21.ロールプレイ
「さて、そろそろ僕たちも行くとしよう」
初心者三人組がここを発ってから少しして、殆どの人員が集まったのを見て腰を上げる。
短時間で殆どの人員が集まったことから推察するに、どうやら【True・historia】は降臨地の占領をあまりしていないらしい。
何か他に狙いがあるのか……そもそも前回も占領したのはクエストの終盤からだ。あまり意味のある行動とは思えない。
ふむ、僕たちをここに集める事が目的だったとか? だとしたら集めてどうするつもりだ? ……ダメだな、こんなのただの妄想でしかない。
「オーガスタスさん、あの三人見当違いの方向に行っちゃいましたけど良いんですか?」
「あぁ、構わないよ」
聞かれなかったしね。
「できる限り不確定要素は排除したいんだ」
初心者は本当に何をするのか分からない。もしも僕たちのギルドに入ってくれていたのなら、予め言って聞かせる事は出来たかも知れない。
でも彼女達は返事を保留にした。ギルドのメンバーでもない子達に僕らの方針を押し付ける訳にもいかない。
特に序盤は大事だ。ここでミスをすれば取り返しがつかなくなる。
「それよりも準備するんだ。これから帝都を襲う大規模侵攻を防ぐ必要がある」
これをプレイヤー達が防ぐ事で帝都の警邏部隊の長からの信頼を得られ、帝国の頂点に座す〝ほしふり〟との謁見の仲介をして貰える様になる。
助けないと帝国の寿命が縮む事になるし、とても重要なイベントだ。未だに先ほどの襲撃以外で影が見当たらない【True・historia】が気になるが、だからといって怯え過ぎて動けなくなるのは論外だ。
大規模侵攻を凌ぎ、巫女との謁見を終えた後に、改めて降臨地での様子や、他に【True・historia】と会敵したメンバーが居れば詳しい状況を聞き出し、情報を精査して奴らの目的を探ろう。
「幹部メンバーが揃っているとはいえ、【True・historia】の妨害もあるかも知れない。気を抜かないでいこう」
「はい!」
「其方は東門の守備責任者でありながら敵前逃亡した! よって死罪を言い渡す!」
「お待ちを! 誤解です! どうか! どうか!」
王の間に怒号と絶叫が響き渡る。壮年の騎士を断罪するのは、まだ齢十五にも満たない見た目の少女だ。
星降りの巫女しか装着する事の出来ない額冠はシミひとつない色白の肌によく映え、燕尾服を思わせるデザインの帝服に包まれた身体のラインは、少女が大人としての魅力に開花し始めている事を如実に知らせていた。
垂れた犬耳を思わせる横髪、首の後ろで一つ結びにされ背中に流された長い勿忘草色の髪はよく手入れが行き届いている。
初心者が最初に挑戦する世界クエストという事を差し引いても、プレイヤーからの人気が高いのも頷けるキャラビジュアルだ。
帝都への大規模侵攻を食い止め、この王の間に招待された僕らの前で、彼女は苛烈な為政者として振る舞っていた。
「次! 敵の動きは今どうなっている!? 定期報告が来ていないぞ!」
「そ、それが……」
「何度も言わせるな! 戦況の報告は新しければ新しいほど良い! 更新を怠るな! こちらが忙しなく働いた分、奴らの機会が減ると思え! 家族や友人を死なせたくなければ足を止めるな!」
中学生くらいの幼い少女に成人男性が叱責され、慌ただしく駆けていく様は圧巻ですらある。
「……エベルク侯からの物資運搬に遅延が見られるな、機獣どもに街道封鎖でもされたか?」
「もう備蓄が少なく、このままでは領民が飢えると返事を貰っています」
「……ッ! おのれ、古狸がほざきおって! その領民から搾取した物資が蔵で腐り始めている事などお見通しだ! 蝋燭の一本も残さず吐き出せと伝えよ! 帝都が落ちれば人類の終わり、地上の財は地獄の沙汰に何の影響も与えんとな!」
大の大人が縮こまり、自分の娘よりも若いであろう少女の顔色を窺っている。
「次だ! ……流れの客人が何やら此度の防衛戦に於いて、目覚ましい活躍をしたそうだな?」
ついに来た。僕らが彼女と言葉を交わす番だ。
「ははっ、この者達は防衛戦に於いて我らの助太刀をして下さいました。特に頭目であるオーガスタス殿の活躍は凄まじく……」
「よい、詳細な報告は後で持ってまいれ」
「ははっ!」
僕らを招待してくれた警邏部隊の長が引き下がり、そして星降りの巫女の視線が僕らへと向けられる。
「我が名はアスタリア! この人類最後の国家を守護し、治める者!」
彼女のこの名乗りを久しぶりに聞いたな。
「客人、貴様らの正体はなんだ? 特に頭目の……戦士レベル7ほどの傑物が今まで何をしていた? かの水晶都市からの連絡はないが」
ここだ、ここが正念場だ。
下手な嘘は見破られる。けれど考えなしに発言しては信頼を得られない。
毎回同じ回答をすれば良いという訳でもないため、いつもこの段階のやり取りは緊張する。
「僕達は――」
「私達は未来からやって来ました! 帝国を滅びの運命から救う為に来たのです!」
背後から聞こえた声に驚き振り返る。周囲に居並ぶ官僚達のざわめきが耳に入った。今の僕は人には見せられない顔をしていると思う。
「未来から、だと……?」
「はい! 私達は滅びの運命にある帝国を救う為に未来から――もがっ!?」
仲間の一人が新人の口を塞ぐがもう遅い。このループは失敗だ。
