第9話 旅立ち
「兄ちゃん…!」
アンドロイドに駆け寄るデイヴ。
彼はデイヴの方を振り向く。
しかし──
「ヴガァァァァ!!!!」
突然アンドロイドが頭を抱えて苦しみ出し、鋼鉄の拳をデイヴに向かって振り下ろす。
彼の拳はデイヴの腹を少しだけ掠った。
「うっ」
デイヴはその場にうずくまり、気絶してしまった。
「ひゃあ!!!」
アンドロイドのあまりの力に人々は驚愕の声を上げている。
「こ、これは悪魔が我々に仕向けた兵器だ!」
コミュニティで長老格の老人がアンドロイドを指差して声を上げた。
義賊団がアンドロイドに向かって一斉射撃の構えを取ったその時、コアの光がデイヴのネックレスチャームに吸い込まれた。
アンドロイドは糸が切れた人形のようにその場に倒れ込み、そのまま動かなくなった。
「デイヴ!!!」
母や仲間たちが彼の元に駆け寄ってきた。
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次に彼が目を覚したのは村の診療所のベッドの上だった。
仲間たちが心配そうに彼の周りを囲んでいる。
「やっと目を覚した!」
ドンが喜びのあまり近くの椅子に蹴躓きかける。
「お前、丸一日眠ってたんだぜ。」
カズが心配そうに言う。
デイヴはネックレスを触ろうとしたが無くなっている。
「兄ちゃんは…?」
彼は皆に問いかける。
すると、エリサが強く言い聞かせるように言う。
「いいかい?あいつはテイラーじゃない!ただのマシンだ!」
その時、部屋にライアンが入ってきた。
「あれは、便宜上M-01と命名された。M-01の暴走はおそらく、これが原因だろう。」
彼は胸ポケットからデイヴのネックレスを取り出して皆に見せた。
「USB型チャームの中央に大きくヒビが入っている。これはおそらく、爆撃の衝撃で出来た傷だ。それにより、テイラーの記憶の転送が不完全なものとなってしまった。」
「そ、そんな…チャームを直せないの?」
デイヴが身を乗り出して言う。
ライアンはネックレスをしまいながら呟いた。
「これを直す手段は…あるにはある。しかし、今更直しても仕方がない。何故なら…」
彼はデイヴが眠っている間に起きた出来事を事細かに説明した。
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デイヴが診療所に運ばれてから、コミュニティ内ではテイラー、即ちM-01の処遇を巡って議論がなされていた。
ますます力を増している豪族勢力への対抗手段として兵器活用を促す声も一部見受けられた。
しかし、多くがM-01の未知の力、暴力性を目にしてしまった今、危険分子として排除を申し出る声が圧倒的多数を占めた。
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「すまない、俺の力は及ばなかった。M-01はやはり我々の手には負えない力を秘めている。俺は開発者として責任を取るため明朝、あいつの廃棄を言い渡された。」
彼は震える手でリモコン状デバイスを取り出した。
「これであいつを完全に再起不能にすることが出来る。」
彼はそのまま重い足取りで部屋から立ち去った。
「そんな…スクラップってつまり、兄ちゃんを《《殺す》》ってこと?」
デイヴが目を丸くして唾を飲み込んだ。
「…だから、あいつはテイラーなんかじゃない!機械は《《壊す》》だけだ!」
エリサがもう一度強めに言う。
デイヴはショックのあまりベッドの上から飛び出してしまった。
仲間たちは何も言えないまま、彼の遠ざかる背中を見つめるしかなかった。
彼の行く先は決まっていた。
兄との秘密の約束の場所、"見晴らしが丘"だ。
「やっと、また会えたと思ったのに…そんなの無いよ…」
デイヴはその場にしゃがみ込むと同時に自然と大粒の涙が手を伝わっていくのを感じた。
──その時、背後に何者かが降り立った気配を感じ取った。
「誰?」
彼が振り返ると、そこに立っていたのはM-1だった。
「どうして、ここに?!」
彼が驚きの眼差しを向けると、M-01は語り出した。
「カレガ…ワタシヲ…ニガシテクレタ。」
(彼が私を逃がしてくれた。)
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──その頃、ライアンの自室では。
彼はダミーのアンドロイドの傍に立ち尽くし、ボソッと呟く。
「俺には、とてもお前を殺すことは出来ない。俺は確かにあの時見た。M-01が動き出す前にする手を払うような仕草を。あれは完全に《《テイラーのもの》》だった。俺は二度もお前を失いたくない…。」
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「どうして、ここが分かったの?」
デイヴが不思議そうにM-01に尋ねる。
「ワタシ…ニモ…マッタク…ワカラナイ…ダガ…ココハ…トテモ…オチツク…トコロダ…」
(私にも全く分からない。だが、ここはとても落ち着く所だ。)
M-01は静かに呟いた。
その瞬間、デイヴの心の中に一筋の光が差し込んだ気がした。
(兄ちゃんは、この場所のことを頭では忘れていても《《心》》では覚えていてくれたんだ!)
