episode,Ⅴ:天地創造の神と運命と言う名の女
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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何か来るっっ‼
柊ヴェルハルトとナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブは咄嗟に身構える。
──が、プルートは叫んだ。
「パぺ! サタン、パぺ! サタン、アレッベ‼」
この言葉に、ヴェルハルトが呟く。
「何かの呪文か……⁉」
それは、"ああ、サタン様、ああ、至高のお方サタン様"と叫んで、地獄そのものの統領に助けを求める祈りの呪文であった。
「こいつ自身が戦うんじゃねぇのかよ⁉」
またしてもヴェルハルトが述べる。
実はプルート、小心者の癖に威張り散らすタイプの悪魔であった。
この意味不明なプルートの発言により、段々警戒心と恐怖心を覚え始めたヴェルハルトに、ナムウドッグが肩に手を置いて励ます。
「ヴェル、心配して気後れするするでないぞ。奴にどんな力があろうとも、我等が岩を降りる邪魔立てが出来る筈がないのだ」
この言葉を聞いたプルートも、不愉快さを露わにする。
そして再度、口を開きかけたプルートへ、ナムウドッグは背後へ振り返り、睡眠から覚め吠え始めたケルベロスへ言った。
「静まれ呪われた獣。お前は自分の怒りで自分を中から焼き尽くすがいい。我等が暗い谷底へ降りるには理由がある。それは大天使ミカエルが神に背いた者を退治した場所、天上の思召しなのだ」
その言葉を言い残してナムウドッグは、再度釘鎹聖綴の姿へと変わると、ヴェルハルトを連れて次へと進む。
こうしてプルートの懸命な祈りを口にする叫び声を背後に、聖綴とヴェルハルトの二人は一切振り返ることなく前進すれば、当然の事だが次第にその声も小さく遠ざかっていった。
唯一、いつまでも響いていたのが、ケルベロスの咆哮だった。
やがて次へと下って行き、第四圏谷である"貪欲と浪費の地獄"へと辿り着いた。
そこでは生前貪欲であった者と、浪費的であった者が互いに相手を罵り合いながら、何やらしている様子だった。
貪欲の罪と浪費の罪とは、"程良く金を使う事が出来なかった"という表裏一体を為す罪だと言う事に、重点を置いている地獄らしいのだが。
「何やってんだこいつら」
肥え太った罪人と鋭そうな目つきをした罪人が互いに向かい合い、罵り合っている。
貪欲家の罪人集団は浪費家集団へ罵っている。
「何故浪費する‼」
一方で浪費家集団は貪欲家集団へ向かって罵っている。
「何故貯める‼」
そして両集団は重々しい丸い岩石を転がし、双方ぶつけ合うとそれぞれがまたもや同じ言葉で罵り合い、一息吐くのも束の間、すぐに元の場所へ引き返し同じ行為を繰り返す。
そもそも地獄とは、"永劫の場所"と呼ばれていてその理由は、地獄の刑罰はひとたび地獄の裁判所のミノスによって判決が下るとそれ以降、それ以上も以下にも重くも軽くも決してならず、赦される事なく永遠に同じ動作──刑罰を繰り返し続ける。
それこそが、本当の地獄の真骨頂、苦痛の真髄なのである。
よってこの第四圏谷の罪人達は、お互いがお互いに悪態を浴びせ合いながらこの圏谷の周囲を永遠にぐるぐる回り続ける運命となるのだ。
これをダンテの言葉を借りて言うならば、"運命"とは"女"なのだそうだ。
そのあらゆる知恵全てに超越する存在が"神"であり、何かともろもろを創造する立場であったとして、逆に別性である"女"が"運命"そのものであると言う。
この女の宣告に従い運命とやらを決定づけるらしいのだが、その宣告は真に草むらの蛇の様に、外からは目に見えない。
人間の知識では運命には逆らえないらしい。
とりあえず、そもそもその『神曲』も翻訳者次第で緻密な内容が若干変わり、または付け加えられ、もしくは削られたりとで少しずつ変わっているものだろうと推測出来るが、何にせよ運命に逆らえなくとも、"変える"事は出来るのではないだろうか。
しかしそれでも、それさえもがまた運命の手中と言われると、元も子もないのだが。
それでも唯一の至幸は、我々の自由意思が"運命"から切り離されている事だと言えよう。
しかしだからこそ、"善"と"悪"に違ったのだが。
さてはて、こうしてその第四圏谷の外れに歩を進めると、そこには沼があった。
泥水の汚い沼はステュクスと言う名の黒く陰鬱な沼を、好奇心で覗き込むヴェルハルトに合わせて、聖綴も立ち止まる。
するとその沼には、恐らく何も生き物はいまいと思っていた所で実際には、泥塗れの人間が浸かっていたのでつい、ヴェルハルトは驚愕してニ~三歩ステュクス沼から離れる。
それらの人間は全裸で──地獄にいる罪人は皆、裸体なのだが──その顔には怒気を含んでいた。
そしてそれぞれがそれぞれを素手で殴り合うだけではなく、頭や胸でぶつかる。
噛み付きその箇所の肉を噛みちぎるなどで怒りを表現していた。
ヴェルハルトはまるで何も見てないとばかりに顔を上げると、何事もなかったかの様にその汚いステュクス沼の畔を進み始めたのに合わせて、聖綴も同じく歩き始めた。
そうして進んでいると、前方に高い二連の塔が見えてきた。
その塔の天辺に二つの小さな火が燃えている。
するとその内の一つの火が、猛烈な速さで近付いて来た。
「ぅおぅ危ねぇなオイ! って、何これ、舟?」
ヴェルハルトが怪訝な表情を浮かべる。
その舟はヴェルハルトと聖綴を捕えに来た舟で、船頭はプレギュアスという名であった。
ステュクス沼の船頭プレギュアスは、聖綴とヴェルハルトを見つけると怒り付けて来た。
「さぁ捕まえたぞ凶悪な亡者め‼」
「うるせぇこのクソジジイ‼ 怒ってんじゃねぇよ‼ とっととその舟に乗せやがれ‼」
プレギュアスへそう怒鳴り返したヴェルハルトだった。
これに、プレギュアスはグッと怒りを堪え二人を、舟に乗せて沼を渡す事にしたのだった。
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