第4話: 過去、そして現在
「はぁ…。これだから貧民のウジ虫どもは困る。叩いても叩いても次から次へと…。」
ブランフォード氏は呆れたような表情を見せ、テイラーの方を見ずにため息をつく。
「ウジ虫…?ウジ虫には何も出来ないと?」
と憤るテイラーを無視しながら彼は話を続ける。
「他の豪族は手ぬるい。ウジ虫は巣ごと消し去らねばならぬ。それは他ならぬ私の役目だ。神に選ばれた私のな。」
「神…だと…?まさか……。貴様は集落まで根絶やしにするつもりか!!!」
(そんなことさせるかよ!!!)
不治の病が悪化し、記憶障害が深刻なまでに進行した彼の脳が決して忘れなかったもの、それはコミュニティに残してきた母や弟、そして今まで自分を育ててくれた全ての人の姿だった。
「最期くらい孝行してやる!!」
そう言って彼は警護兵たちの静止を振り切り、ブランフォード氏に掴み掛かり窓ガラスを割るとブランフォード氏共々勢いよく飛び降りた。
「放せ、放せウジ虫め!!!」
テイラーと共に奈落に落下しながらもがき苦しむブランフォードに向かって、テイラーは起爆装置を取り出しスイッチを構える。
「ウジ虫と一緒に地獄に堕ちな!」
カチッ
次の瞬間、ものすごい爆風と共に全てが吹き飛んだ。
エルサとライアンは外壁の影に隠れて難を逃れ、場の混乱に乗じて脱出に成功した──。
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──それから5年後。
義賊を半ば引退し、酒場の店主をしているエリサの元に足繁く通い、豪族に対して一矢報いる伝説を遺したテイラーの英雄譚を聴くのが日課となっているのは、他でもない彼の弟であるデイヴ・ドレイクだった。
デイヴは今、憧れの兄を目指して義賊見習いとして働いている。
今日もここに話を聴くために来たのだ。
「と、言うことはブランフォードは兄ちゃんが倒したの?」
目を輝かせながら尋ねる彼に対し、
「そ、それが……。」
とエリサは伏し目がちに呟く。
「え?どういうこと?」
デイヴは目を丸くする。
「彼は有り余る財力を使って、不老不死の研究をしていたというわ。だから、それも相まって"奴はまだ生きているんじゃないか"という憶測っていうか迷信みたいなものが広まってるのよ。」
不安そうな顔をする彼に対し、彼女は笑って場を和まそうとする。
「でも、もし本当にそうだとしたらヤバいんじゃ。奴は僕たち貧民街を根絶やしにしたがってるんでしょ?」
彼の問いの答えに困った彼女は、ただただ黙るしか出来なかった。
そんな、彼女の心中を察してか、デイヴは
「兄ちゃんがエリサ姉の初恋の人だったってホント?」
と、身を乗り出す。
単刀直入なデイヴの言葉にエリサは頬を赤らめながら答える。
「アンタねぇ!レディにはもっと…こう…あるでしょ!」
彼女の顔に自然と笑みが溢れる。
彼はフフフンと得意げな笑みを浮かべながら首から下げているネックレスの先に付いている長方形の物体をいじっては眺めている。
「それってUSB?」
エリサが訝しそうに尋ねると、
「そうだよ。兄ちゃんが僕に遺してくれたんだ。これは僕や母さんを守ってくれるんだって。」
と、デイヴが得意そうに答える。
「そのUSBの中って何が入ってるの?」
続け様に彼女は聞く。
「それが、何度も中のデータを解析してみようと思ったんだけど、どういうわけか、どうしても見れないんだ。」
彼は項垂れながら言った。
"うーん"と暫く考えるとエリサは何かを閃いたように指を鳴らした。
「ライアンに頼んでみれば?アイツは今、義賊隊長だけど機械いじりを専門にしてるし、聞いたら何か分かるかも。でも、アイツは5年前のことを思い出したがらないから、聞くなら慎重に聞いて。」
「そうか!」
今まで兄のように慕うほどだったライアンに一度もUSBのことについて聞いたことがなかった自分を"なんて馬鹿なんだ"と思いながらデイヴはライアンの作業場目指して走り出す。