「やっぱり、兄ちゃんだよ!」
デイヴは目を輝かせながらM-01に向かって言った。
「キミノ…カオヲミテイルト…ムネガ…アタタカクナル…キミノ…ナハ?」
(君の…顔を見ていると…胸が…暖かくなる…君の…名は?)
「僕はデイヴ。デイヴだよ!」
M-01は目を瞑り、しばらく考えた後口を開いた。
「モウシワケナイ…ナマエハ…オモイダセナイ…シカシ…ワタシハ…タシカニキミトスゴシタキオクガ…!)
(申し訳ない…名前は…思い出せない…しかし…私は確かに君と過ごした記憶が…!)
M-01は頭を抱え悶え出した。
(そうか…兄ちゃん、僕にミレクリスタルを託してくれた頃にはもう、僕の名前も忘れかけていたのかもしれない…)
デイヴは少し目線を落とすと、再びM-01の方を向き直した。
「…これから、どうするの?」
「ニガシテクレタ…カレニハ…モウシワケナイガ…ジシュ…スル…」
(逃がしてくれた彼には申し訳ないが、自首する。)
「自首?どうして?」
「ワタシノ…チカラハ…トテモ…キケンダ…ワタシハ…コノセカイニ…イナイホウガ…」
(私の力はとても危険だ。私はこの世界にいない方が…)
「そんなことは無い!」
M-01の言葉を遮るように背後の木の影からエリサが現れた。
彼女の眼差しは真剣だった。
彼女の傍には母、それに仲間たちもいる。
「悪い、跡をつけてきちまった。」
ドンが照れ臭そうに頭を掻きつつ言った。
「テイラー、デイヴには君が必要だ。」
エリサがM-01に向かって訴えかけるように言う。
「そう。見た目なんて関係ないわ。愛する我が子がそう言う限り、あなたはテイラーなのよ。」
母がM-01に向かって優しく手を差し出す。
「あの子を…デイヴを守ってあげて…」
M-01は静かに頷くと彼女の手を優しく握り返した。
「ついでにライアンからの手土産を持ってきたよ。」
エリサが包みを取り出すと、その中にはデイヴのネックレス、リモコン型デバイス、そしてネックレスを修理出来る修理屋までの道のりを示した地図だった。
「もしも、またテイラーが暴走するようなことがあったらコレを使えってさ。アイツったら、自分で直接言えばいいのに。」
「僕たち、旅に出て良いの?」
デイヴが目を輝かせる。
「まさか、2人だけで行くつもりじゃ無いだろうな?」
ドン、カズ、ジェシカが元気よく前に進み出る。
「もちろん、皆んなで行こう!」
デイヴは母、エリサと最後の別れの抱擁をするとネックレスを握りしめ直し、5人で新たな旅路の一歩を踏み出した。




