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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅲ:悪の溜まり場編
19/24

episode,Ⅵ:復讐の女神エリニュス

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 こうして舟で沼を渡っていると、一体の亡者が涙を零しながら釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)へと呼び掛けて来た。


「死ぬ前からここに来る奴は誰だ」


 これに冷たくあしらう聖綴。


「泣こうが悔もうが、お前みたいな罰当たりはここに居残りだ」


 するとその亡者は聖綴へ狙って、舟によじ登って両手を伸ばしてきた。

 それに対して(ひいらぎ)ヴェルハルトが、怒りを露わにする。


「他の連中共とここで一緒にいやがれ‼」


 そうしてその亡者を再度沼へと突き落とした。

 亡者が船から沼へ落下するや否や、沼に沈んでいた亡霊達が怒気を荒くしてその亡者を、グチャグチャに引き裂いた。

 その光景を後目に、聖綴とヴェルハルトは何とか沼を渡り切り、舟を降りた。

 いよいよディーテと呼ばれる城市が近付いて来た。

 重罪を犯した亡霊の住民共が大勢の守備隊に監視されている。

 その更に奥にある谷間の中にモスクも見えるが、まるで炎の中から出てきた様に真っ赤だ。

 それもその筈。

 この地獄の下層部で燃え立っている永却の火炎が、モスクを真っ赤に染めているのだった。

 城市ディーテまで二人は辿り着く。

 地獄都市の城門は、千人を超える悪魔達によって厳重に警備されている。

 それら悪魔達は、神との戦いに敗れ天国から追放され降って来た、堕落天使達の成れの果てであった。

 彼等は生きているヴェルハルトを見つけて、地獄の決まり文句を口にしてきた。


「死んでいないのに、死者の王国を通り抜けようとしている奴は誰だ」


「おっと。ここは今までと違って、様子が変わってきたぞ。どうする聖綴」


 ヴェルハルトは聖綴へと訊ねる。


「そうだね……」


 短く呟いて聖綴が暫し黙考していると。


「来るならお前だけ来い。あやつは戻るがいい。よくも図太くこの国へ入り込んだものだ。狂気の沙汰だ。来た道を一人で勝手に引き返すがいい。帰れるものなら、帰ってみろ。いいか。この暗い国へあやつを案内したお前は、ここに残るんだぞ」


 悪魔はそう、聖綴とヴェルハルトへと言い付けた。

 ヴェルハルトが悪魔の命令に従うとなると、ここまで辿って来た道を一人ぼっちで引き返す、すなわちヴェルハルトの"死"を意味する事になるのだ。

 すっかり顔面蒼白になっているヴェルハルトに、聖綴は炎の中の罪人達すら安堵する様な優しい笑顔を浮かべて見せた。


「元気出してよヴェル。俺はヴェルを下界には置き去りにはしないよ」


 ひとまず聖綴は、平和的に悪魔達へと是非ヴェルハルトも一緒にと、交渉をするが悪魔達は(かたく)なに認めようとはしなかった。

 どうやらこれまでと違い、状況が上手くいかない様子を目の当たりにしたヴェルハルトは、珍しく臆病風に吹かれて頬を引き攣らせていた。

 それに気付いた聖綴が表情を和らげて、ヴェルハルトへ言った。


「俺達はこの戦いに勝たなきゃいけない。俺が一切心を痛めず(・・・)とも、狼狽しないでね。例えあの中で如何なる者が邪魔立てしようと、俺は必ず試練を乗り切って見せるからさ」


 しかし、この悪臭放つステュクス沼に取り囲まれた、憂いの都市ディーテに入るのは容易くはない事を、ヴェルハルトに覚悟させるのには充分だった。

 気が付くと高い塔が目の前に迫って来ていた。

 塔の頂は真っ赤に燃え、三人の血に染まった地獄の復讐神が起き上がった。

 それは三人いて、その容姿や立ち振る舞いは女らしく、だが腰には濃緑の海蛇を巻き、頭には小蛇や角蛇が生えていた。

 すると門番の悪魔の一人が言った。


「見るがいい! 凶悪無残なエリニュス達だ。左手にいるのはメガイラ、右手で泣いているのはアレクト、中央にいるのがティシポネだ」


「別に自己紹介は要らねぇよ……何も今後よろしくするわけじゃねぇんだからよ……」


 ヴェルハルトがやや、げんなりした様子で言い返す。

 すると復讐の女神達が大声で叫んだ。


「メドゥーサよ出でよ! あの生者の小僧を石にしてやろう‼」


 これに聖綴がヴェルハルトへ素早く言った。


「後ろを向いて両目をしっかり閉じていて! 君がもしゴルゴンの姿を見てしまえば、もう二度と地上へは戻れなくなる‼」


 これにヴェルハルトは大急ぎで聖綴の言葉に従う。

 ちなみにメデューサとゴルゴンは、同義語だ。

 更にメデューサも三姉妹で、長女がステンノ、次女がエウリュアレ、そして末っ子がメデューサだ。

 復讐の女神達からの召喚に応え、濁ったステュクス沼の中からメデューサが姿を現した。

 途端に、物凄い嵐が巻き起こった。

 森の木々をなぎ倒し、とてつもない轟音が響き渡る。

 これに恐怖に怯え目さえ開けずにメデューサを見なければ、その妖女は無害のままその場を通過する。

 こうしてゴルゴンは通過したので聖綴とヴェルハルトは、そぉっと目を開き周囲の様子を確認する。

 すると、四人以上の彷徨える霊魂達が逃げ回っているのが見えた。

 そんな中で、ステュクス沼の水面を足も濡らさず渡って来る孤高なる者の姿が見えた。

 それは軽蔑の感情を平然と表情に貼り付け、杖を手に持った翼を背にする一人の天使だった。

 やがて天使は城門に立つと、杖で門を叩いた。

 これに門は、何の妨害もなく開いた。


「おお。天上を()われた蔑むべき者共よ……何故お前等はこの様な驕慢(きょまん)を心に抱くのか? その御意志が成就しなかった試しは(かつ)てない。何回も痛い目に遭ったお前等には分かっている筈だ。定めに(そむ)いて何になると言うのか?」


 そうして天使はディーテ城門の守護悪魔達を黙らせ服従させると、涼しい顔をして来た道を辿って天国へ帰って行った。

 これを見届けて聖綴とヴェルハルトは妨害もなく城内へと入る事が出来た。


「あの天使……お前に気付かなかったな」


「俺が聖綴の姿だからだと思う」


 ヴェルハルトの言葉に、そう聖綴は答えながら思った。


 "あの天使……普通に喋ってた。喋れるのか"



ここまで読んでくださったあなたへ祝福があらんことを!

大変ありがとうございます‼

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