6.クリア条件
「ここを行くのか……」
草原が途切れ、斑模様に汚染された大地が続く荒野を見渡してみる。
視線の先に大きな黒い岩が鎮座しており、その先に機兵の拠点はあるらしい。
「うっ、なんかヒリヒリする……」
勇気を出して一歩を踏み出した瞬間、足の裏がジリジリと炙られているような感覚を覚える。
呼吸をする度に鼻や喉を刺激され、肺まで侵されている様な気がした。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
ＰＮ：HINAMI・L
性別：女性
種族：鬼人
職業：魔法使いLv.１(２／３０)
筋力：１４２
耐久：１１０／１１０
知力：１００
魔力：１１２／１１２
技量：１０６
敏捷：１００
幸運：１００
状態：虚命（活動可能時間２：５９）
スキルスロット
◇格闘術Lv.２
◇怪力Lv.２
◇強撃Lv.３
◆魔力放出Lv.２
ユニークスキル
なし
称号
なし
運命
未定
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
状態の『虚命』ってなんだ……いや、活動可能時間って、やっぱりここは見た目通り汚染されてるんだ。
「汚染の原因が機兵……なのかな？ とりあえず早めに終わらせた方が良さそうだ」
駆け足で汚染された荒野を突き進み、黒い岩まで辿り着く。
音を立てないように岩にへばりついて登り、そっと向こう側を覗き込む。
「お、居るねぇ〜」
元はなんだったのか、分からないほど朽ち果てた建物の前に二体、崩れた壁の向こう……屋内に三体が居る。
最低限の雨風が凌げればそれで良いのか、彼らの装備の技術力からしてきちんとした拠点も建設できるとは思うけど、補修したような形跡も見られない。
何を目的としてここに居座り、そして村を襲うのか……いくら考えてもさっぱりだ。
「とりあえずぶっ飛ばすか」
難しい事は殴った後で考えよう、って事で先手必勝！
「――ダブル〝強撃〟ッ！！」
巨大な黒岩の頂上から飛び降り、落下速度をそのまま乗せた両の拳を二体の機兵の頭へと叩き付ける。
けたたましい音を立てて頭部を破壊された機兵が倒れ込むよりも早く地面に着地し、素早く残りの魔力と耐久を確認。
「――うん、いける」
自分の両側に機兵が倒れ込むの同時に腰だめに拳を構え、魔力を集中させる。
【※※――】
戦闘音に気付き、屋内から飛び出して来た一体目の頭部を〝強撃〟で破壊。
一歩外に出ただけで活動を停止した機兵の腹部を蹴り飛ばし、後続の進路を妨害。
奴らが自分達の方へ飛び込んで来た仲間の遺骸を避けるなり、弾き飛ばすなりする間に、私はもう次の攻撃準備を終えていた。
「――〝強撃〟」
私から見て右側に居た機兵の頭部を破壊する。
こっちを選んだ理由は単純で、右拳に一番近かったからだ。
【※※※※！！】
向けられる銃口、即座に飛び退く。
「火炎放射器以外もあるんだ」
先ほどまで自分が居た空間を一瞬で通り抜けた暴風にポツリと漏らす。
【※※※※※※】
「何言ってんのか分かんねぇよ」
私が飛び退いた先は建物の外――銃口を向けられるよりも早く真横に移動し、射線から逃れる。
【※※※※】
当然追って来た機兵は、外に出ると同時に人影へ向かって発砲した――が、そこに私は居ない。
【※※※――】
「――〝強撃〟」
飛び出して来た機兵の真上から拳を振り抜き、その頭部を破壊した。
「壁走りも現実と変わらないなぁ」
壁を走るように蹴ってジャンプしただけだけど、現実と同じように上手くいって良かった。このゲーム凄いね。
「何にせよ。これでチュートリアルはクリアした――」
私の視界は急に暗転し、そして瞼の裏に【クエスト失敗】の文字列。
「え？」
全てを理解するよりも早く視界が復活し、ふと最初の場所に立っている事に気付く。
なだらかな草原が続いているかと思えば、途中でベタ塗りされたように汚染された大地が地平線の彼方まで広がっている。
草原が続くへと視線を向ければ、遠目に村と四階建ての一軒家くらい大きなクリスタルが聳え立っているのが見えた。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
難易度：☆★★★★★★★★★
クエストNo.１
名称：村のクリスタルを守り切ろう
種別：チュートリアル
時刻：C.C４８５２／０４／１５／１７：４２
説明：アナタが訪れた村が機兵に狙われている。村のクリスタルが破壊されれば、そこに人類は住めなくなる。襲い掛かる機兵を撃退して村を守ろう。
報酬：１００煌貨
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
村のクリスタルを視認すると同時に、眼前にそんな画面が現れた。
「……あれ？ 最初から？」
なに？ どゆこと？ 何が起きた？
「村を守ったよね？ 機兵の拠点だって潰したはず……」
最初の火炎放射野郎だって被害は軽微だった筈だし、特に問題はなかったよね？
「なんだ？ なにが失敗なんだ？」
頭を捻って考えていても埒が明かない。ここはもう掲示板で探してみるか……えっーと、なになに？
◆◆◆◆◆◆◆
254.名無しの降臨者
質問なんですけど、追憶クエストって失敗したらやり直しなんですか？
255.名無しの降臨者
>189
またアイツらか
256.名無しの降臨者
ホンマに攻略が進まんなぁ
257.名無しの降臨者
誰か早くPKギルド潰せよ
