episode,Ⅶ:血の川プレゲトン
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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ディーテの城門を潜ると、そこには悲しみと苦痛に満ちた広大な平原が広がっていた。
ふと気付いて周囲を見渡すと、復讐の女神エリニュス三姉妹も、妖女ゴルゴン三姉妹や悪魔達も全て、姿を消しているではないか。
「誰もいねぇ……」
「この門を潜ったからからなぁ……?」
「そんな、〇〇でもドアじゃあるめぇし」
そうして二人、言葉を交わしていると、前方の光景の蓋が開いて中から炎を吹き出している墓が、一面に点在しているではないか。
ここは第六圏谷の、異教異端の亡者達が火炙りにされる地獄だった。
「おいおいマジかよ。本来なら安らかに眠る墓を、中身から火炙りにするとかエグくね⁉」
顔を青褪める柊ヴェルハルトの言葉に、釘鎹聖綴も首肯する。
「確かに」
そうしてどこか、肝試しよろしく恐る恐る、その平原──墓地の中を二人は少しずつ進んだ。
こうして第六圏谷の火炎の墓地を奥へ奥へと進む。
その間も、当然墓の蓋が開くと同時に亡者が火炙りにされながら、苦痛の絶叫と共に石棺に戻って蓋を閉めるのだが、三十秒もしないうちにまた石棺の中で火の手が上がり、亡者が火炙りにされるという行動を繰り返す。
ここは地獄なので、これらを百年、二百年それ以上と永遠に続くのだと思うと、ヴェルハルトはさすがにゾッとさせられずにはいられなかった。
ここは異教は勿論、無神論者等の異端も未来永劫の火炙りの刑に処される。
それを見聞きするにキリスト教とは、何とも残酷且つ強迫的な宗教とも言えた。
ヴェルハルトはこれらの光景があちらこちらで繰り返され見せられたものの、だからと言って恐れを為し自分はこの様になりたくないからキリスト教に入ろうだとは、考えはしなかったがそれ以前に父親に連れられて既に入信している。
昔と違い今のご時世そのほとんどが無神論者という時代だ。
行く先々でこの広場はそんな異端者できっと、溢れ返る事だろうと予想出来るのだった。
やがて次の圏谷と境界を成している高い岩壁に辿り着いた。
高い岩壁の上から地獄の下を見下ろすと、これまで見て来た亡者の群れよりも更に悲痛な叫び声を上げている群衆がいた。
その地獄の底辺から湧き上がって来た猛烈な悪臭に、聖綴とヴェルハルトは耐える事が出来なかった。
その悪臭に慣れて先を進む事が出来る様になるまで、崖の上で待機する事にした。
「臭いってよぉ……味覚にも関わってくるから余計に辛いんだよな……」
「うん……」
自分の衣類で鼻と口を塞いで述べるヴェルハルトの言葉に、聖綴もそう呟いて首肯した。
人が罪を犯す原因を『神曲』では、三種類に分類している。
それは"放縦"と"邪悪"と"狂った獣的行為"だ。
その中でも人間の放縦さ、すなわち自制する事が出来なかった為に犯した罪は、軽い事が多い様だ。
ディーテの城門を境界にして、内と外では罪業の重さが変わる。
例えば、第二圏谷の色欲の罪も、第三圏谷の大食の罪も、第四圏谷の浪費貪欲の罪も、第五圏谷の激怒の罪も全て、自制心の欠如から犯した罪だ。
だがこの城門の内側の地獄は、人間の過失や出来心だとは逃れられない。
邪悪さや狂暴さ、残忍さが起因する重い罪業を罰する圏谷になる。
やがて二人は、漸くこの重い罪業が放つ悪臭に慣れてくると、第七圏谷へ降りる場所を探して、歩き始めた。
すると地割れして出来たであろう険しい道が、崖の上から下の圏谷まで続いている箇所を見つけた。
二人は一緒にその道を突き進むと、崖道の入り口には牛頭人身がいた。
ミノタウロスは二人の存在に気付くや否や、憤怒し襲い掛かって来て聖綴とヴェルハルトに噛み付いた。
これに痛みを引き金にキレたヴェルハルトが、大声で叫んだ。
「てめぇいきなり一体何噛み付きやがるクソ牛が‼ 草食動物の分際で、当たり前の様に噛み付くんじゃねぇよ‼」
そうしてヴェルハルトは、ミノタウロスに大きく振り被った拳で、ぶん殴った。
これにミノタウロスは地面に倒れ込み、ヴェルハルトも拳を解いたその手をブンブン振りながら、尚も怒鳴った。
「クッソ固ぇこの牛の皮膚‼ 拳砕けるかと思ったぜ‼ ああ、痛ぇっっ‼」
その中で聖綴はキョトンとしながら、立ち尽くしてこれらのやり取りを見ていた。
ヴェルハルトから罵られたミノタウロスは、余りの悔しさに荒れ狂い始めた。
その怪人が我を忘れている間に、聖綴とヴェルハルトは岩石の間の道を駆け下りたが、生者であるヴェルハルトと聖綴二人の体重は冥界では重すぎた為、岩は崩れ落ちた。
しかし二人は問題なく、その険しい崖道を降りる事が出来た。
谷底には、真っ赤な血を湛える川が流れていた。
プレゲトン川だった。
まず、第七圏谷とはこの世で暴力を振るった亡者達が、刑罰を受ける地獄である。
三つの円環で構成されていて、その第一円環には他の人に暴力を振るった亡者達、特に暴君達がいた。
第二円環には自分自身に暴力を振るった者達、すなわち自殺者がいた。
そして第三円環には神や自然に暴力を振るった濤神者や冒涜者が刑罰を受けていた。
まず聖綴達は、最初の円環を形成している沸騰した血の川地獄が、崖の下の方に見える場所に着いた。
その地獄の刑罰を担当している悪魔は、半人半馬の怪人ケンタウロス達だった。
彼等は弓矢を持ち、川の周りを駆けていた。
そして聖綴とヴェルハルトの二人が崖から降りて来るのを見つけて、その中の三人のケンタウロスが弓を構え、遠くから怒鳴りつけてきた。
「お前等は如何なる刑罰を受ける為に崖を降りて来るのだ⁉ そこから大声で名乗れ! さもなくば矢を放つ‼」
「そうかよ、だったらてめぇの方からこっちに来て名乗れ‼」
ヴェルハルトの言葉に、血の川地獄で亡者達に刑罰を与えていた何千人もの群れの中から、大将のケイロンが聖綴達の元へやって来た。
そして驚嘆した。
「何と。まだ生きた子供ではないか!」
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