23.人助け
書き溜めが尽きてしもうた……
「ちょっと行ってくる」
二人に一言断ってから声の方へとズンズン進んでいく。
建物の角を曲がったところで、複数の男性が寄って集って一人を囲んでいるのが視界に入った。
囲まれている子はローブで全身を隠していて、正確な性別や年齢は分からないけど、その身長と声の高さから女の子だと思われる。
「大事そうに持ってたんだ、高いやつなんだろ?」
「返して!」
どうやら女の子から大事な物を、アタッシュケースの様な物を取り上げているらしい。
男達の武装は……パッと見ではくたびれた下町のオッサンって感じだけど、彼らはみんな武器を持っていた。
こんな世界観だから武装は当たり前のかも知れない。例え丸腰でも、私の様に格闘術スキルがあるから油断は出来ない。
「あ?」
でもまぁ、ナイフを抜いてるのはアウトだよね。
「ゴガッ――!?」
近付いて来た私に気付いた一人の鳩尾を殴り上げる。
男は地面から数センチ浮いた後、口から吐瀉物をぶちまけながら蹲った。
「なっ、誰だテメっ――ッ!?」
股間を蹴り上げて黙らせる。こういう時、喧嘩をする時、先ず初めに不意を突く。不意打ちで数を減らす。
そして絶対に躊躇してはいけない。大怪我させてしまうかもとか、殺してしまうかも、なんて雑念は捨てておく。喧嘩は躊躇しない奴が一番強い。
「誰だっ――」
「やめっ――」
「ぎゃっ――」
相手の態勢が整う前に畳み掛ける。異常に気付き、自分達が攻撃されている事に気付き、対応する行動を起こされる前に数を減らす。
顎を打ち砕き、側頭部を叩いて脳を揺らし、喉を突いて出鼻を挫く。
倒せなくても良い。残りの奴らから見て、動ける味方が減っている事実が大事だ。急に現れた人間に味方の大多数が行動不能にされている現実に、大抵の奴らは腰が引ける。
「な、なんなんだよお前はァ!?」
そしたら後は簡単だ。相手が様子見している内に、蹲っている奴らにトドメを指すだけ。
復帰できない様に一発一発丁寧に、きちんと気絶させていく。
これで相手は最初から最後まで数の有利を活かす事なく、ただただ無防備に私に制圧された。
気絶した奴らを残りのオッサンの足元にぶん投げ、失せろとジェスチャーすれば終わりだ。
「ひ、ヒィ!」
「逃げろ!」
「置いて行くな!」
お、優しい。ちゃんと気絶した仲間を引き摺って逃げた。
にしてもそうかぁ、私って特にスキルとか使わなくてもワンパン出来る筋力なんだ。
「大丈夫?」
「……っ、え、う、うん……大丈夫、です……」
彼らが置いて行ったアタッシュケースを拾い上げ、持ち主であろう女の子に手渡す。
「ヒナミ! 迷子になりやすいんだから先に行かないで!」
「なんだ? 解決したのか?」
その直後、ナナとハルカの二人が追い付いて来た。
「うん、暴漢は撃退したよ」
「そう、なら良いけれど」
「そんなに強くなかったのか?」
「全然、ワンパンだったよ」
手加減して良かったというか、ゲームだから相手の強さがパッと見で分からなかったけど、猛撃とか間違っても使わなくた良かったよ。
「それで、君も迷子?」
「えっ? あっ、えっと……そうです?」
「なんで疑問形?」
絡まれていた子に改めて声を掛けてみる。
「こんな所に一人でどうしたの? 保護者は?」
「えっと、一人です……ちょっと用事があって」
「また絡まれたら危ないし、目的地まで同行しようか?」
目線が私の胸くらいまでしかない。めっちゃ身長が低いし、これ本当に子どもなんじゃないか。
こんな小さな子を、それもついさっき絡まれたばかりの子を放ってはおけないよ。
「えっと、良いんですか? 貴方達の用事とか……」
「全然全然、へーきへーき」
「私達はこの後はもう寝るだけだから良いのよ」
「ウチら難民キャンプに行って終わりだから」
そうそう、私達はもうこの後すぐ寝るだけだから構わないのよね。
「難民、キャンプ……」
そう呟きながら、女の子は私達三人をゆっくり見渡した。
「……あの、もしよろしければ、私の工房に泊まりませんか?」
「え?」
「助けて貰った恩も返したいですし、貴方達のような綺麗な女性が難民キャンプで寝るなんて危険ですよ」
まぁ、確かにログアウト中に装備とか盗まれるのはめっちゃ嫌だなとは思ってた。
「どうする?」
「別に良いんじゃね?」
「……確かにきちんと屋内でログアウト出来るなら助かるわね」
反対意見が出なかったので女の子に向き直る。
「じゃあ、お願いしても良いかな?」
「もちろんです! 私の目的地も工房なので一緒に行きましょう!」
女の子は元気よく頷き、そしてフードを外した。
「私の名前はアスタと申します! よろしくお願いします!」
青く長い髪を一つに纏め、犬の耳のような癖っ毛を跳ねさせながら、アスタと名乗った少女は私達に笑顔を向けた。
今晩の宿ゲッート!




