episode,Ⅱ:最強の二人
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「我は空腹だ。さぞかし久方振りに戻った我の、好みの食事が用意されているのであろうな」
釘鎹聖綴──いや、今はもうすっかり性格も戻って本来の人物であるナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブの姿となって、だだっ広い白亜の階段を下りて来た。
すると。
「あぁああ! 漸くナムウドッグ様が戻られたー‼」
先程まで、ナムウドッグの耳元で囁きかけていた姿なき声の主が、目にも留まらぬ速さでベチンとナムウドッグにぶつかるが如く、くっ付いて来た。
最早貼り付いて来たと言っても過言ではない。
それは中指程の大きさをした、緑色の衣装を上下に着ている妖精だった。
ピクシーと呼ばれる種族の小人と言えよう。
羽根こそは生えていないが、身軽なのでそのピクシーはナムウドッグの上腕の素肌にくっ付いて来たのだ。
ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ──その姿は全体的に、象牙の様な肌色だが銀白色のショートヘアで耳は三又に分かれ鋭く尖った金属の様でありそんな耳にどうやって通したのか、輪っかのピアス。
顔の半分の左目はとても醜く眼窩に窪み、両手の右腕には指から始まる鱗から肘まで上る迄にはそれらが非常に頑丈で鋭い爪となっており、左腕には朱色の細胞の集合体──肉芽でも良い──がやはり右と同様肘まで浮き出ている。
その上腕には、"6"とも"9"とも取れる数字が円を描く様に三つ刻印されていて、その背にある両翼は蝙蝠の羽根の様な骨格に羽毛が生え揃っている漆黒だった。
蝙蝠の羽根の骨格には、何やら文字が彫られており形成もどうにも、歪である。
親指に当たる部分には三つのゴツゴツとした角。
その角に梵字が彫られているし、各指の間も歪な形になっている。
そしてドラゴンを思わせるような、野太く白赤茶色の尻尾も生えていた。
一糸まとわぬ全裸姿だが、隆々とした上半身と違い下半身は骨が浮き出る程に瘦せ細り、どうやってこんな逞しい上半身を支えているのか疑問に思える程だが、足は二種の獣の物で一本が肉食獣、もう一本は草食獣の蹄。
美麗さと醜悪さが集結した容姿をしていた。
両性具有の為それぞれの性器はあるのだが、不要の時は肉体内に収められている。
「釘鎹聖綴か。思いの外、なかなか楽しい人生を過ごさせてもらった。正直まだ、物足りなさはあるがな」
「愉しんで頂けたのなら恐悦至極で御座います」
テーブルに着いたナムウドッグに、酒が振る舞われる。
その酒をゴブレットで受けながらナムウドッグは、ギロリとピクシーを睨み下ろし口を開く。
「よもやこの我の為にと、わざわざ釘鎹聖綴の人生……用意されたものではあるまいな?」
「とんでもない! そんなインチキ臭い事はしませんよ~ぅ! きちんと、規則に乗っ取った上でナムウドッグ様は、聖綴として生を受けさせたのですよぉ~?」
「そうか。それを聞いて安心した」
ナムウドッグは言うと、ゴブレットの中の酒をクーッと一気に呷った。
「ウムンムゥウゥゥーッ‼ 久し振りにこの世の酒は旨いっ‼」
「喜んで貰えて嬉しいです‼」
「まぁ、聖綴の時にも酒を呑んでいたが、やはりまだ背伸びしたガキだったせいか、酒の味が分かる事はなかったな」
「でもナムウドッグ様も、聖綴の人生を生きてから、随分と変わられましたよぉ~?」
「んん? どんな風に?」
「そんな風にで御座います」
「そんな、風??」
「はいです。以前は無表情不愛想に無口でしたもの‼」
「ああ、そんな時もあったなぁ! でもこれは、ヴェルのおかげなんだ! ヴェルが我を変えてくれた──……」
直後、ポロポロとナムウドッグのフローライトの目の色をした双眸から涙が溢れ、零れた。
「ナムウドッグ様⁉」
「ああ……今頃ヴェルは、どうしているのであろうか……ヴェルとまた、酒が吞みたいものだ……今の様なこの旨い酒を、ヴェルと一緒に」
改めて酒を注がれたゴブレットを手に取ると、そのまままた一気にクィーッと呷った。
「……だだ、大丈夫です……よね? ナムウドッグ様……涙を流されるとは初めてでは……久方振りで逆に酒に呑まれたりしちゃ……」
「泪酒だ‼」
「はいぃ‼」
数日後。
一方柊ヴェルハルトは。
両親と同じ墓に入った聖綴の墓の前で、こちらもこちらで酒を呷っていた。
「聖綴ー! またお前と旨い酒が呑みてぇなぁ~‼」
彼も彼で似た様な事を述べていた。
「ほら、煙草もあるぜ! 吸え‼」
ヴェルハルトはそう言って煙草に一本火を点けると、線香立ての中にその煙草を立てた。
とても十四歳の少年の言動とは思えない。
「お前がいなくなってから、俺はもう何も出来なくなっちまったよ……」
ヴェルハルトは言うと、手に持っていた缶ビールをチビリと口にする。
十四歳──今の日本の法律は、少年法が十四歳からになっている。
よって、掏りや盗みなどの犯罪は、まだ十二歳の聖綴の担当だった。
その代わり、頭の良いヴェルハルトは聖綴の面倒を、良く見てくれた。
掏りや盗み、喧嘩等のノウハウも教えた。
スラムにさえいれば、口煩い姉二人が、ヴェルハルトを迎えに来れないのを学んで、以来このスラムに聖綴と一緒にいついたが、それにより喧嘩も絶えなくなった。
ヴェルハルトと聖綴の二人がいれば最強だったし、それで充分だったので他に仲間も作らなかった。
そうしてヴェルハルトはスルメの足をポリポリ齧っていると、何者かが彼へと近寄って来る気配がした。
これに緊張の糸を張るヴェルハルト。
三人、四人……いや、六人はいるか?
まぁ、大した数じゃねぇな。
ヴェルハルトは思うと一緒に持ってきていた日本酒を手に取った。
「グヘへへ! ほーらな⁉ やっぱーりだ! やーっぱり柊だぜこいつ‼ いつも一緒につるんでいたガキ、死んじまったんだってなぁ⁉ ギャハハハ! それでお前ボッチちゃんかよ⁉」
「俺らに十万差し出せば、傘下に入れてやってもいい、ぜ──⁉」
直後。
突然紅蓮の炎がそれら少年達へと襲いかかった。
ヴェルハルトがライターの火に日本酒を口から吹きかけたのだ。
「オラオラもう一丁だクソ共がぁぁ‼」
ヴェルハルトは言うと再度、行為を繰り返す。
「ギャッ、ギャアァァ―ッ‼ 火がっ! 火があぁぁ‼」
「うわあぁっっ‼ クソッ‼ 柊てめぇっ、覚えてろよぉぉっ‼」
「ハッ! バーカ! 一昨日来やがれってんだ‼」
「さすがヴェル! 一人になっても強ぇなぁ‼」
この言葉にハッとして背後を振り返るヴェルハルト。
しかし、そこには誰もいなかった。
「……聖綴……っっ‼」
ヴェルハルトは涙を零すと、その場に泣き崩れた……。
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