episode,Ⅵ:冥界の本土
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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「俺は掏りや喧嘩、バイクの無免走行、未成年飲酒に喫煙とかしてるから、間違いなく地獄なんだろうな。ただ、あの前庭に連行される事はなさそう、だ──⁉」
ドゴオォォ―ンン……ッッ‼
柊ヴェルハルトが地獄の前庭をのんびり眺めている時だった。
突然の轟音に、ヴェルハルトはつい、肩を弾ませた。
振り向いて見ると、そこには大穴を開けて大量の真っ赤な流血をしている、地獄門があった。
「ええっ⁉ 何だよこの穴‼ 聖綴が開けたのか⁉」
「うん、まぁね♪ ちょっと気に食わなかったから。大丈夫! この聖綴の姿の場合は、ナムウドッグの力や能力一切は半減されるから☆」
「それでこの大穴かよ⁉ じゃあ全力出したらお前どうなっちまうんだよ⁉」
「それが判らないから自分探しの旅を始めたのさ」
「はぁー……成る程なぁ……」
「だけど地獄にある物はほとんど、真っ赤な流血するんだね。さすがホラー代表」
「だな。普通の人間にとっちゃあ確かにまるで、ホラーだな」
「ヴェル、付いて来れそう?」
「この程度でまだまだ腰は抜けねぇよ」
「その調子だよ兄貴。ここまで来たからにはね!」
「おうよ! 任せとけ‼」
ヴェルハルトはガッツポーズを取る。
「そんじゃま、渡し船にでも乗ろうか」
「ああ」
釘鎹聖綴の言葉に、そう短く返答するヴェルハルト。
すると呻く様な声が二人を引き止める。
「罪深き子供よ……私をただの門だと思ったか……」
地獄門だ。
「私を築き上げているのは……人間の血肉で出来ているのだ……つまり貴様は、これら人間を殺した事になる……ここに残り、贖うがいい……‼」
「断る。俺等は先を急いでいるんだ」
聖綴がこれにそう答える。
「贖え……‼」
地獄門の言葉に合わせて、門の表面で人の形が浮き出て、蠢く。
「そんな事、知らなかったんだから仕方ない。これ以上俺等の進行を邪魔すると、これよりもっと攻撃食らわすよ?」
「ぬううぅぅぅ……‼ 伊達に厄災と呼ばれているだけは、ある……」
ここまで言って、門は黙り込んでしまった。
表面で蠢いていた人間の形も、改めて門の一部に戻り動かなくなった。
「……ホラーだな」
ケロッとした様子でそう述べたヴェルハルトに、聖綴はクスクス笑った。
「度胸が据わってるねヴェル」
「そうか?」
「そうだよ。じゃあ先に進もうか」
そうして二人は、三途の川アケロンへと歩き出す。
アケロンは、地獄門と地獄の前庭の間にあったので、すぐに辿り着いた。
他にもたくさんの亡者が、船着き場に溢れていた。
すると丁度、アケロン川の渡し守カロンが豪快に船を漕いでやって来た。
カロンは白髪頭にざんばらした老人だったが、激しい川の流れに負けじと力強く船を漕いでいた。
そして船着き場に到着すると、カロンは怒鳴った。
「この船に乗ったら最後! 本格的に地獄へ誘う‼ 天への憧れは捨てよ‼ 地獄にて永劫に闇の中で苦しむが良い‼」
これに恐れ慄いた亡者達は、船に乗るのを拒む。
中には、地面にしがみつく者もいたが、それをカロンは櫂で殴りつける。
そうして無理矢理、亡者達を船に乗せていたが、ふと聖綴とヴェルハルトの存在に気付く。
「そこの子供、生者だな⁉ 生者をこの船に乗せる事は出来ん! 死んだ奴等から離れろ。お前達二人は、他の道か港を通るがいい」
カロンはまるで炎の様に真っ赤な目をギラつかせる。
「そう言ってもよ、じいさん。どこに行きゃあいいんだよ?」
そう話しかけたのはヴェルハルトだった。
「この川の反対岸に渡って、そこの道を真っ直ぐ行くと辺獄と言う場所に辿り着く。そこで答えを仰げ」
カロンはその言葉を残して、船一杯に亡者を乗せると、その場から立ち去って行った。
「反対岸に渡れと言われても……橋とかなくね?」
ヴェルハルトの言葉に、聖綴がケロッとした様子で言った。
「俺に任せてよヴェル」
そうして背中を丸めると、背中から翼を出現させた。
「便利な事だな」
ヴェルハルトが小さく笑う。
「じゃあ向こう岸に運ぶよ」
聖綴はヴェルハルトを抱き上げると、翼を羽ばたかせた。
こうして反対の岸に運ぶと、聖綴はヴェルハルトを下ろす。
「じゃあさっきのじいさんが言った通り、先を行ってみるか」
「うん、そうだね」
ヴェルハルトの言葉に、聖綴は首肯する。
そうして二人は他愛ない会話をしながらそれぞれランプと携帯電話のライトで暗闇の中、歩を進めるにつれ何やら遠くから"音"が聞こえてきた。
そのまま前進するうちに、次第にその"音"は大きくなりその元となる場所へ辿り着くと、どうやらその"音"だと思っていたものが、罪人達の刑罰を受ける雷鳴の轟きの如き呻き、叫喚の集まりで腹に響く程迄の大きさだった。
気付くと何やら谷の深淵の縁に辿り着いていた。
二人はその谷を覗き込んで見たが、とても暗くて深い濃い霧も立ち込めていて少なくとも、"人間"であるヴェルハルトにはとても見抜く事は出来なかったが、聖綴は違った。
「ふぅ~ん……"嘆きの谷"かぁ。たくさんの"罪人"が悪魔達から刑罰を受けている、その悲鳴だよ」
「お前、見えんの?」
「うん。ナムウドッグに戻った俺に、不可能はないよ」
「生憎俺には、谷底が見えないせいもあってか、その凄さが漠然としか伝わんねぇ」
「だよね」
ヴェルハルトの尤もな答えに、聖綴はクスクスと笑った。
人間にとって天地の世界は"超自然の世界"なのだ。
「何であれ、ここは谷の縁だから、間違っても絶対落ちたりしないでね。でないと、悪魔は元より、亡者──罪人達の餌食になるよ」
「罪人のか?」
「うん。ここはあくまでも亡者を管理する"地獄"。生者のヴェルが頭上から降ってくれば、生を求め、飢えている亡者がヴェルの肉体を奪いに来るからね」
「ほおぉ……そいつはおっかねぇ。絶対落ちない様に、内壁を手で伝って進むぜ」
「だね」
ヴェルハルトの意見に、聖綴も笑顔で首肯した。
何せ腹腔轟く亡者達の阿鼻叫喚の中なので、二人は大絶叫で会話を交わし合っているのであった。
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