episode,Ⅶ:イエス・キリストとの遭遇
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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そうこうしながら進むと、何やら暗闇の中にて森らしき場所へ、到着した。
「大丈夫? ヴェル。谷はもう抜けたよ」
「おう。で、お次は何だ? 森か?」
「そうみたい」
二人してランプとライトを持つ手を伸ばし、先を照らす。
「この森は確か──第一渓谷の森かな。辺獄が近い。何か手掛かりがありそうだ。僅かでも希望が見えたね」
釘鎹聖綴の発言に、柊ヴェルハルトがニヒルに笑う。
「地獄に来て希望とか言える奴は恐らく、どこを探してもお前だけだぜ聖綴」
「アハハハハ♪」
これに明るく笑って答える聖綴。
「クックック……心強いね」
ヴェルハルトも笑って言った。
「よーっし! 張っり切って、前進だなヴェル‼」
「おう‼」
聖綴の明るい言葉に、ヴェルハルトも明るく返事した。
こうして森の中へと足を踏み入れる二人の少年。
「ところで今お前が言った、リンボってどういう場所なんだ?」
ヴェルハルトが歩き出しながら訊ねる。
「なーんにもなくて、なーんにも起きない場所らしい」
「何もなくて何も起きない場所ぉ?」
「うん。ほら、聞こえてきたよ。耳を澄ましてご覧ヴェル」
「んん?」
聖綴に促されるままに、耳を澄ませるヴェルハルト。
するとまるでダクトの中からの様に、重々しい音とも言える、しかしそれは声である事に気付く。
「これは……溜め息か?」
この空間中に、響き渡る程の大音量だ。
「そう。溜め息。ここには全く罪を犯してもいない、それどころか寧ろ徳のある人達が堕ちる地獄なんだ」
「そんな連中が何で地獄になんか、堕ちんだよ?」
「それが皮肉にも……イエス・キリストって知ってる?」
「ああ。それくらいならな」
「そのキリストが誕生する以前に死んだ聖人でね。その人達はキリスト教が出来る前に死んだから、当然洗礼なんて事、受けていないわけでしょ? だから信仰を受けていない理由で、神からの祝福を受けられないんだよ。つまり天国に行けず、行き場がなくてここに集められているわけ。拷問を受ける必要はないけど、祝福受けられず、まさに全く何もされない場所で、そのせいで憂き目に遭っておまけに天国に昇れる見込みもなく、ただその願いだけを持ってただただ時間だけが過ぎている中にいるんだよ」
「ぅっわ、マジか。それはそれでどきついな」
「ねー? 神も何だかんだで無責任でしょー?」
うんざりした表情を浮かべるヴェルハルトに、聖綴も同意する。
「ハアァァァァ―……」
「フウゥゥゥゥー……」
相変わらず重々しい悲しみの溜め息が響いている。
その"城"は高い城壁が七重に取り囲まれ、その周囲には小川が流れている。
七つの城壁の門を潜り抜けると、鍾乳洞と緑の野原が広がっている不思議な空間になっていた。
「ちなみに代表的に誰がここに堕とされているかと言うと、第一の父アダム、その息子アベル、そしてノア、モーゼ、アブラハムやダビデ王、イスラエルと家族と下僕のラケル等々大勢の人の魂なんだけどね」
「あー……、教会で聞かされた事がある、基本的有名な人物ばかりじゃね?」
ヴェルハルトは言って、下唇を親指で擦る。
「うん。俺も似たようなもの。孤児院で」
「でも神はこいつらを天国に招待する力はねぇのかよ?」
「うーん、何て言うか、神の子キリストによって誕生した宗派に乗っ取ってだから、洗礼していない古代の偉人や賢者達、無垢な赤ん坊や幼児達をここに安住させたらしいよ?」
「全っ然安住じゃねぇじゃん。神ってスッゲェ高慢!」
「でしょー?」
ちなみに偉大な詩人には、ホメロス、ホラティウス、オウィディウス、ルカヌス、ウェルギリウスがいる。
まだまだいるが、ここは割愛しよう。
そんな中、突如天上から一筋の光が射し込み、辺獄を眩く照らした。
これに、聖綴は勿論、ヴェルハルトも光の方へ視線を向けた。
その光の上空から降りて来る者がいた。
聖綴はその人物に目を凝らす。
その人物は、勝利の印である光輪を頭上に浮かべた──イエス・キリストその人であった。
聖綴がふと眉宇を寄せると、ヴェルハルトの手を取るや否や同時に背中から翼を出現させ、辺獄の中心へと移動した。
「ぅおわぁぁぁぁっ‼ 予告なしの飛空はやめろ聖綴‼ いきなりだったから金玉キュウってなったぞ‼」
ヴェルハルトが聖綴の腕の中で喚く。
ヴェルハルトを抱きかかえた聖綴は辺獄の地表に着地して、ヴェルハルトを下ろすと古代の偉人や賢者、赤子と幼児達を天へと誘っているらしいイエスの元へと歩み寄った。
これに気付いたイエスが、聖綴へと優しく微笑みかける。
「君は──……誰かな?」
「俺は今、この聖綴という日本人の少年の姿を表面化しているが、その実態は──」
聖綴はそう言ったかと思うと、突如ヴェルハルトの片手の平を掴んで強引に自分の目元に、当てた。
「唱えろヴェル‼」
「⁉ おうよ‼」
最初は意味不明だったヴェルハルトも、これにすぐピンと来て返答し"彼の名"を唱えた。
「ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ現れ出でよ‼」
直後、聖綴の姿がイエスの降臨よりも更に強い光を放ったかと思うと、ナムウドッグの姿となった。
「我はナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブだ。この我の情報を、貴様は知っているな?」
ナムウドッグの姿を目の当たりにしてイエスは、その表情にこの上ない嫌悪を貼り付けて、述べた。
「何て……──醜く、呪われた子……‼ 情報は本当だったのか‼」
「ほぅ。そこまで言うのなら、何らかの情報は得ているな。述べよ」
「哀れなる呪いの子よ。その名を口にするのもおぞましい! 悪意はないがこれ以上言葉を交わす訳にはいかない‼ さらばだ呪いの子そして、厄災よ‼」
「チッ! 貴様ほどの奴までもが我を避けるか‼」
ナムウドッグは喚くと、イエスへと手を伸ばした。
しかしそれよりも早く、イエスは偉人、賢者等々を伴って光と共に昇天した。
「クッ‼ 逃がしたか! せっかくの有力者を……‼」
ナムウドッグは歯噛みすると、傍にあった石筍を拳で殴り付けた。
これにより石筍は呆気なく砕け散る。
「聖綴……いや、ナムウ、まぁ落ち着けよ。また俺も一緒に追いかけるからさぁ」
少し離れた場所に立っていたヴェルハルトだったが、苛立ちを露わにするナムウドッグへと歩み寄る。
「ヴェル……すまない。見苦しい所を見せた。聖綴に代わろう」
ナムウドッグは言うと、翼を収納し背中を丸めると見る見る縮んで、頭を振り上げた時には聖綴の姿に成り代わっていた。
「あいつは……イエスの野郎はお前の事を醜いと言ったが俺はお前の事、カッコいいと思ってるぜマジで。聖綴、いや、ナムウ」
「──ありがと♪」
ヴェルハルトの言葉に、聖綴は満面の笑顔で答えた……。
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