14.テイク2
「では諸君! また会おう!」
高笑いを終えたカノンがクリスタルに吸い込まれて消える。そして彼女に続くように、十数人のプレイヤーがクリスタルへと触れて消えていった。
「アイツら全員PKギルドの一員だよ」
「行かせて良いの?」
「ここでは戦闘行為が出来ないんだ」
「じゃあ、どうするの?」
「どうもこうも正面突破するしかない。……君たちも来るかい? リセットされてまた参加できる様になったけれど」
まぁ、このまま引き下がるのも詰まらないし……二人と顔を見合わせて、無言で頷く。
「でも私たち初心者だよ?」
「気にしないでいいよ、僕たちベテランがPKギルドを抑えるからその間に逃げれば良い」
「世話焼きなのね」
「なに、味方を増やしたいのは僕たちも同じなのさ」
どうやら【True・end】のメンバーから【True・historia】に寝返るプレイヤーが何人か出ているらしく、意外とその勢力は拮抗しているらしい。
全体のプレイヤー数はコチラの方が多いけれど、トッププレイヤーだけに絞ればその戦力はほぼ同じだとか。
「そんなにPKって楽しいのかしら?」
「楽しくてやってる訳じゃないと思うけどね」
「何か知ってるの?」
「このゲームはネタバレ厳禁なのさ」
オーガスタスは『詳しくは塔を登ってくれ』と言って口を閉ざした。
「……まぁ、いいわ。貴方達を利用させて貰うわね」
「そうしてくれ」
何かあったら連絡してくれと言って、彼は仲間たちらしい集団の方へと去って行った。
「二人はどう思う?」
「争ってんなーとしか」
「要するにゲームを進めれば良いって事でしょ」
この追憶のクリスタルタワーを登る事になんの意味があるのか、登る事で彼らが対立する理由が分かるのか、それは現時点では全く分からない。
けれど、このゲームをこれからも遊ぶのであればいつか知る事になるだろう。だから今気にしても仕方ない気がする。
「世界クエストを一回体験してから考えてみようよ」
「……そうね、それが良いかもね」
「先の展開について考察するよりもさっさとページを捲った方が良いって事だな」
「お、ハルカかっこいい事言うじゃん」
「弄るなよ」
ナナはいつも考え過ぎなんだよねー、その慎重さのお陰で助かった事も何度かあるけど、これはゲームだから失敗しても特にペナルティとか無いし。
「じゃあ改めてワールドクエストに挑戦しようぜ!」
「仕切り直しだな」
「分かったわ、今は三人の時間を楽しみましょう」
という事で早速クリスタルへと触れる。オーガスタスはまだ誰かを待っている様だったが、彼の仲間と思われる多くのプレイヤーが既にクエストへと挑戦している。このまま挑戦しても問題ないだろう。
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難易度:☆☆☆☆☆☆☆★★★
ワールドクエストNo.1
名称:終末人類圏ミーティア
種別:人類史修正
時刻:C.C4587/09/10/07:30
説明:空気は淀み、大地は汚染され、海は濁り、国家は悉く滅ぼされた。数多の難民が集い、未だ抵抗を続ける人類最後の地。一人の少女が治める帝国の滅亡を回避せよ。
報酬:現代の人類圏が拡大する
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あぁ、さっきと時刻が違うなとぼんやりと考えていると、視界の景色が切り替わった。
「……誰も居ない?」
「さっきと飛ばされた場所も違ぇな」
二人の言葉に周囲をキョロキョロと見渡してみる。
確かに誰も居ないし、アリスにPKされた場所とは違う景色が広がっていた。具体的には森の中だった。
「ここどこ? 森の中っていうのは分かるんだけど……」
「ここはもう帝国領内なのかしら?」
「とりあえず移動してみようぜ」
なんか薄暗いし、木々の形も不気味だし、地面はなんかずっとねちゃねちゃしてて気持ち悪い。
「歩きづらいね」
「汚染されているみたいだからな」
「雛美、跳躍で街の方角とか分からない?」
「おけ、やってみる」
ナナにお願いされて即座にその場から跳躍――高さが足りずとも木々を蹴って上空へと駆けていく。
「う〜ん、パルクール」
思った事をボソッと呟く。そんな事をしていたらあっという間に木々の頭上へと躍り出た。
「街が見えずとも森の切れ目が分かれば――げげっ!?」
魔力放射で滞空時間を引き延ばしつつ周囲を見渡した私のすぐ横を、竜の様な何かが高速で通り過ぎた。それは急旋回でコチラへと引き返してくる。
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脅威度:☆☆☆★★★★★★★
名称:Lightning4458BB
種別:偵察兵
説明:C.C4458年に運用開始された偵察機兵。上空からの偵察と破壊が主な任務。
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「あぶなっ?!」
機兵が頭上を掠めて飛んで行く。魔力放射によって急速落下する事で回避した。
「ヒナミ!」
「大丈夫か!?」
「平気だよ!」
着地の直前で魔力を放出する事で、その衝撃を和らげる。
「何処だ!?」
「突っ込んで来るわ!」
轟音と共に周囲の木々が弾けていく。どうやら機銃掃射されているらしい。
「二人はウチの後ろに!」
大剣を構えて盾とするハルカの後ろへと、ナナと同時に滑り込む。
「私が呪いで動きを止めるから、隙を突いて攻撃して」
「分かった!」
私が返事をした頃にはもう既にナナは周囲に複数の水球を浮かべていた。
それぞれの水球には墨で描かれたような、不思議な文字や記号の様なモノが滲んで浮かび上がっている。
「――〝墜ちろ〟」
急降下してくる敵に向かって水球が発射されていく。
機銃掃射によって撃墜されたモノも多いが、それでも幾つかは直撃した。
【※※※※!?】
その途端、急に制御を失ったように機兵が錐揉み回転しながら墜落してくる。
木々の枝葉をへし折り、デタラメな方向に銃弾をばら撒きながら迫っている。
「――〝猛撃〟」
拳に雷と冷気を纏わせ、打ち出す瞬間に魔力放射で加速させる。
まるで砲弾のように飛び出した私の拳は、タイミング良く墜落して来た機兵の顔面を撃ち抜いた。
【※※――……】
頭部の四割を抉り取られた機兵は、僅かにスパークを放って停止した。
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