13.PK
「我が名は勇者カノン! 世界を救う者である!」
ババンと何処からか聞こえてくる効果音と共に、特撮ヒーローの様なポーズを取る謎の少女。
外見年齢は小学生高学年か中学生くらい。背が低く、全体に小さくて幼い印象を受ける。
群青色に染まった長い髪の毛を地面に引き摺りながら、満面の笑みをコチラに向けてくる。
「貴女、今【True・historia】と言ったかしら?」
「如何にも! 我は正義の秘密結社とぅるーひすとりえの大幹部にして勇者のカノンである! さぁ、我が手を取るがいい!」
ふんすふんすと鼻息を荒くして少女が手を伸ばしてくる。
「どうするよこれ」
「自分の髪を踏んじゃわないかな」
「雛美は気にするところ違うわ」
ハルカとナナの二人でこそこそと話し合う。
「あれだろ、ナナに忠告されたPKギルドだろ?」
「そうよ、絶対に関わり合いになりたくないわ」
「穏便に断る?」
「断ったら襲われるわよ」
「この場は承諾して逃げるのは? 実際に入る必要はないし」
「それが良いかも知れないわね」
話は決まり、三人揃って少々に向き直る。
「話し合いは終わったかな?」
「えぇ、私たちは【True・historia】に入るわ」
「なんと! それは素晴らしい!」
うん、嘘だけど、普通に騙されてくれそうで良かった――
「――じゃあ、早速加入してね!」
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カノンから申請が届きました
【True・historia】に加入しますか?
Yes/No
====================
「「「……」」」
どうするどうすると二人と目を見合わせる。
「……そういえば、ここで何をしていたのかしら?」
意を決してナナが口を開いた。どうやら時間稼ぎをするつもりらしい。
「むむっ? カノンはここでプレイヤーの皆さんを勧誘していたのです!」
「勧誘?」
「我々はプレイヤーが降り立つ地点の内、幾つかを占領する事が出来たのです! その一つであるここで、カノンは現れるプレイヤーの皆さんを我がギルドに勧誘していたのです!」
う、うわぁ、タチ悪っ……とんでもない事をさらっと仕出かしてるよこの娘。
しかも断った結果がこの惨状でしょ? カノンの足下に転がるプレイヤーの遺体の多さを見れば、彼女がとんでもなく強い事は嫌でも分かる。
「運営には怒られないの?」
「特には! そういうルールなのです!」
「なんでそんな事をしているのかしら?」
「それはもちろん、我々は正しき歴史を歩むべきだと知っているからで――詳しくは塔を登るべし!」
理解できたかとハルカを見るが、肩を竦められてしまった。
「そう……じゃあ、加入するのは塔を登った後で良いかしら?」
おっ、良い返し。
「それはダメなのです。早く加入するのです」
ダメだった。
「どうしてそう急ぐのかしら? もっとお互いの事を知ってから――」
「時間稼ぎはここまでなのです」
ナナの言葉を冷たい声が遮る。
「もう十分付き合ってあげました。加入するのか、しないのか、ハッキリとこの場で表明して下さい」
困った顔で振り返るナナに、仕方ないとハルカと二人で肩を叩く。
「ごめんねカノンちゃん、私たちはPKギルドには加入できないよ」
代表して一歩前に出た私がハッキリとそう告げる。
まだゲームについて全てを理解したとは言えない段階から、多くのプレイヤーから恨まれる立場になるなんて事は出来ない。
私の言葉に黙って頷いている二人も、特に異論は無いみたいだ。
「……そうですか、それは残念です」
とりあえず届いた申請には三人全員が『No』を選択した。
「では――Re:LIFE」
そのキーワードはPvP開始の合図――
====================
カノンから宣戦布告されました
ルール
勝敗:耐久値が全損するまで
制約:なし
ドロップアイテム:あり
以上のルールで同意しますか?
