episode,Ⅸ:嘆きの森と火の雨
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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森に二人が入ったのを見届けてから、ケンタウロスのケイロンは来た道を戻って行った。
森の中へ入った柊ヴェルハルトとナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブだが、ここでナムウドッグが改めて自ら釘鎹聖綴の姿に変わった。
「こっちの方が、ヴェルも物寂しくはないだろ?」
そう言って笑顔を見せる聖綴に、ヴェルハルトも微笑んで小さく首肯した。
「そうだな。助かる」
こうして改めて二人は、歩き始めた。
この森は陰鬱で、不気味な恐怖に満ちていた。
そこには不吉な樹木の森で、緑の葉はなく黒ずんだ葉が茂り、よく見る木の形ではなく奇妙で歪に捻り曲がった枝に実る果実もなく、代わりに毒を含んだ棘が生えている。
この森は最早野獣でさえも棲む事を拒む程の凄惨な密林だった。
そんな中で、周囲の至る所から嘆き悲しむ啜り泣きが響いてきた。
だが見回しても誰も、姿形も見当たらない。
「ふぅ~ん……」
そう一人、先に納得したのは聖綴だった。
そしてヴェルハルトへ声をかける。
「ねぇヴェル。適当にこの森の木の枝を、一本折って見なよ。何か解かるかもよ?」
「ふむ、そうか?」
聖綴の言葉通り、側にあった木の小枝へ手を伸ばして、ポキンと折ってみた。
直後。
「何故私を折る⁉」
その幹は叫び声を上げた。
これに驚いてヴェルハルトは思わず、その折った小枝をそのまま引きちぎってしまった。
同時に、黒い血液が流れ出た。
「何故私を引きちぎる⁉」
更に幹は絶叫を上げた。
「お前には、哀れと思う感情がないのか? 我々も人間だった、今でこそ枯れ木になっているが、例え我等が蛇の亡霊であったとしても、もっと慈悲深くあるべきだ!」
ヴェルハルトはこの状況に少しだけ恐怖を覚え、握っていた小枝を落として立ち尽くしてしまった。
これに聖綴は小さく笑ってその木へ謝罪した。
「ごめん。俺がやらせたんだ。悪いのは俺だよ。自分は人間だったと言ったよな? 名は?」
「私は皇帝の最も大切にしていた鍵二本を、預けられていた者です」
名こそは名乗りはなかったが、その木はそう述べた。
その木は、その"皇帝"の廷臣を務めていた者だと分かる。
そうでなくては皇帝自らが、それ程大切な鍵を預けたりはしないだろう。
しかしある時、この木の彼は突然逮捕され、牢獄に投獄されて両眼を焼かれ、盲目となった。
所謂無実の罪をかけられたのだが、彼は牢獄の中で壁に頭を打ち付けて、自害したそうだ。
そうすれば、この濡れ衣を晴らす事が出来るのではないかと、思ったからだがそれもまた、間違いだと気付いた時にはもう既に遅しだ。
この様な枯れ木姿の罪を与えられた。
どうやらこの第二円環の地獄は、自殺したというだけの罪で第七圏谷第二円環の刑罰は、自殺者の亡霊を枯れ枝に閉じ込められるわけだ。
「しかしよぉ、何で自殺したら木にさせられちまうんだよ?」
ヴェルハルトの疑問に、この枯れ木は答える。
「その魂が自らの手で命を絶って肉体から離れた時、裁判所のミノスは第七圏谷へ魂を送り込む」
落ち行く先はこの森だが、席は別に決まっていない。
運命のままに飛ばされた所で芽を出し、若枝となり野生の大樹となる。
だが鳥身女面の怪鳥がその葉を啄み、苦痛を与えてくる。
"最後の審判の日"に皆と同様、彼等も亡骸を探しに行くが、誰一人それを身に付ける事が出来ない。
自分で捨てた物を付けるのは道理に合わないからだ。
「よってここまで私達は亡骸を引き摺って来る。この悲惨な森の至る所で私達の肉体は、それを苛んだ自分の魂の茨の木にぶら下げるのだ」
そして木にされた亡霊達に刑罰を与えているのは、鳥身女面の魔女ハルピュイアである。
この自殺者の森に巣食っているのは醜悪なハルピュイアで、鋭い爪の足でこの奇怪な樹の上にとまって嘆声を発する。
"最後の審判の日"──他の亡者達はキリストによる審判の日が訪れた後、この世に戻って生前に着ていた肉体を再び纏う事になっているのだが、自殺者は神から与えられた肉体を勝手に放棄したので、二度とそれを纏う事が許されないのである。
その枯れ木の語らいを聞いていた周囲の他の木々達も、おいおいと嘆き悲しんでいた。
その泣き声が余計に、同情心よりも恐怖心を仰ぎ、その合唱にヴェルハルトは不気味がって聖綴へと促した。
「おい聖綴、早いとこここを去って次へ行こうぜ」
「ああ、うん。そうだね。ここにはナムウドッグの求めるものは、とてもありそうにないしね」
聖綴も承諾すると、先へ進んだ。
第二円環を形作っている自殺者の森を抜け、第三円環が見渡せる場所に辿り着いた。
遠くに目をやると、大勢の亡者達が泣き喚いている姿が見えた。
ある者は地面に仰向けに伏せ、ある者は身を縮めて蹲り、ある者は絶えずほっつき回っている。
歩き回っている者が一番数も多く、横たわって責められている者は少ないが、それでも痛い目に遇う度に大声で喚いた。
この地獄の円環に閉じ込められている罪人達は、神と自然と法に暴力を振るった者、背いた者達だった。
そんな彼等が受けている刑罰は、火に焼けた砂地の上に放置され、上からはまるでマグマの粒の様な雪状の火炎を浴びせかけられている。
よって罪人達は身体に降りかかってへばり付く火の粉を、永遠に払い除けなければならず、その中で無駄に逃げ惑っている。
いよいよ聖綴とヴェルハルトは第三円環の中へ歩を進めたが、砂地の内部に足を踏み入れられずにいた。
やむを得ず二人は、自殺者の森の縁に沿って歩みを進めた。
何にせよ、その砂地に入るも空から火の雪やら雨やらが降るのであらば、ただでは済まない。
聖綴とヴェルハルトは砂地の中を眺め回しながら歩いた。
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