episode,Ⅰ:侃侃諤諤の裁判所
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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「やぁヴェル。ナムウドッグを諫めてくれてありがとうな。本当ならナムウドッグ程の無敵無双になら、イエスの後を追うのは容易いんだ。でもそうしないのは、本来の目的である自分探しの為なんだ。恐らく強引にそして脅迫気味に問い質してもいいんだろうけど、それだときっと火に油で余計に答えてくれないだろうから、止む無く少しずつ、それでいて確実に自分の知り得ない情報を得る為に、我慢してるんだ。だからこうして地道にコツコツと進んでるわけ」
「へぇ、成る程な。でもそれじゃあ余計に逆にただの人間のガキでしかない俺が一緒で、邪魔や足手まといになったりしないのか?」
「全然‼ ナムウドッグにしてみればそんな事、たかが些細な事だし、寧ろ怒りの暴走による良い抑止力になってるから俺としては本当に助かってるんだよ」
「そう言ってもらえれば、少しは俺も救われるけどな」
「大~丈夫! ヴェルはヴェルらしくしてるだけで問題ないよ! さ、もうここに用はない。先に進もう‼」
「でも……いいのか。この、他に残されている人達。こいつらも偉人、賢者達なんだろう? また迎えに来るのかよ?」
「いや……彼等は無理なんだ。宗派が違うって理由でね」
「ええーっ⁉ 何だよそれ! じゃあそれぞれ宗派の場所へ移送させればいいじゃねぇか‼」
「それは尤もな意見なんだけどね。移送係がいないから最早、放置状態」
「スゲェ細かい所の手抜きじゃんか。神とやらは」
「それは言えてるんだけどね。でもそれを言うと、他の宗派も同じだよ」
「じゃあここに残された連中は、永久にここにいるってわけかよ?」
「今の所は、ね」
「スゲェ無責任」
柊ヴェルハルトはその言葉を残し、半ば後ろ髪を引かれる思いでこの辺獄を後にした。
残された異教徒の亡者達へ、哀れみの念を覚えながら。
第一圏谷を出て次に、第二圏谷に入ると何やら激しい騒ぎ声が聞こえてきた。
その中心を窺い見ると、物凄い形相で歯を剥き出し怒声を上げている人物がいた。
彼の名はミノスと言った。
黄金の笏枝を手に座り、亡者達を裁いているミノスにこの冥王の館に溢れ返る程の亡者達が取り囲み、ミノスに判決を尋ねている。
冤罪により死刑を受けた亡者達がいる。
その者等が無罪を訴えるが、ミノスは無口の魂達の陪審員団を集めその生涯と嫌疑を調べさせる。
そう。
この第二圏谷の入り口にはミノスの裁判所がある。
地獄行きの罪人達は永住する事になる地獄の場所と、刑罰を決定させられる為にここへ連れて来られる。
この入り口でこの世の罪を一つも漏らす事無く白状させられ、刑罰が決まる。
こうして罪人は地獄に堕とされる事になるのだが。
裁判所を他人事の如く通過しようとしたその時。
ミノスの鋭い声が釘鎹聖綴とヴェルハルトを呼び止めた。
「そこの小僧二人! どうやってこの先に入る気だ!」
「あ、やっぱり俺達もカウントされてる?」
ヴェルハルトは口元を引き攣らせる。
「当然だ! ……んん? 貴様等……亡者ではないな⁉ 生者か⁉」
ザワ……ッ‼
これに刹那、周囲が静まり返る。
「オッサンてめぇ無駄にクソデカボイスなんだよ! オッサンくらいの立場なら、いちいち声に出さなくても分かんだろっ‼」
ヴェルハルトがミノスへと怒鳴り付ける。
これにミノスもハッとして口走る。
「し、しまっ──……‼」
だが時既に遅し。
亡者達が生きた肉体を奪おうと、聖綴とヴェルハルトへと一斉に飛びかかって来た。
最早死んだ彼等に善も悪も関係ない。
"生きる"事だけにしか興味も魅力もないのだ。
もしくは、"天国"。
「おいコラ貴様等! やめろっ! 早まるなーっ‼」
直後。
──バサリ……ッッ‼
大きな漆黒な翼が広がり、亡者共を阻んだ。
蝙蝠の翼の骨格に、皮膜ではなく鳥の羽毛に覆われ第一指の部分に角張ったまるで石を思わせる、赤と青と紫の大小三色の角が生えており梵字の様な文字が記されている。
翼の骨格部分にも、何やら文字が刻まれていた。
ルーン文字にも、アラビア文字にも似ている。
羽根の関節部分は、まるで奇形なる骨盤の様な物で覆われいた。
その歪な見た目の翼が、ヴェルハルトを包み込んでいた。
ヴェルハルトが駄目でも聖綴の体があると言わんばかりに、聖綴にも飛びかかって来たが──。
──カッ‼
「甘いわ亡者共」
聖綴はナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブへと代わっていた。
ヴェルハルトが自分を覆い隠す片翼の中で、聖綴の目を塞ぎ早口でナムウドッグの名を唱えたのだ。
「この我に、貴様等如き亡者は敵ではないわ」
そう言うなり、ナムウドッグは全身から気迫を放った。
これによりナムウドッグに群がっていた亡者の魂が、数十体も消滅させられた。
それを見たミノスはナムウドッグが起こしたアクションに、総毛立った様子で唇を震わせ述べた。
「何て没義道な真似を……‼ 例え如何なる罪人でも償う権利があると言うのに、それらの霊魂を消し去るとは、余りにも亡者達が哀れだ……‼」
「フン。たかが烏合の衆であろうが」
周囲の亡者達は、ナムウドッグの登場に恐れを為して距離を取っている。
「あんな鬼畜な刑罰を与える輩が良く言うぜ! 苦しめられる方がよっぽど哀れなんじゃねぇのかよ⁉」
ナムウドッグの翼の中から顔だけを出したヴェルハルトが、そう吐き捨てる。
「童の出る幕ではない。引っ込んでおれ」
ミノスが返答する。
「とこしえに刑罰を受け続けるくらいならば、消滅した方がよっぽど楽だと思うがな。それを思えば我こそは魂の救済者だ。貴様の仕事も減って楽な事だろう」
「私はこの役目に誇りを持っている! 楽になろうなどと、思った事はない‼ 貴様達がここに来る必要はない! 早々に立ち去れ‼」
「立ち去るついでに聞くが、貴様はこの我についての情報を知らぬか」
「一切知らん‼」
「然様か。ならば確かにここに、用はない。先へ行かせてもらうぞ」
ナムウドッグは言うと、ヴェルハルトと一緒にこの場を後にした。
あれだけ騒がしかったこの裁判所も、ナムウドッグの姿が見えなくなるまで非常に珍しく、静まり返っていた。
そして漸く我に返ったミノスは、改めて何事もなく罪人達の魂に刑罰を与えて、仕分け始めるのであった。
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