episode,Ⅳ:聖綴なる人物
「キャッ‼」
「うわっ‼」
「痛い痛い‼」
「痛っえぇ‼ 石投げんなクソが‼」
四人の姉弟達が口々にそう喚く。
「帰れクソ共‼ 俺の事はもう放っとけ! じゃあねぇと手下使ってお前等全員犯させてボコるぞ‼」
実際にはいない手下を口に出して、四人を脅すと姉弟達はこれに戦々恐々としながら、その場を後にした。
過去、釘鎹聖綴に聞かれた事を思い出す。
自分の実弟は可愛くないのか、と。
小さい頃は好きだった。
しかし父親が病気を患い死んでからまだ幼い二人の弟を、上の姉二人が面倒を見るようになってから自分の居場所がなくなり、次第に心も離れていった。
二人の弟もヴェルハルトよりも上二人の姉の方に一番懐く様になっていた。
大好きだったフィンランド人の父を失い、居場所を失い、このスラムに自然と足が向いた。
そして聖綴と知り合って自分に懐く彼に気持ちが向く様になったが、その実弟よりも可愛い義弟をも失って、いよいよ以って柊ヴェルハルトは大きな孤立感を抱く様になった。
「この世はクソだ。結局やっぱどこにいても、つまんねぇ……」
ああ、俺はこの世に生きていてもいいのだろうか。
死んだ方がずっと楽なんじゃないだろうか。
ヴェルハルトが火の点いた煙草を墓にいつも供えるものだから、短くなった煙草の吸殻が少しずつ山積みになっていっていた。
持っていた折り畳みナイフを、カチャカチャろ手の中で何度も振り回してナイフの出現を繰り返しては、時々自分の手首に当ててみる。
そうして表皮一枚に傷が出来るくらいの強さで、ナイフを引く。
十四歳のヴェルハルトは、ナイフ所持だけでも警察に見つかれば銃刀法違反で逮捕される。
「く……っっ、うっ、うっ、うっ、う……っっ、聖綴、父さん……」
ヴェルハルトは上空を見上げ目の上に腕を置くと、涙を流して嗚咽を漏らし始める。
日を追うごとに、ヴェルハルトは何もがどうでも良くなり始めていた。
あれ以来、家族は誰一人ヴェルハルトを迎えには来なくなった。
金には困らなくなっても、誰一人もヴェルハルトに近寄らなくなった。
それは余計に、ヴェルハルトの心に開いた穴が大きくなっていった。
ある夜、夢を見た。
その人物の異形の姿をしていた。
ただ、翼を持っていたので悪い奴ではないと、勝手に解釈した。
『ヴェル。少し会わなくなってから、痩せたか?』
その人物は、そう声をかけてきた。
「誰だお前。図々しくヴェルと呼ぶな」
『そうか我の姿では判らないであろうな。では、この姿ならどうだ?』
その人物は言うと、背中を丸めて自分の膝を抱えた。
「何やってんだお前……──⁉」
ヴェルハルトはここまで言って、目を見張った。
「──聖綴……‼」
『ごめんヴェル……勝手に俺、死んじゃって』
「聖綴‼」
ヴェルハルトはそう声を上げ、聖綴を抱き締めた。
涙をポロポロ零して。
「俺も連れてってくれよ聖綴! お前がいる所に、連れてってくれ……‼」
『それは……──無理だなヴェルよ』
「⁉」
これにヴェルハルトは顔を上げる。
『何故ならば釘鎹聖綴は、我の仮の姿だったからだ』
「何言ってんだよ聖綴……言っている意味が解かんねぇって……!」
『つまり聖綴の本当の姿は、この我であったと言う事だ。つまり、我は聖綴の核なる存在だ』
その言葉と共に聖綴は、ナムウドッグに姿を戻す。
これに改めて驚愕するヴェルハルト。
しかしすぐに、目を吊り上げて怒鳴った。
「ふっざけんなクソ野郎っっ‼ てめぇが聖綴だと⁉ あいつはまだ十二歳の子供だぞ‼ しかも人間の‼ てめぇみたいな化け物じみた姿はして、ねぇ──……っっ⁉」
ヴェルハルトの言葉が終わらないうちに、またその人物はヴェルハルトの目の前で聖綴になって見せた。
そして語り始める。
『──釘鎹聖綴、十二歳。両親は赤ん坊の頃乗っていた自動車事故にて亡くし、唯一生き残った聖綴は児童施設に預けられたが、二年前に脱走して柊ヴェルハルトと出会い、それ以来実の兄弟の様に行動を共にす。そして数か月前、不運にも暴走自動車事故にはねられて死亡──』
「……っっ‼」
ヴェルハルトは絶句する。
そんな彼を前に、聖綴姿のナムウドッグが言葉を続ける。
『まぁ、そのまま黙って我の話を聞け。単純な話だ。ただ、我が人間として人生を一度生きてみたいと言う気持ちからだった。それによりこの聖綴は生まれた。聖綴は我であり、我は聖綴であると言う事だ』
「生まれ変わり……転生……⁉」
『いいや全く違う。人間として生きてきた聖綴の肉体は、この我が入っていた"器"であったと言う事だ。つまり聖綴の魂はこの我であるのだ。そしてこの我には、不可能はない。人間にとっては、な』
「──っっ⁉」
『解かるぞヴェル。我も聖綴の人生を終えた時、随分混乱したものだ。しかし時がそれを解決してくれた……。ただ一つはっきり言える事はヴェル、汝を失いたくないと言う事だ。聖綴として、な。これは聖綴の異世界転生でも転移でもない。我の興味と好奇心による人間としての人生──……ゲームだと言うが悪い意味で受け取らないでもらいたい。よってヴェル、汝と言う大切な存在が出来たわけだ。よってこうして"夢"で、汝を聖綴として励ましに来たと言う事だ。ついでに真実も伝えてな。受け取れヴェル』
そうして聖綴の姿をしたナムウドッグはヴェルハルトに何かを軽く投げて寄こした。
それを上手く受け取るヴェルハルト。
「これは……ケータイ??」
『そうだ。家族にも恵まれず、十四歳の身で携帯電話を持った事がないだろうが、扱いは己で覚えていけ。その携帯で我……聖綴と連絡や通話のやり取りが可能だ。無論、普通の携帯電話としても利用可能だが支払いは発生しない。あくまで我が渡した物ゆえにな。ここまで話して、少しは把握出来たか?』
これにヴェルハルトは首をコクコクと、頷いた。
『良かろう。"少し"でも把握出来たのなら充分だ。ではひとまず、さらばだ』
こうして目を覚ましたヴェルハルトの手の中には、夢でやり取りした筈の携帯電話がしっかり、確かに握られていた。
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