episode,Ⅲ:大食地獄
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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腹腔轟く声でその獣は吠えたかと思うと、その脱走を試みた亡霊をケルベロスは鋭い爪と牙で八つ裂きにし口の中で咀嚼後、嚥下した。
そしてケルベロスは、釘鎹聖綴と柊ヴェルハルトの存在に一瞬動きを止めクンクンと、匂いを嗅いできた。
亡霊とは明らかに違う生者の匂いに、戸惑っているのが伝わってきた。
「ヴェル。ケルベロスは口の中に入った物は何でも食べるんだ。だからこの足元にある泥を手で掬い取って、団子にしてケルベロスの口の中に投げ込んでくれない?」
「お前マジで言ってんのか⁉ この悪臭、カメムシよりも酷いんだぜ⁉」
ヴェルハルトが困惑を露わに述べる。
「俺は万が一に備えて攻撃担当するから、ヴェルにしか頼めないんだよ」
聖綴の発言に、ヴェルハルトは大きく嘆息を吐いた。
「ハァァアァアァー……分ーかったよ! お前の後に付いて来たのは俺の方だしな。やってやろうじゃねぇの」
直後、ケルベロスが二人に向かって、唸り声を上げ始めた。
「来るよヴェル‼」
「分かってるって‼」
ヴェルハルトは言いながら、両手一杯の泥団子を作る。
「そら喰らいやがれ化け物め‼」
ヴェルハルトは言うや否や、ケルベロスの口の中へと泥団子投げつけた。
これに敏感に反応したケルベロスは、バクンと口を閉ざした。
モチャモチャと咀嚼音を立てるケルベロス。
この悪臭漂う泥は、ケルベロスの糞も混じっていてその糞尿の中にはこれまで喰らい続けた、亡者の成れの果ても混じっているのだ。
しかしその亡霊も少しすると、再び元の人の形をした亡霊へと戻る。
そして再度ケルベロスに喰われる。
これを永久に繰り返すのだ。
ケルべロスに爪を立てられ、喰いつかれ、咀嚼される痛みは、しっかり亡霊自身にも伝わるのだから堪らない。
「俺、こうはなりたくねぇがこの第三圏谷は何地獄なんだ?」
「大食の罪地獄」
「成る程、俺は大丈夫そうだ」
聖綴の返答に、ヴェルハルトはクイッと腰を捻ってスマートなボディを、アピールして見せる。
しかしすぐに、眉宇を寄せた。
「この泥氷の中……亡霊が埋もれているのか?」
「そ。この悪臭漂う泥氷の中で、ここの刑罰を与えられた惨めな冒涜者達はもがき、のた打ち回っているのさ。これがこのケルベロスの餌になっている、大食漢の獣には丁度良い食い物だよ」
聖綴が答えた時、ケルベロスが突如大音響で吠え捲って足元で蠢いている亡霊を三つの頭が、泥氷の中へ突っ込み亡霊を噛みちぎり鋭い爪で引き裂き始めた。
先に進む為にこの暗黒の洞窟を抜けなければならないのだが、そこをそれぞれ三つの頭の双眸を真っ赤に血走らせどす黒く脂ぎった体毛に図太い胴回りで塞がれてしまっており、何とか隙間を見つけて洞穴を抜けようとしても首周りの蛇の姿をした無数の体毛が、シャーッと威嚇し牙を剥いてとても進めそうになかった。
「チ……ッ、この調子じゃとても進めそうにねぇぜ聖綴」
「そうだね……」
ヴェルハルトの声掛けに、聖綴は嘆息吐く。
この大食の罪地獄の亡霊達は皆、醜く豚の様に肥え太っている者ばかり。
聖綴はこの地獄に、嫌悪感を抱かずにはいられなかった為、ケルベロスを殺すのは容易いがそうしたくはなかった。
もし殺してしまうと、この悪臭漂う豪雨の地獄のケルベロスの爪と牙から、これら亡者を解き放ちたくはない気持ちにさせられていたからだ。
ケルベロスは生者の聖綴──特に確信たる生者であるヴェルハルトを目の当たりにしても、すぐに興味が冷め再度亡霊に爪と牙を向けた辺り、そっちの方が好物なのだと気付かされるのは想像するに容易かった。
よって聖綴は、三つ頭のケルベロスの鼻孔に向けて、フゥと息を吹きかけた。
すると三秒もしないうちに、ケルベロスは眠りに就き首周りの蛇達もおとなしくなった。
「よし。今の内に進もう」
「お前一体何したんだよ?」
「眠らせた」
「……もっと早くそうすれば良かったのに」
「だね」
聖綴とヴェルハルトはケルベロスの図太い、洞穴を塞いでいる胴の肉をギュウギュウ押し退けながら窮屈そうに移動し、数十秒後程の時間をかけて漸く洞穴を抜けた。
そして降りしきる濁った豪雨や雹、雪で泥氷でのた打ち回っている肥え太った亡霊達の上を、まるで泡でも踏むかの様な感触を覚えながらこの第三圏谷の出口へと進んだ。
「気持ち悪ィ。この泥と悪臭と脂のせいで、全身ベタベタだ」
「ホントにね。シャワーでも浴びたい気分だよ」
ヴェルハルトの悪態に、聖綴も同意を示す。
二人は覚束ない足元に気を取られてしまっていたので、すぐに気付く事が出来なかった。
この第三圏谷の出口に、人影がある事に。
漸く泥氷から、固い地表に辿り着いた時だった。
「どこへ行こうと言うのかね?」
これに、二人の少年の表情が、ハッと強張る。
そこには、全身漆黒で腰までの長髪の中年くらいであろう男が、立っていた。
「お前達、生者だな? 一体どうやって地獄に……しかもここ、第三圏谷の大食の罪地獄まで来れたと言うのだ」
「てめぇ誰だよオッサン⁉」
ヴェルハルトが身構える。
「私はこの地獄の統領である、プルートと言う者だ。そもそも、何しに来たと言うのだ小僧どもよ」
「……自分探しにだよ」
聖綴の発言に、プルートが眉宇を寄せた。
「自分、探しにだと……? また随分滑稽な事を抜かす。生者が死人の国に自分探しだとは、私に笑ってもらいたいのかね?」
「事実だよ。1ミリもふざけてなんかいない」
聖綴は怯む事無く言い返す。
「……構わん。話を聞いてやろう。しかし例え生者でも、一度入ったからには容易く地獄からは帰さんぞ」
「それはどうかな。俺の名を聞いて、オッサンこそ怯まずにいてよ。いや、"オッサン"はこれから親切に話を聞いてくれる者に、失礼だね。……──プルートよ」
言った聖綴の両目は、いつの間にかヴェルハルトから片手で塞がれていてその彼が何やらブツブツと、呟いていた。
すると聖綴の姿が、見る見る変わっていった。
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