は無言で顎をしゃくった。シュミット大佐は報告書を開き、声を低く抑えながら読み上げ始めた。部屋に響くのは、彼の声と遠くから聞こえる発電機のうなりだけだった。
「まず、船体構造です。新型の区画式建造法――八つのセクションを別々の工場で並行生産し、最後に溶接する方式――で、寸法誤差が致命的です。あるセクション間では最大一メートル以上のずれが生じ、溶接部に歪みと隙間が発生しています。潜航時の耐圧試験では、深度二百メートル付近で既に亀裂の危険が指摘されています。これでは、深深度潜航の最大の強みが失われてしまいます」
デーニッツ提督の眉がぴくりと動いた。彼は新型潜水艦に、全ての希望をかけていた。従来のVII型やIX型では、水中速度が遅すぎる。連合軍のレーダーと航空哨戒に晒され、浮上攻撃が自殺行為となっていた今、XXI型Uボートこそが逆転の鍵――流線型船体、大容量バッテリー、油圧魚雷装填装置、そして何より、水中速度が水上速度を上回る革命的設計。月産三十隻、将来的には五十隻。だが今、シュミット大佐の声は冷たく、容赦なかった。
「次に、動力系統。372セル、百五十トン級の高容量バッテリーです。戦時生産の旧在庫を使用せざるを得ず、セル間の品質ばらつきが激しく、過熱・電解液漏れのリスクが確認されました。急速充電を試みた場合、制御が不均一で水素ガスが発生し、爆発の危険性があります。また、全電動化による配線総延長は約五十キロメートルに及びます。回路図だけでも二百枚を超え、セクション分離生産のため図面と実物の不整合が多発。短絡や接続不良が日常的に発生する見込みです」
デーニッツ提督はゆっくりと息を吐いた。拳が机の上で固く握られ、指の関節が白くなる。心の中で、失われたUボートとその乗員たちの顔が次々と浮かんだ。北海の冷たい波に飲み込まれ、家族の待つ港に二度と戻らなかった若者たち。
「シュノーケル装置も問題です。波浪による浸水でディーゼルエンジンが停止しやすく、排気ガスの蒸気発生が敵レーダーに捕捉されやすい状況です。加えて、耳抜き不能による乗員の減圧症も報告されています。魚雷装填の油圧システムに至っては、試験段階で作動不良が頻発しております。操舵機構にも初期欠陥が……」
「十分だ、大佐」
デーニッツ提督が低く遮った。声に怒りが滲むが、それはシュミット大佐に向けたものではなかった。自分自身、そしてこの戦争の残酷な現実に向けたものだった。彼はゆっくりと立ち上がり、海図の前に歩み寄った。指先で大西洋の一点――北大西洋の航路を叩く。
「我々は今、連合軍の護衛空母とレーダーに蹂躙されている。5月だけでUボート四十三隻……四十三隻だ。乗員数千名が海底に沈んだ。ヒトラー総統は新型兵器に期待を寄せている。私もだ。XXI型Uボートこそが、狼群の復活の鍵だと思っていた。水中を高速で疾走し、敵の目を欺き、魚雷を浴びせかける。……それが、唯一の希望だった」
部屋の空気が重く淀む。シュミット大佐は硬直したまま、報告書を握りしめていた。デーニッツ提督は背中を向けたまま続けた。
「欠陥は直せ。溶接技術を強化し、バッテリーの品質管理を徹底しろ。配線は簡略化、シュノーケルは改良だ。生産は遅れても構わん。完璧な一隻が、欠陥だらけの十隻より価値がある。1944年までに二百隻……いや、三百隻を海に送り出す。それができなければ、我々は負ける」
シュミット大佐は硬直したまま敬礼した。声がわずかに震えていた。
「了解いたしました、閣下。ただし……技術局の見積もりでは、修理と修正に追加百二十日以上を要する可能性がございます。資材不足と工場空襲の影響も……」
デーニッツ提督は振り返らず、背中で答えた。
「時間はない。大佐。時間は我々の最大の敵だ。だが、諦めはもっと大きな敵だ。報告は受け取った。明日、再び詳細を聞く。退室せよ」