258.名無しの降臨者
>254
そうだよ、基本的に最初の場所、時間からやり直しだよ
259.名無しの降臨者
>257
何度か大規模な討伐が開催されてんだけどなぁ……末端は潰せても、幹部以上のプレイヤーは絶対に止めないな。
260.名無しの降臨者
何がアイツらをあそこまで駆り立てるんだろうな
261.名無しの降臨者
人の邪魔するのが愉しいんだろう
262.名無しの降臨
>258
ありがとうございます
基本的にはってどういう事ですか？
263.名無しの降臨者
追憶クエストってのは、大きく二つに分けられてな
一つは個人で対応するもの、もう一つはプレイヤー全体で対応するもの
個人の追憶クエストはプレイヤーの過去って設定で、自分達が救えなかった人々を思い出の中で救うってやつ。クリアしたら現代の水晶都市に戻されるけど、失敗したら最初に降り立った地点と時間に戻されるの。
世界の追憶クエストは言わばメインシナリオだな。個人の追憶クエストをクリアしていって、追憶のクリスタルタワーを登っていくと解放される。現代では人類の生存圏は水晶都市とその周辺の村しかないけど、世界の追憶クエストでは過去に戻って人類の破滅フラグを潰していくと他の都市や国が解放されるらしい。で、この世界の追憶クエストの場合は『ここからもうどう足掻いても破滅フラグは回避できませんよ』ってなったら世界全体の時間が巻き戻る。それにプレイヤー全員が巻き込まれる。ただし、途中でプレイヤーが何回死のうが失敗にはならない。途中で死んだプレイヤーはその追憶クエストが達成されるか、時間が巻き戻るまでその時代には降り立てなくなる。
264.名無しの降臨者
アイツらのせいでメインシナリオ進まん
265.名無しの降臨者
ご丁寧にありがとうございます
つまり私は失敗しちゃったので一からやり直しなんですね
266.名無しの降臨者
そゆこと
267.名無しの降臨者
今判明してる破滅フラグって幾つだっけ？
268.名無しの降臨者
※※※このコメントは運営に削除されました※※※
269.名無しの降臨者
確か七つらしい
270.名無しの降臨者
そうなのか、俺まだ三つ目までしか入れないわ
273.名無しの降臨者
三つ目ってそこそこ登ってるやん
274.名無しの降臨者
この削除されたコメントってなんですか？
275.名無しの降臨者
気にするな
重大なネタバレをすると運営に消されるんだ
276.名無しの降臨者
ワイ、チュートリアルクエストの条件をクリアした筈なのに失敗したんやが
277.名無しの降臨者
徘徊ボス系の機兵とかち合ったんじゃねぇの？
278.名無しの降臨者
なんじゃそら
279.名無しの降臨者
時代も場所もランダムで、たまにクソ強い機兵が現れる事があるんよ
280.名無しの降臨者
敵拠点を攻めている間に徘徊系に街を襲われて……とか、あったな
281.名無しの降臨者
回避方法はないの？
282.名無しの降臨者
とにかく頑張れとしか……
283.名無しの降臨者
別の追憶クエストを先にクリアすればフラグが変わるのか、いつの間にか消えるというか、発生しなくなる事はあるがチュートリアルで出るとな……クリアするまで他のクエストなんか出ないし……
284.名無しの降臨者
たまにめっちゃ頑張って実力というか、気概を認められると去っていく場合があるからそれを目指すしか……
285.名無しの降臨者
マジでどうすればええんや……
286.名無しの降臨者
まぁ、徘徊系が現れるのは本当に稀だから別の理由があると思われ
287.名無しの降臨者
普通に情報収集が足りなくて見落とせる拠点があって、そこから急襲されたとかあるある
288.名無しの降臨者
なるほど
289.名無しの降臨者
ま、何回でもやり直せるからガンバ
290.名無しの降臨者
何回もループして全然解決しない問題の原因を発見した時は脳汁出るよな
291.名無しの降臨者
わかる
◆◆◆◆◆◆◆
「うーん、なるほど……」
私の敗因は村人から聞いた情報が全てだと盲信した事か。
あの黒岩の裏にあった場所以外にも、機兵が何処かに潜んでた可能性があるんだね。
「むむむ、どうやって探そうか」
不意に、耳に悲鳴が聞こえてくる。
「……あ、まさか！」
はっとして村の方へ視線を向ければ、こちらの想像通り黒煙が上がっていた。
「そ、そういえばもう始まってた〜！」
急いで駆け出し、全力で村の方へと急行する。
走りながら拳に魔力を溜め、火炎放射器を持った機兵を視界に入れると同時に速度を上げる。
接敵する前に相手もコチラに気付いた様だけど、二回目ともなればそう手こずったりはしない。
火炎放射器は小回りが利かないらしく、相手を中心に円を描くように迫れば容易に近付ける。
地面に落ちた炎はそこそこ痛いけれど、それさえ無視すれば問題はない。
「オラァ！！ 〝強撃〟ッ！！」
今度はしっかりと一撃目から頭部を狙い、破壊した。
「頭部が弱点なのかな？ それとも純粋に装甲が薄い？」
基本的に頭部破壊が有効そうだな。
「あの、もしや貴方様は……」
「ん？」
以前と違う声に振り返ってみれば、そこにはボロボロな状態の女性が立っていた。
「あれ？」
あの男性じゃない？ あの男性は――あ、死んでる。
「なんで？」
え、なんで？ 前回は生きてたのに――
「――あ、私が遅れたからか」
村人が死んでも失敗にはならないんだね。
面白いと思って頂けたらブックマーク、評価、感想をよろしくお願いいたします！
