20.中隊長
「……なんかヤバくね?」
「……ヤバそうだね」
遠目に見付けた集団を尾行して暫く経った頃、私たちは発見されないよう姿勢を低くしながら機兵たちが進む先を見ていた。
お城のように巨大な水晶を中心として、囲むように拡がった大きな都市が襲撃されていた。
あちこちで煙が上がり、爆音が轟き、人々の悲鳴や怒号がここまで届く。
私たちが尾行していた集団は正に、あの襲撃に合流しようとしているらしい。
「初心者の手に負えるイベントじゃなさそうね」
「え〜、せっかくだし参加しようぜ!」
「そうだよ! あの尾行していた集団くらいなら合流前に倒せるかもよ!」
「……まぁ、そうね。ゲームを遊んでいるのにイベントを避けるのもおかしな話ね」
よっしゃ決まり! ナナも説得できたところで突撃準備を開始しよう。
「みんな準備は良い? 最初に私が大きくぶちかますから、後から続いて」
「いいぜ」
「呪いの準備をしておくわね」
私達が追っていた集団は強そうなのが一体、そしてそいつを囲む様にして同じ見た目の奴らが十五体ほど居る。やはり最初に頭を潰しておくべきだろう。
頭の中で優先順位を定めると同時に疾走スキルで加速――何かを感じ取ったのか、敵の一体がコチラに振り返る直前で跳躍し、魔力放射で空中移動、奴らの頭上に陣取ったら最大火力をぶつける。
【※※※※――ッ!!】
頭上の私を指差し、何かを叫ばれる。
「遅い!!」
一斉に向けられる銃口から弾が発射される前に、最大まで溜めた一撃を振り下ろす。
「――〝猛撃〟!!」
瞬く間に迸る落雷に追随する様に、緩やかに降りていく霜柱――自らが生み出した爆風で吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、少し離れた地点に降り立つ。
果たして結果はどうだと顔を上げた私へと弾幕が殺到する。
「――〝防御〟!!」
間一髪でハルカが私を庇う。私の前に立ち、大剣を盾に弾幕を防いでくれる。
「これでも食らいなさい!」
敵の頭上に呪詛の浮かんだ巨大な水球を生み出したナナが、それをそのまま落とした。
すかさずハルカの後ろから飛び出し、庇われている間に溜めていた魔術を拳から放つ。
「〝猛撃〟ッ!!」
呪い混じりの水が凍てつき大きな氷壁が生じ、同時に大きくスパークを放った。
「……どうだ?」
爆風が晴れ、氷壁の向こう側を睨み付ける。
――ピシッ
「! 来るわよ!」
ガシャンと音を立てて氷壁が崩れていく。中から現れたのは巨大な鉄の盾としか形容できない物体だった。
【※※※※……】
鉄の盾だった物が変型、分離していく。
どうやら一部の一般機兵が合体変型して巨大な盾となって機能していたらしい。
ただ全員が盾となれた訳ではないらしく、鉄の盾の周囲には火花を散らしながら機能停止した機兵の残骸が幾つも残っている。
分離した機兵はそのまま大剣と大盾となり、デザインの違う強そうな個体が装備した。
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脅威度:☆☆☆☆★★★★★★
名称:BloodAlice4437M.L+7
種別:中隊長
説明:C.C4437年に運用開始された攻勢機兵。その中隊長型。都市を焼き、降臨者を排除し、人類を殺戮するのが主な任務。率いる配下七機を装備した状態。
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「星四つ……勝てるかしら?」
「三人居れば大丈夫だろ」
「いけるいける」
特に根拠は無い。けれどやってやれない事はないと思う。どうせ游雲よりも数段弱いんだろうし。
まぁ、負けたら負けたで、その時どうするか考えよう。
【※※※※――!!】
「オラァ!!」
機兵の振り下ろしをハルカが受け止める。ナナの生み出した水の触手が相手の動きを妨害した上でなお、ハルカを中心に地面が割れる。
そう長くは保たないだろう。私はすぐに敵の注意を惹き付けるべく攻撃を行った。
「かっ、た……!?」
【※※※※!?!?】
放った猛撃は大盾で防がれた。どうやらただ雑魚を集めて固めただけの装備では無いらしい。
威力が高い分、真正面から防がれた時の反動もまた凄い。攻撃を放った右腕が痺れる。
「まぁ、でも――盾はぶっ壊せたな!」
「ほんっとにエグい威力してんな」
どうやら盾を破壊されるとは思わなかったのか、機兵も少し動揺している様に見える。私の勘違いか自惚れだったら恥ずかしいけど。
「おらおらぁ! 武器も破壊してやんよぉ!!」
【※※!】
「大事な部下がまたスクラップになっちまうなぁ!!」
たった一発でお釈迦になった大盾と同じく、その大剣とスクラップに変えてやんぜ!
「完全に輩ね」
「ヒナミばかり警戒してて全然こっちにヘイトが向かねぇ……一応ウチ壁役なんに」
薙ぎ払いをスウェーで回避しつつ、上体を起こす勢いそのままに殴る。
やはり胴体は堅く、手応えはあるものの決定打にはなり得ない。
横跳びで叩き付けるように振り下ろされた大剣を回避するも、ガシャりと音を立てて大剣の側面に複数の銃口が現れる。
「やらせるかぁ!」
一斉に発射され、爆発したかと見紛うほどの攻撃――それを疾走で割り込んだハルカが受け止めてくれる。
「かたじけパーリナイ!」
ハルカを足場に空高く跳躍――魔力放射で急加速しながら脚に魔術を纏わせかかと落としで猛撃を放つ。
「――ラァッ!!」
【※※――ッ!!】
地面に向けて弾を発射した事で有り得ない速度と角度で起き上がった大剣が、私の脚と衝突する。
真っ白に凍てつく大剣が砕け折れ、それでも勢い止まらず私の踵が機兵の肩に深く突き刺さる。
電撃が内部から焼き焦がし、スパークした箇所から霜が降りていく。
「シャアッ!!」
横原辺りで止まった右脚を軸に身体を捻り、回転を加えた蹴りを機兵の横っ面に叩き付ける。
【※、※※……】
まだ動くらしい。伸ばされた手から逃れるため、突き刺さったままの脚から魔力を放射して飛び出す。
この魔力放射によって機兵の凍った半身が砕ける。その機を逃さずナナの水が内部へと殺到した。
「――〝死ね〟」
ナナの呪いの言葉に合わせて侵入していく水が真っ黒に染まっていく。
次第に機兵の全身に本能的な忌避感を喚起させる文字が浮かび、蛇のように這い回る。
【※、※……】
まだ動く。でも鈍い。
「〝強撃〟!!」
ハルカの大剣が両足を切断する。
「これでトドメッ!!」
前のめりに倒れる機兵の顔面を全力の拳で撃ち抜く。
「――〝猛撃〟ッ!!」
そこまでしてやっと、機兵は活動を止めた。
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