シュミット大佐が退出すると、部屋に重い沈黙が落ちた。デーニッツ提督は一人、海図を見つめ続けた。XXI型Uボートの設計図が机に残され、革命的な水中高速艦の輪郭が、電灯の光に浮かび上がっていた。だが、その紙の上に、今や「致命的な欠陥」の影が濃く落ちていた。
外では、ベルリンの夜空に空襲警報のサイレンが遠く響き始めていた。低く、断続的に。まるで、戦争の終わりを告げる不吉な予言のように。
提督は静かに目を閉じた。胸の内で、失われた部下たちの声が渦を巻いていた。まだ、終わらせてはならない。まだ、戦わなければならない――。地下深くの会議室で、ドイツ海軍の命運を賭けた一夜が、静かに更けていった。
1943年5月28日、ベルリン郊外、ドイツ海軍総司令部地下会議室。
前夜の空襲警報が鳴り止んだ後も、ベルリンの空は灰色の雲に覆われていた。夜通し響いた爆撃機の爆音は、まるで戦争の歯車が軋む音のように、地下深くまで染み込んでいた。カール・デーニッツ提督は、昨夜と同じ執務机に座り、血走った目をこすっていた。睡眠はわずか三時間。XXI型Uボートの設計図はまだ机の上に広げられたまま、昨夜の報告書の赤い印が、まるで傷跡のように残っていた。
部屋の空気は一層重く淀んでいた。海軍技術局のハインリヒ・シュミット大佐をはじめ、設計局長、ダンツィヒ造船所代表、資材調達担当将校らが、すでに隣接する会議室に集まり始めていた。今日の議題は明確だった――XXI型Uボートの欠陥に対する「具体的な措置」。溶接技術の緊急強化、バッテリー品質の抜本的改善、シュノーケル装置の再設計、配線簡略化……。デーニッツは自ら議長を務め、1944年までに三百隻という無謀とも思える目標を、現実のものとするための戦いを始めるつもりだった。
提督は壁の時計に目をやった。午前十時五分前。会議開始まであと十分。机の上に置かれたコーヒーカップはすでに冷え切り、湯気一つ立たなかった。彼はゆっくりと立ち上がり、軍服の襟を正した。胸の鉄十字が、薄暗い電灯に鈍く光る。
その時、扉がノックされずに勢いよく開いた。
海軍通信局の若い中尉が、顔面蒼白で駆け込んできた。手に握られたのは、暗号電文の紙片だった。息を切らしながら、敬礼もそこそこに声を震わせる。
「提督閣下! ただ今、国防軍総司令部より緊急連絡が入りました!」
デーニッツの眉がわずかに上がった。中尉は電文を差し出しながら、言葉を継いだ。
「総統閣下が……XXI型Uボートの欠陥について、極めてご立腹とのことです。昨夜、総統本部で海軍の状況報告を受けた際、『こんな未完成の鉄屑を大量生産する気か! 狼群の復活など夢物語だ!』と激昂され……『デーニッツに直ちに報告せよ。欠陥の一刻も早い解消を、総統自らが督戦する』と……」
部屋に一瞬、凍りつくような沈黙が落ちた。デーニッツは電文を受け取り、素早く目を走らせた。ヒトラーの署名入りのメモ。そこには、予想通り、苛烈な言葉が並んでいた。新型潜水艦への期待が、失望と怒りに変わった瞬間だった。
提督の指が、紙を握る力で白くなった。昨日、シュミット大佐から聞いた欠陥の数々が、脳裏に蘇る。深深度潜航不能、バッテリー爆発の危険、シュノーケル不具合……。それらが総統の耳にまで届いていた。しかも、わずか一日で。
外の廊下では、会議室に向かう技術将校たちの足音が近づいていた。シュミット大佐の声が聞こえる。「提督をお呼びしろ。時間がない」。
デーニッツは電文を机に叩きつけ、深く息を吐いた。目が、再び鋼のような光を取り戻す。
「わかった。中尉、通信局に伝達せよ。総統閣下には、今日の会議結果を直ちに報告すると」
彼は扉に向かって歩き始めた。隣の会議室の扉が、わずかに開かれている。そこには、XXI型Uボートの巨大な設計図が壁一面に貼られ、技術者たちが緊張した面持ちで席に着きつつあった。
彼等はXXI型Uボートの欠陥を、本気で改善しようとしている。
という訳でノルマ回収です。
そして当時のドイツで総統閣下がブチギレる事態となれば、早急に信頼性を上げようとなるのは当然な訳で。




