7.失敗
「あの……」
「あ、いや、何でもないよ! ごめんね!」
そりゃそうだよな、クエストのクリア条件は村を守る事なんだから。
そりゃあ、村が存続できないくらい村人が死ねば別かも知れないけど、一人や二人くらいでは失敗扱いにはならないか。
南無南無。うっかりで間に合わなくて本当に申し訳ない。
「降臨者様……ですよね?」
「あ、はい、そうです」
ここは誰が担当しても変わらないんだな。
「とりあえず村長さんに村の防衛準備を急ぐように伝えてくれませんか? まだ来ますよ」
「! わ、分かりました!」
確か前回は村長さんと少しお話して、火炎放射器の機兵を運んで貰ってから出発、そして拠点の機兵を五体倒したところでゲームオーバーになったんだっけ。
今回は最初に少し時間を取っちゃったから、村長さんとお話する時間は取れないかな。
「とりあえず吸収しとこ」
前回の機兵はまだ一体インベントリに入っているけど、取り出すのも面倒だし、これから防衛戦があるっぽいからついさっき倒した奴を吸収しとこ。
……うん、本当に回復したみたいだね。良かった良かった。
「さて、時間的にそろそろかな?」
何が出て来るのか分からないけど、時間的に村を襲った何かが出て来てもおかしくない。
先ずはソイツらから村を防衛して、一体か二体くらいわざと逃がして大体の拠点の方角を把握してから黒岩の奴らを潰して……あ、その前に私が黒岩の奴らを潰しに行く間に簡単な偵察を村人にして貰って、あとは――
「あ、あの……すいません……」
「ん?」
どうやってこのチュートリアルクエストをクリアするのか、その予定を立てていると先ほどの女性が戻って来た。
「村長が降臨者様に直接説明して貰いたいと仰っていて……」
「えぇ……そんな時間ないよ、もうすぐ敵が来るんだよ?」
「ですが、私にはどうする事も……」
前回はスムーズだったのに、こんな罠があるとは……あの村長は私と直接話さないと動かないらしい。
「……うん、まだギリ大丈夫……かな?」
周囲を遠くまで見渡し、未だに機兵の影がない事を確認する。
安全だと盲信する訳にはいかないし、時間が無い事には変わりはないのでさっさと村長に用件を伝えて来るか。
「仕方ないなぁ――」
唐突に視界が真っ暗に染め上げられる。
「あっ、え? あれ?」
そして広がる三度目の始まりの景色――私はどうやらまた失敗したらしい。
「何が起きた?」
なんで失敗した? ……あ、まさか敵は村の反対側から攻めて来たとか?
「チュートリアルクエストにしては難しくね〜?」
チュートリアルってあれでしょ? 操作覚える為の、基本的にはサクッと終わるやつでしょ?
「こんな理由も分からず二回も失敗するチュートリアルがあるの?」
このゲームって、もしかして思ってたよりもハード?
「いやまぁ、文句を言ってても仕方ない」
とりあえず早く行動しなきゃ男性が死んでしまう。
愛着とかそんなに無いけど、出来れば死人は少ないままクリアしたいしね。
「おっ、まだ村に辿り着いてない」
全力で村へと向かっていると、村を目指して突き進む最初の機兵を発見した。
このタイミングだとまだ村を襲っていないらしい。
「丁度いい」
このままお前は死ね。
【※※※※――】
「――〝強撃〟」
これで三度目。流石に時間は掛からない。
「さて、こいつを収納してっと」
手に入れた遺骸をインベントリに入れて周囲を見渡す……やはり敵影は見当たらない。
「まだ時間はあるはず。さっさと村長を説得しよう」
最初のループでは私が話すだけですぐに理解し、指示を出してくれていた。
つまり降臨者が直接出向けば良いんだろう。
「――え?」
「だから、素性不明の人間の話など信じられんと言っている!」
村長の家を訪ね、用件を伝えたところ『余所者の言う事など信じられない』と言われドアを強めに閉められてしまった。
「……え?」
思わずポカーンと口を開けて呆けてしまう。
最初のループと対応が違い過ぎるのではないだろうか。
「待って待って、ちょっと話を聞いて!」
ドアを何度もノックしても村長は出て来ない。
「ちょっ、本当に間に合わなくなるから! このままだとマジで村が襲われるんだって!」
え、なんで? 降臨者の話 なら聞いてくれるんじゃ――あ、もしかして私が降臨者だって知らない?
そうだよ、村長ってば私のことを余所者って呼んでたじゃん。
なんで? 以前は降臨者だって認識してたよね? 今回は何が違う?
「――村が被害に遭ってないから?」
最初の機兵に襲われているところを助けたから、私が降臨者だとスムーズに認識してくれたけど、今回は村が襲われる前に解決したから分からない?
「もしかして、助けるのが早すぎてもダメなの?」
その私の疑問の答え合わせかのように、突如としてすぐ近くにあった巨大クリスタルが砕け散る。
「え――」
暗転する視界、浮かび上がる【クエスト失敗】の文字列。
「えぇ〜……」
何が起きたし。
「あれ? 機兵居なかったよね? 村にはまだ入って来てなかったよね?」
裏側にもう来てた? 巨大クリスタルを挟んで向こう側に侵入されてた? だとしてもあんな簡単に一気に砕け散るもんなの?
巨大クリスタルにも耐久値というか、なんかそういうのあると思ってたけど。
「村長の説得してる暇ないな?」
説得に成功して、村の防衛準備を整えさせても間に合わなそうだな。
「とりあえず最初の機兵だけはぶっ倒すか」
スキルレベルも上がるし、死人が出なくて済むし。
という事で流れ作業のようサクッと村に辿り着く前の機兵を破壊し、回収する。
「急げ急げ」
すぐさま村を横断し、巨大クリスタルの裏側へと辿り着く。
「何処だ? 何処に居る?」
村人達からジロジロと見られるのも構わず、手で日傘を作って周囲をよーく観察する。
「居ないな――」
そして視界いっぱいに広がる巨大な拳――
「――あっ?」
腕のガードも間に合わず、振り抜かれた拳によって巨大クリスタルに叩き付けられた。
意識が飛びそうな程の擬似痛覚と同時に、自分のすぐ背後で何かが砕け散る音が聞こえる。
【※※※※※※※※】
なんて言っているのか分からない機械音声を最後に私の視界は暗転した。
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