「……く、クク、ハハッ! ハッーハッハッハッ!」
巫女アスタリアが笑い声を上げる。
「未来人を自称するだけでもお笑い草なのに、寄りにもよって帝国が滅びるだと……?」
「待って欲しい! 彼の発言は僕達の総意ではない!」
もうダメだろうが、最後まで諦めず軌道修正を試みてみるが――
「黙れ! 人民の不安を煽り、士気を挫かんとする悪漢どもよ! 帝国は滅びない! この私が存在する限りな!」
やはり、聞く耳を持ってくれない。
「そこな愚か者どもよ、帝都防衛の功績に報い一度は赦そう……だが二度目はない! 私の気が変わる前に疾く失せよ! ダイアン警邏隊長! 其方が連れて来た者共だ! 責任もって帝都から追放せよ!」
「……はっ!」
僕らは僕らを招待してくれた警邏隊長に促され、帝都を追い出された。
「――ギルドから抜けてくれ」
簡易拠点に戻って来てすぐに勝手な真似をしでかした新人を呼び出し、端的に用件を述べる。
「なっ!? なんでですか?! 理由を言ってください!」
面倒だなと、頬を撫でながら溜め息を一つ。
「居るんだ、君のようにロールプレイをしたがる子は……」
「それがダメだって言うんですか!」
「別に否定はしないよ」
「だったら!」
ヒートアップする元新人に手のひらを向ける。
「僕らはね、本気でこの世界を救おうと思ってるんだ」
「……は? それは俺だって!」
「違う、違うんだ……君の様にロールプレイを楽しんだり、ゲームクリアを目指すという意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味なんですか」
「そのままの意味だよ」
僕らは、本気で世界を救おうと頑張っている。
「予めギルドの方針は伝えていただろう? 世界クエストではロールプレイ等は禁止、真面目に取り組み、僕らの指示に従うようにと」
「それは……でも! じゃあ何のためにこのゲームしてんだよ! こんなすげぇAIが搭載されたNPCを相手に勿体ないだろ!」
「だから、ギルドの方針に従えないなら抜けて欲しい。僕らと関係ないところでなら君がどんな遊び方をしようと邪魔しないから」
「そ、それじゃあ……」
「困るんだろ? 僕らの、このギルドの力を借りなきゃ君はアスタリアに会えなかったんだもんね?」
「……」
「このギルドに加入する利点だけ享受しておきながら、ギルドの方針には従わず好き勝手にするなんて事が許される訳がないだろう」
何かを利用する事で得られるメリットだけ受け取って、利用する事で発生するデメリットは受け入れられないなんて我が儘は許されない。
「だから抜けてくれ、君はもう必要ない」
「……っ! だったら好き勝手やらして貰いますよ!」
「あぁ、好きにするといい……でも、世界クエストの邪魔になりそうだったら全力で排除するからそのつもりで」
「なっ! なんだよそれ!」
世界クエストの進捗に関係ない内は好きにすればいい。邪魔になったら潰すだけだ。
「は、ははっ! このギルドから裏切り者が多数出る理由が分かりましたよ!」
「へぇ」
「良いんですか?! このまま【True・historia】に加入しますよ」
なんだ、そんな事か。
「だから、好きにしなよ。もう君に興味ないんだ」
「クソっ! 今さら戻って来いなんて言っても遅いですからね!?」
「あぁ」
裏切り者が出る理由は、もっと別にある。僕らにも、彼らにもどうしようもない理由が。
「出て行きましたね……あれで良かったんですか?」
「ん? ……あぁ、たったレベル3しかなかったんだから幾らでも替えはきくさ」
そこら辺の初心者を捕まえて、ちょっと僕を殴って貰えればすぐに到達できる程度でしかない。
「同じレベル3なら……あの子達の方が興味はあるかな」
ヒナミ、といったかな……魔法使いレベル3でありながら、拳で格上の魔法使いレベル4を打倒してみせた女の子。
「自己申告でしかありませんけどね」
火力的にはレベル4以上はあってもおかしくはないからね。
「そうだね、けれど彼女達が入ってくれたならちょうど良いんだけど」
今さっき抜けた分を補ってもお釣りが来ると思う。
「それよりも、どうしようか……帝都の上層部と繋がれないんじゃ、ストーリーの進行具合を確認できない」
これまで失敗してきた攻略の数々で、この国の滅亡はアスタリアの近辺に原因があると推察できる。
だから出来るだけ彼女の近くに居れる立場に収まり、周囲の状況を注視して情報を得る事が目的だった。
けれど僕たちは今回のループでは彼女に嫌われてしまったからね、何か大きなイベントが発生してもすぐには駆けつけられない。あらゆる事に後手に回る事が決定してしまった。
「今回は諦めますか?」
「……いや、できる限りの事はしておこう。今回が失敗だったとしても、次のループに情報を持ち越せるのが僕らの強みだ」
もしかしたら、この状態から帝都の上層部に再度食い込めるルートがあるかも知れない。時間いっぱいまで足掻いてみよう。
「【True・historia】の連中が何を企んでいるのか分からない。みんな進捗に行動してくれ」
「了解です」
さて、僕たちの様に防衛戦に参加した他プレイヤーに協力を打診してみようか。簡単には行かないだろうけど。
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