Yes/No
====================
全力で『No』を連打する――
「まぁ、断ってもルール無用で襲いますが」
素早くハルカとナナの二人を抱えて、その場から全力で逃走する。
「必殺ッ――!!」
相手の射程が分からない。とにかく全力で彼女から離れなければ――
「勇者ビィィィィイイイムッッ!!!!」
背後に太陽が顕現したかのような極光が溢れ、周囲の景色が真っ白に染め上げられた。
光に押し出される様に私たちの影が伸び、そして深く真っ黒に色が濃くなる。
「願わくば、次は手を取り合えるように」
最後にそんな呟きが聞こえた気がした。
「「「……」」」
追憶のクリスタルタワー10Fの群青クリスタルがある広間で立ち尽くす。
気が付けばここに飛ばされていた。恐らくたの少女の攻撃で死んでしまったのだろう。
あの少女の足下に私たちの遺体が追加されていたりするのだろうか。
「想像以上にイカれた連中だったようね」
あ、ナナがキレてる。
「開幕で遭遇するとかツイてなかったな」
ハルカはちょっと落ち込んでる。
「いや〜、逃げられなかったね〜」
「そうね……まぁギルドの幹部を自称してたし、レベルも5以上は確実にあるんじゃないかしら」
「そっかぁ」
にしても一瞬で三人を蒸発させるとか、一体どんな攻撃だったんだろうな。
「やぁ、君たちも被害者かい?」
これからどうしようかと考えていると、何やら白銀の鎧に身を包んだ男性が声を掛けて来た。
「貴方は?」
「失礼、僕はオーガスタス。ギルド【True・end】のマスターをしている者だ」
「True?」
それって、もしかしてあのPKギルドの仲間じゃないだろうな。
「PKギルドと名前が似ていてややこしいだろうけど、こっちが先に出来たギルドだから勘違いしないでおくれ」
「あ、そうなんだ」
「あれは当て付け……みたいなものだと思う」
よくは分からないが、参考にされた側って事ね。
「それで? そのトップギルドのマスターさんがなんの用かしら?」
「いやなに、ワールドクエストが一つ占拠されかかっていると聞いてね。急いで何とかしようと集まっているんだ」
あぁ、なるほど、それでここにプレイヤーが多く集まってるんだ。
初心者でも参加できるワールドクエストだから利用者が多いのは当然かなって思ってたけど、それにしては皆並ばず待機しているだけだったしね。
「それで君たちにどんな状況だったか聞きたくて声を掛けたんだけど」
「どんな状況だったかと聞かれても……勧誘されて、断ったら問答無用で消し炭にされたわ」
「相手は誰だった?」
「勇者カノンと名乗っていたわね」
「あぁ、あの【鏖殺のカノン】か……君たちも災難だったね」
うわ、すっごい物騒な二つ名だね。勇者とは真逆じゃんか。
「だとすると大勢で乗り込むのは危険だな」
「どうしてかしら?」
「彼女は最後には必ず大勢を巻き込んでの自爆をするから」
「傍迷惑ね」
「自爆とかロマンあるね」
「ヒナミはそういうの好きそうだもんな」
にしても益々なんで勇者と名乗っているのか謎が深まっていくなぁ。
――此度の追憶は失敗である
「お?」
「あぁ、今回も間に合わなかったか……」
クリスタルの声が聞こえたと思ったら、広間のあちこちに光が現れ……そしてその中の一つから見知った人が出て来た。
「ハーハッハッハッ! 今回も我らの勝利だ!」
「あ、カノンだ」
「本当ね」
これはどういう事なんだろうか。疑問に思っていると、苦虫を噛み潰したような顔でオーガスタスが教えてくれた。
「もうクエストをクリア出来ないと判断されたら……今回の場合は、もうここからどうやっても帝国は救えないと判断されたらまた一からやり直しになるんだ」
「へぇ」
「つまりはあれか? 目的を達成できたのはPKギルドだけだと?」
「……そうなるね」
周囲から負の視線を向けられてもカノンは変わらず、満面の笑みで高笑いを続けていた。
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