第8話 兄の幻影
「敵の奇襲だ!逃げろ!」
デイヴたち4人がライアンの家を訪れた翌朝のことだった。
突然、豪族の手下たちがコミュニティを攻めてきたのだ。
「貧民の盗っ人ども!我らからくすね盗ったミレクリスタルを返せ!」
先頭で敵の指揮をとっているのは、5年前にコミュニティを裏切り、現在は敵の配下に下っている双子のうちの一人、ドゥーイだった。
5年前の戦闘の傷により右目に眼帯を付けている彼は村に対して容赦無い爆撃を命じている。
「候補生は人々を避難シェルターまで誘導しろ!」
ライアン隊長の声が響き渡る──。
デイヴのコミュニティは今まで数年おきに場所を転々としており、豪族の目を出来る限り掻い潜っていた。
そのため、ここ数年はこの地で平穏な時を過ごすことが出来ていた。
彼は義賊候補生として活動してはいるが、実務に就くのは経験を積んだ青年ばかりで、彼ら候補生は専ら近所の手伝いを仲間たちと分担して行っていた。
だから、実際の敵との戦闘は彼にとって初めてのことだった。
彼は命令に従い、母や仲間たちと一緒に避難シェルターに隠れていた。
外からは物凄い地響き、そして爆音がこちらにも伝わってくる。
その時、デイヴのペンダントが昨日のように再び蒼白く輝いた。
「俺、呼ばれている気がする。」
そう呟くと仲間たち3人に向かって早口で言った。
「頼む。母さんのことを見ていてくれ。」
彼はそのままシェルターの出口へと駆け出した。
「おい、デイヴ!指示を無視するな!」
カズたち仲間の呼びかけを背中に受けつつ、彼はシェルターから地上へと出た。
耳をつんざくような警報ベルと共に、混乱した人々の激しい往来の波にデイヴは押しつぶされそうになる。
ライアンの家の方に近づくにつれ、ペンダントの光量も大きくなっていく。
(良かった…まだ無事だ…!)
家の周りの瓦礫を退かしながら、例のアンドロイドが置かれていた場所へと辿り着く。
急いでアンドロイドの上にペンダントをかざす。
すると、USB型チャームがアンドロイドの身体に吸い込まれてゆく。
目を覆うほどの眩い光に包まれた次の瞬間──。
スドォォォォォォォン!!!!!!
敵の爆撃が近くに命中したのだ。
彼は一瞬、時が止まったように感じた。
身体が大きく宙を舞っている。
(あ…僕…死んだ…ごめん…母さん…皆んな…)
その時、彼の身体が物凄い勢いで急上昇した。
(《《何か》》に抱き抱えられている…)
それは彼が幼い頃、不注意で深い穴に落ちた時、兄に助けられて抱えられた時の感覚そのものだった。
「にい…ちゃ…ん…?」
アンドロイドは静かに着地する。
「兄ちゃん…なの?」
「…《《ニンゲン》》ノアンゼンヲカクニン…。」
ボソッと呟いたかと思うと、アンドロイドは天高く飛び立っていった。
彼は飛んでくる幾多の砲撃を全て素手で弾き返している──。
──────────────────
一方その頃、ライアン隊長はかつての仲間であり、隊の裏切り者のドゥーイと対峙していた。
「俺たちの…故郷の…死んでいった仲間たちの仇!」
ライアンがライフル銃の照準を敵に据えながら唾を飛ばしつつ叫ぶ。
「お前は、俺たちの故郷を攻撃して何も心が痛まないのか!」
「フン、俺たち孤児に故郷なんてものはねぇんだよ!俺は金払いが良い方につく。それだけだ。俺はこの幸福を享受している!」
ライアンは怯まず、すかさず言い返す。
「弱者から搾取した偽りの幸福が何になる!」
ドゥーイは戦車のハッチからライアンを見下ろし、軽蔑するような視線を送る。
「さァ、大人しくこのコミュニティの主電力となっているミレクリスタルの在処を白状しろ。さもなくば、ここは皆殺しにしても良いとの指示が出てる。」
冷徹な言葉がライアンに向けられる。
「死んでも白状なんてするかァ!」
ライアンは銃を発砲、ところが不運なことに弾切れだった。
「哀れだなァ!神にも見放されたか、負け犬どもが。やれ!」
ドゥーイは戦車の操縦士にライアンに向けて砲撃を命じる。
「俺は…俺たちの正義を貫く!」
ライアンはそう言い放つと戦車に向かってナイフ一本で突っ込んでいった。
(…テイラー…他の皆んな…俺もすぐにそっちに逝くぜ…)
戦車がライアンに向かって砲撃…《《したはずだった》》。
何と、次の瞬間には主砲が曲がって上を向いていたのだ。
「一体、何が起きたんだ…?!」
ドゥーイが状況を飲み込めずにあっけに取られる。
目にも止まらない速さでアンドロイドが主砲を怪力で捻じ曲げていたのだ。
「なんなんだ、この兵器は…?!これもミレクリスタルで動いていると言うのか?!」
ドゥーイは目を擦り何度もアンドロイドを見る。
「あれは、俺のヒト型マシン…どうして動いてる…?」
ライアンは自分の目が信じられない。
「…ニンゲンヲマモル…」
アンドロイドは静かに呟くと、戦車に思いっきり回し蹴りを喰らわせる。
戦車は爆発と共に大破し、横転した戦車を起こし、ハッチを確かめた時にはもう既にドゥーイの姿は無かった。
戦乱が終結し、シェルターから人々が続々と出てきてアンドロイドの周りに集まる。
「あれは…一体…何だ…?」
人々がざわつき始める。
「僕の…兄ちゃんだ。」
デイヴが皆の前に進み出て言った。




