4.初戦闘
「最初の追憶ってなん――」
ですか、と全て言い終える前に私は見知らぬ場所に立っていた。
なだらかな草原が続いているかと思えば、途中でベタ塗りされたように汚染された大地が地平線の彼方まで広がっている。
草原が続くへと視線を向ければ、遠目に村と四階建ての一軒家くらい大きなクリスタルが聳え立っているのが見えた。
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難易度:☆★★★★★★★★★
クエストNo.1
名称:村のクリスタルを守り切ろう
種別:チュートリアル
時刻:C.C4852/04/15/17:42
説明:アナタが訪れた村が機兵に狙われている。村のクリスタルが破壊されれば、そこに人類は住めなくなる。襲い掛かる機兵を撃退して村を守ろう。
報酬:100煌貨
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村のクリスタルを視認すると同時に、眼前にそんな画面が現れた。
どうやらチュートリアルの一環らしい。遠目に見える村を救えば良い感じなのかな。
「戦い方は……おぉ、現実と変わらない動きだ、このまま殴れば良いのかな?」
シュシュッとシャドーボクシングを行ってみる。めちゃくちゃ調子が良い時の動きだ。
最初に獲得した【強撃】や【魔力放出】はどうするのかな〜、とか考えてたら頭に使い方が自然と浮かんで来た。便利すぎる。
「……こう?」
とりあえず近くにあった岩に向けて【強撃】を発動してみる。
「おぉ、なるほど」
大きな音を立てて岩に拳がめり込み、全体に罅が走った。
「じゃあ、お次は――」
拳に魔力を纏わせ、亀裂の入った岩に向けて振り下ろす。岩は見事に砕け、破片が周囲に飛散した。
一撃目と大きく異なる結果に驚くと同時に、違和感も抱く。
「……なにこの感触」
なんだろう、一撃目と比べて岩が柔らかくなった?
なんか、魔力が触れた箇所から岩が弱体化したような気がする。
「あー、耐久と魔力が減ってる」
改めてスキルの説明を読もうとステータス画面を開くと、自分の耐久と魔力がそれぞれ少し減っているのが分かった。
手の甲を見ればちょっと怪我をしていた。そりゃそうか、拳を保護せずそのまま岩をぶん殴ったら怪我するよね。
あぁ、だから魔力よりも耐久の方が多く減ってたんだ。
「ん〜、これは武器が必要だな? メリケンサックとか無いの?」
何も無かったら最初に剣術とか選んだ人は大変だよ。
そう思いつつ、画面を一通り弄ってたら『初期装備BOX』という名前のアイテムを発見した。
「へぇ、最初の武器を選べるんだぁ……じゃあナックルガードで」
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レア度:☆★★★★★★★★★
名称:古びたナックルガード
種別:装備品
攻撃力:5
耐久値:80
魔力伝導率:G
説明:古びたナックルガード
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「……なるべく早く新しいのを手に入れた方が良いかな」
耐久値的に使ってたらすぐ壊れそうだ。
「攻撃力もそこまで高くないし、素手と交互で使うか」
多分だけど、肉体の耐久は減ってもそのうち回復するでしょ。装備の方は回復の仕方とか分からないから、壊れないようにしないといけない。
拳を痛めて来たら装備して、拳が回復したら外して……みたいな感じで最初は何とかしよう。
「にしても機兵ってなんだ? PVに出てたやつ?」
村へと歩きながら、クエストの内容を改めて確認してみる。
機兵ってのは、文字から受ける印象そのままだと機械で出来た兵士としか分からないけど、これがこのゲームでの倒すべき敵ってやつなのかな。
学校でハルカに見せられたPVではめっちゃデカくて恐ろしい見た目だったけど、まさか最初からあんなのと戦えって訳じゃないよね。
「ん? あれ?」
いったいどんな敵なのかなぁと想像を膨らませていると、何やら煙の匂いが漂って来た。
ハッとして顔を上げると、村から煙が上がっていて、人々の悲鳴まで聞こえてくる。
「やばっ、もう始まってんだ!」
すぐにその場から駆け出し、急いで村へと向かう。
段々と距離が詰まるにつれて、村へと火を放っている存在に気付いた。
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脅威度:☆★★★★★★★★★
名称:Alice4845ac
種別:歩兵
説明:最新型の汎用機兵。未だ残る小さな村々を滅ぼす尖兵となる。偵察、破壊、略奪が主な任務。
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「……結構シビアな世界観だったり?」
兎頭の人型ロボットを視認した途端現れた情報に、もう少し下調べすれば良かったとちょっと後悔。
ハルカの弟君はこのゲームの何にハマったのやら。
「とりあえず――先手必勝ォ!!」
とか叫んでみたけど、当たり前のように気付かれて火炎放射器を向けられてしまった。そりゃそうだ。
「っどわぁ、危ない!?」
真横に転がって噴射される炎を回避し、兎ロボットを中心として円を描くように徐々に距離を詰める。
私を追い掛けるように炎が大地を舐め、撒かれる煙が視界を悪くする。
「――〝強撃〟ッ!!」
相手はデカい火炎放射器を担いでいて機動力がなく、両手も塞がっている。
そのまま無防備な横腹に向けて、魔力を乗せた一撃をお見舞いしてやる。
【※※※※※】
しっかりと腰を入れ、抉り込むように拳を突き刺してやれば、兎ロボットは理解できない電子音を漏らしながらその機体をくの字に折った。
鋼鉄を殴った拳が痛い。けれど、きちんと何かを砕いて破壊したという手応えはあった。
「さらにもう一発〝強撃〟ッ!!」
位置が下がり、狙い易くなった頭部へと躊躇いなく全力の拳を振り抜く。
【※※※――】
硬質な音を響かせ、半壊した兎の頭部は綺麗な放物線を描いて飛んで行く。頭部を失った胴体がそのままゆっくりと倒れ込んだ。
「いつつ……いや、本当に痛くはないんだけど、咄嗟に痛いって思っちゃうんだよね。凄い技術だ」
両手をプラプラさせながら、偽物の痛みが引くのを待つ。
本当に痛覚が刺激されている訳じゃない。ただ何となく、何かにぶつかった時に痛くなくても咄嗟に「痛っ」と口に出ちゃう感じというか……うーん、説明するのが難しい不思議な感覚だ。
でもこれは要するに、自分でも無傷では済んでいないという事だよね。
「全力の攻撃二発、自傷付きでやっと雑魚一匹か」
他にもまだ居るのかなと周囲を見渡してみる……うん、あれ一体だけだったみたいだね。
「これ、どうすっかな」
敵の死体……死体で良いのかな? がまだ残ってるんだけど、これこのままで良いのかな。
「あの、もしや貴方様は……」
「ん?」
声に振り返ってみれば、そこにはボロボロな状態の男性が立っていた。
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