episode,Ⅷ:暴君が味わう地獄
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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これに柊ヴェルハルトがふと歩いた様子を見た時、彼が踏んだ所が動くのに気付き、更に驚嘆した。
「死人の足ならそうはならない‼」
「確かに彼は生きている。彼独りに限らず、この俺も。だがこの場合は状況が違う。俺は天地現世の住人であり、彼は人間の子供だ」
釘鎹聖綴が一歩前に進み出て、ケイロスへと声高に述べた。
「いやいや、お前もその人間の子供ではないか」
ケイロスの発言に、周囲にいたケンタウロス達がドッと笑った。
「俺はこの子供の姿形を借りているのみ。俺の本当の姿は、これだ」
聖綴の言葉を合図として受け取ったヴェルハルトが、聖綴の目を片手で塞ぐとその名を唱えた。
「ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ、現れ出でよ」
すると聖綴が背中を丸めたかと思うと、ムクムクと大きくなりその名主の姿に戻った。
これにケイロスは警戒して大きく後ろへ飛び退くと、弓矢をナムウドッグへと構えた。
「案ずるな。我は汝等に一切危害を与えぬ。我は、自分探しにこの地獄巡りをしている」
ナムウドッグの言葉に、ケイロスは短く笑った。
「フン! お前、自分が判らんのか。それだけ特徴的な外見をしているにも関わらずにか」
ケイロスの軽い挑発に、周囲のケンタウロス達もせせら笑う。
「だからこそだ。特徴的すぎる故に、我自身が何者なのか、混乱を極め判らぬのだ」
ナムウドッグはあくまで冷静に述べた。
「それで、その──……」
ケイロスは口を開くと、ナムウドッグに何かを促した。
これに気付いてナムウドッグは、改めて名乗る。
「ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブだ」
「ふむ、ナタスレグアトサエブ。貴様の様な奴が何の因果で、この人間の子供と共に、この世を旅していると言うのだ」
「我が興味本位で人として人生を送ってみたいと望んだ事により先程の、我が変わっていた人間の子供に生まれたのだが事故死してしまい、大親友であったこの少年をこの世に独り、残す羽目になり気にかけた所この……ヴェルが我と共に行きたいと望みこうして、旅をしている次第だ」
「人間の子だぞ貴様‼ 正気か⁉ 何かあったらどう守るつもりだ‼」
ケイロスがナムウドッグへ怒鳴りつけてきた。
「あ、そこは大丈夫。こいつに不可能はねぇから。な? ナムウドッグ!」
ナムウドッグの決まり文句を、ヴェルハルトが代わって述べた。
「……つまり種族を越えた友情とやらか」
「そ!」
いまいち理解不能気味のケイロスの言葉に、ヴェルハルトが首肯する。
「そうか。両者納得の上なのだな。ならば、良かろう。我々も協力してやっても良い」
ケイロンは言うと、警戒を解く。
「それで、自分探しと言ったな。ナタスレグアトサエブとやらよ」
「ああ、そうだ」
「ふぅ~むぅ……」
ケイロスは顎に手をやると、まじまじとナムウドッグを舐める様に眺め回した。
そして、言った。
「お主からは、我々"獣"と同じ臭いがする」
これにナムウドッグは片眉を吊り上げた。
「似た様な言葉を、他でも言われたぞ……ならば我は──」
「しかし生粋な獣ではない。神聖なるものを感じ取れる辺り、な」
ケイロスの発言に、ナムウドッグは大きく嘆息を吐いた。
「やはり、そなたも解からぬと言う事よな」
「……だな。力不足だ。スマン」
「ならば、先を進ませてもらう」
「そうか。ひとまず一応、私から案内しよう」
ケイロスは述べた。
ナムウドッグは久し振りに本来の外見に戻ったので、そのままの姿でヴェルハルトを横向きに抱き上げ、翼を広げた。
真っ赤に沸騰している血の川プレゲトンの中で、亡者達が刑罰を受けている。
ローマのアレクサンドリア大王は、あらゆる民族を剣で刺し貫き、略奪の限りを尽くし大成功させた盗賊扱い。
シチリアに長い苦難の年をもたらした残忍なディオニュシオス等々。
川からは、更に強暴な者達が呻き声を出していた。
熱湯となった血が眼球の高さまで達していたので、高熱が涙を枯らした。
そこで悶絶していた暴君は他に、新興ローマを苦しめたマケドニア王ピュロス等もいた。
歴史上、有名な人物だらけにも関わらず、ヴェルハルトは一切興奮する事はなかった。
理由は、学校に満足に行っていなかったので、勉強不足からだった。
それにこの煮え滾る血の川で刑罰を受けている者共には、興味さえ抱けなかった。
「あー、この中の連中、すっかり煮え滾っているなな。皮膚も大火傷でベロベロに剝けてるし」
ナムウドッグの腕の中で、ヴェルハルトが平然と述べる。
「でも俺……現世で聖綴が死んでからは、喧嘩に明け暮れてたから俺も死後地獄に堕ちるなら、ここなんだろうな」
「お前は地獄には堕ちない。我の力でお前を天国に誘う」
「クク……ありがとうなナムウドッグ。少しずつだが聖綴の頃の性格がお前の中で浸食されつつあるな。それが俺は嬉しいぜナムウドッグ」
「我は我だ。もう、聖綴では、ない」
ナムウドッグはそうヴェルハルトに答えると、最早煮え滾っている川の水面で、亡者達は尚一層呻き声を上げていた。
そんな川を渡り終えると、ナムウドッグはそっとヴェルハルトを地に降ろす。
「サンクス、ナムウドッグ」
「感謝する事ではない。ただ当然の事をしただけだ」
「その当然の事を、お前は出来たんだよ。今までなら、出来なかっただろう?」
「むむ……」
ヴェルハルトに諭され、ナムウドッグは言葉に詰まるのだった。
「ヴェルだから、特別だ」
ナムウドッグは言うと、照れ隠しにプイとそっぽ向いた。
「ありがとうよ兄弟」
これに更にナムウドッグは顔を紅潮させた。
ケンタウロスのケイロスが頭上を飛ぶナムウドッグへ、声をかけてきた。
「ここだ。次の行き先の入り口は」
ケイロスの言葉に、地上へ降り立ち腕からヴェルハルトを下ろすナムウドッグ。
「入り口って……獣径すら見当たらぬが?」
「ああ。小径一つないが、この森の中が次へと続く、第二円環に繋がっている」
ケイロスの言葉に、ナムウドッグとヴェルハルトは目の前に立ち塞がる陰気臭いどんよりとした空気が漂う、森を見上げた。
その森は、空をも隠して生い茂っていた。
二人は背後のケイロスを一度見てから、お互い顔を見合わせ一つ大きく首肯するとケイロスへ振り返り小さく頭を下げた。
「ここまでの誘い、感謝する」
「ああ、助かったよ」
ナムウドッグとヴェルハルトはそう礼を述べると、森の中へと足を踏み入れてここでケイロスと別れた。
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