episode,Ⅰ:己の中の葛藤
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だらしなく口を開けながら、宙を舞う万札へ必死に手を伸ばす意地汚い大人達。
その為なら例え子供の屍を踏もうが蹴ろうが、気にしない。
そんな光景を、スラムエリアにいた住人達は負け組宜しく、眺める事しか出来なかった。
例えその子供の躯に、縋り付いて泣いているハーフの少年がいようとも、それさえにも気付かず、気にせずに。
罪悪感を覚える頃には後の祭り。
所詮偽善でしか、ない。
──「見えますかぁ~? これらの酷い光景が。これが人間の真の姿なのですよぉ~?」
「ここはどこだ。俺はどうなってんだ⁉」
間延びしたのんびり口調の甘ったるい女の声で語りかけられ、釘鎹聖綴は暗黒の周囲を見渡す。
足元だけが、地上の様子をまるでモニターの様に、曝け出している。
「ヴェルが泣いてる! ヴェルの元へ行きたい‼」
「それは構いませんけど、今の彼にはもうあなたの姿を目視出来ない為に、気付かれませんよ~ぅ?」
姿なきこの声が、聖綴を余計にイラつかせる。
「それでもいい‼ ヴェルを慰められるなら……っっ‼」
「まぁ、無駄な努力だとは思いますが、この際別に構いませんけど……誰にも見返りとか求めないでくださいねぇ~?」
この言葉と共に、聖綴は自分の屍の元に降ろされる。
「ヴェル! ヴェル泣かないで! 俺はここにいるから! ヴェルの元にずっと一緒にいるから……‼」
しかし柊ヴェルハルトは到着した救急隊によって運ばれていく聖綴の肉体と共に、救急車に乗り込んでその場から立ち去ってしまった。
「……死んだのは、俺だけか」
「いいえぇ~! 他の犠牲者もいらっしゃいますよぉ~? あの暴走車は斜めに道路を横断していますから、他の歩行者達が次々と犠牲に……おいたわしい限りです」
事故現場を、ケータイで動画を撮っている者もいる。
現場は阿鼻叫喚に満ちていた。
警察を乗せたパトカーも、次々と到着する。
金を入手した大人達は素知らぬ振りして、その現場を離れていく。
しかし動画にはしっかり撮られている。
後々、報道番組相手に売られるのだろう。
他の犠牲者の魂も、混乱して自分の肉体に縋り付こうとしている。
「……俺……死んだら天国か地獄に、行くんだよな?」
「いいえぇ~! 貴方は死んでいません。しっかり生きていますよ? しぃ~っかりとね!」
「生きてる……だって??」
聖綴は言いながら、周囲を見渡す。
「でも、さっき俺の体が……」
「ああ、あれは"器"ですね。はい。あれはあの人生を終えただけの事です。詰まる所の、"ゲームオーバー"ってヤツですね」
「……は? 意味が分からない」
「だから、貴方自身は生きているんです。あの少年の人生を貴方は、人間として生きて見ただけ、です。生まれ変わりとかでもなくて、演じていたと言えば、伝わります? 貴方は本来の自分に戻っただけ、です」
「演……じて……戻った、だけ……だって……? じゃあ……じゃあ俺は一体、誰なんだよ⁉」
「貴方様は、ナムウドッグ様ですよぉ~?」
「ナムウ……ドッグ……⁉」
「あーあぁぁ。だからやめておいた方がいいと言ったんです。ゲームオーバーになった時、本来の自分に戻っても暫くはその人物の人格の精神が抜け難くなるからって……あれだけお引止めしたにも関わらず聞かないから……その内いずれ、本来の自分に戻りはしますがそれまでがめんどい」
「釘鎹聖綴が……ただの現世でのプレイキャラだったって……⁉」
「そうですよ。ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ様」
「だったら……! この俺の、聖綴の感情や気持ちはどうなるんだよ⁉」
「直に、淘汰されます」
「とう、た……?」
「はい。ナムウドッグ様の経験値の中に」
「経験値、だと……⁉」
「つまり、能力の一つであります」
「能力の、一つ……──……??」
ここまで来て、聖綴は頭に手をやったかと思うと、ブルルと振るった。
「おや。少しずつ本来のご自分に戻ってきつつありますね。ナムウドッグ様」
「やめろ……! 俺は俺……釘鎹聖綴だ……っっ‼」
「まぁ、気持ちが落ち着いた頃にダイニングテーブルへお越しください。食事に致しますよぅ」
そうして姿なき声は黙して、まるでその場を立ち去った様に感じさせた。
改めてもう一度、周囲を見渡すと事故現場は再度足元のモニターとなり、漆黒の闇だった室内に戻って来ていた。
だが先程より、漆黒の闇が和らいできている気がした。
濃い、灰色。
「いいや……そんなわけ……!」
聖綴は言ってまた、無意識にブルルと頭を振るってから目を開くと、悪寒が走った。
室内の色が、先程の濃い灰色から更に薄い灰色までに、溶けていたからだ。
「この部屋が白亜になった時には、私は本来の自分に戻っていると言うのか……──っ⁉」
ここまで言って、ハッとする。
言葉遣いが、変わってきているのに気付いたからだ。
とても十二歳の少年の口調らしくはない。
「違う……! こんなんじゃない……俺は俺、釘鎹聖綴だ……‼ ヴェル、助けてよ……! ヴェルに逢いたい……‼」
言うや自分自身を抱き締めると、聖綴はヴェルハルトに助けを求めた。
直後。
──ズキン‼
「うっっ‼」
激しい頭痛が、聖綴に走る。
「く……っ、頭が……っっ‼」
聖綴は頭を押さえると、呻く。
そして自然に、また頭を横に振っていた。
よって室内の漆黒の闇は、すっかり消え去っていき仕舞いにはついぞ、室内は真っ白な部屋へと変わっていた。
「そうだ……確かに私は、人間の人生に憧れ、一人の人間として現世に降り立ったのだ……釘鎹聖綴として」
しかし聖綴の人生は、決して計画され描かれたものなどではなく、聖綴という人物全ての判断と環境の上で生きていく事を条件にした、人生なのだった。
なので、聖綴の本来の"核"である人物の判断によるものではない。
「ああ。私は間違いなく、ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブなる存在だ」
そう断言した聖綴の外見は、すっかり別の人物──本来の自分の姿に、なり替わっていた──。
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