5.第一村人
「もしかしてこの村の人ですかー?」
全身泥だらけで、あちこちに傷を負っている男性に念の為の確認をする。
「あ、はい……貴方様は降臨者様ですか?」
「降臨者?」
「我々を助けに来て下さったのでは?」
どうやら村人で合っているらしいけれど、降臨者なんて聞き覚えのない単語が出て来て困惑する。
「まぁ、助けに来たのはそうですけどー」
チュートリアルクエストにもそう書いてたし。
「やはり! 貴方様は結晶塔のカミサマが遣わして下さった降臨者様なんだ!」
「えっと、んと、その……」
ヘルプ! なんか用語集とか、Q&Aみたいなのないの!
村人に一言断りを入れてから背を向け、必死にコマンド画面を開いて自分の疑問を解決してくれる何かがないか探す。
用語集もQ&Aも無いな……この公式掲示板とやらで誰かに聞く? でも回答を待ってる時間がな。
いや待て、私と同じ疑問を抱いた人が質問しているかも知れない。ワード検索で探してみよう。
「お、あった……」
なになに……水晶都市に住む人達の言う『攻略者』と同じプレイヤーを指す言葉で、追憶中に出逢った人々はプレイヤーの事を神の遣いや降臨者と呼ぶ事があると。
「なるほどね……」
疑問も解決したし、何時までも放置しておくのも悪い。村人さんとの話に戻ろう。
「ドーモ! 自分が降臨者でっす!」
「は、はぁ……ですから先ほどからそうだと……」
「あ、はい、すいません」
なんかごめんなさい。困らせちゃった。
「それで、先ほどの襲撃は今ので最後ですか?」
「はい、そうです。村を襲って来たのはあの一体だけです」
ふむ、まぁそこまで大きな村でもないから、あれ一体だけでもかなり余裕をもって制圧できるのかな。
でもなぁ、チュートリアルクエストがまだ終わってないっぽいんだよなぁ……つまりはまだ襲撃はあるって事だろう。
「それで、宜しければ村長に会って頂けませんか?」
「おっけー」
ゲーム知識というか、情報が足りていないし、どうすればこの村を守り切ったと判定されてクエストクリアになるのかも分からないし……ここはゲームキャラの誘導に従っておこうかな。
「……」
男性の後を着いていく道中、村の様子を見渡す。
まだ煙が出ている家屋がいくつもあり、村人達による消火活動が続けられていた。
観察する限りきちんと団体行動が取れていて、消火する際の各々の役割も明確に決まっている様だ。
人手は足りていて、連携も取れている。ここで私が手伝おうとしても邪魔になるだけだな。
「村長! 俺です! 降臨者様が魔物を倒して下さった!」
私をここまで案内した男性が、村の中央にあるクリスタルに一番近い建物に向かって大声を張り上げる。
「なんだと!?」
すると中から驚いたような声が響き、続いてドタドタと誰かが走る音が聞こえてきた。
「降臨者様は何処へ!?」
「ここです! 連れて来ました!」
「でかした!」
建物から出て来たのは初老の男性だった。白髪混じりの茶髪を撫で付け、髭をダンディに整えている。
「結晶塔の神は我らを見捨てなかった! 降臨者様! よくぞ村に来て下さった!」
凄い。テンションが、とても凄い。
「ささっ、上がってくだされ!」
「お邪魔しまーす」
招かれるままに村長邸へと上がり、そのまま応接室まで案内される。
「そちらにお掛けになってくだされ」
「失礼しまーす」
用意されていた席に座ると同時に、背後からやって来た女性が水の入ったコップを差し出してくる。
「ありがとうございます」
女性は微笑みひとつだけで何も喋らず、そのまま下がっていった。
「あの、村の火事は放っておいて大丈夫なんですか?」
「もうそろ鎮火する報告は貰っております。燃えた部分も村の外周ばかりで、まだ誰も住んでいない空き家ばかりです」
「あ、そうなんだ」
どうやら、少し村が手狭になって来たので新しく家屋を建てていたところだったらしい。
幸いにも怪我人は居ても、死者が出たという報告は来ていないのだとか。
まぁ、問題が無いようなら良かった。
「それで、降臨者様が来られたという事は、ワシらの村の結晶様が狙われているという事でしょうか?」
「えーと、多分そう」
チュートリアルクエストにも村のクリスタルを守れって書かれてたし、結晶様っていうのは多分クリスタルの事でしょ。
「倒された魔物は?」
「そのまま放置してけり」
「それはいけません! すぐに運ばせます!」
慌てたように部屋を出た村長が、大声で誰かに機兵を運んで来るよう指示するのが聞こえる。
ていうか、村の人達は機兵の事を魔物って呼ぶんだね。村の様子というか、文明レベルを見る限り機械とかは存在しないの感じかな?
機械っていう概念を知らない人が、自立するロボットを見たら魔物だと思うのも無理はないのかな。火炎放射器とか意味わかんないよね。
「失礼しました、後ほど運ばれて来ると思います」
「それは良いんすけど、アレ運んでどうするんですか?」
「奴らに遺体を回収されると即座に復活してくるんですよ」
「なるほど、修理されるのかな」
「それと、降臨者様はアレら魔物を吸収する事で力を得るとか」
「ほ? そうなの?」
出番だ! 公式掲示板ちゃん! ……なるほど、倒した機兵は武器の素材になったり、吸収する事で耐久や魔力を回復できるんだね。
正確には機兵というより、文明の産物であれば吸収できるっぽい。
「……マジで力を得られるっぽい」
「それは良かった」
最初から回復手段があるのは良い事だね。よく出来たゲームだ。
「それでですな、降臨者様には魔物の拠点をどうにかして貰いたく……」
「あー、確かに大元をどうにかしないと守り切った内には入らないか……」
その拠点を破壊すればチュートリアルクエストも終了かな。
「拠点の場所とか規模とか分かります?」
「それはもちろん、奴らの姿を確認できた段階で、いつか降臨者様が来て下さると信じて監視しておりました」
そう言って村長は地図を取り出し、村から少し離れた地点を指し示した。
どうやらここに極小規模な拠点があり、常に五体ほどの機兵が駐屯しているらしい。
「よし! じゃあ、早速行って来ます!」
早めにチュートリアルをクリアしてハルカとナナと合流したいしね。
面白いと思って頂けたらブックマーク、評価、感想をよろしくお願いいたします!




