12.邂逅
「とりあえず雛美の装備を整えましょう」
「武器と防具一つずつなら奢れるな」
「いいの? 本当にいいの?」
「構わないわ、けれどそんな大した物は買えないわよ」
「ありがてぇ……ありがてぇ……」
おいおい泣きながら二人に向かって両手を広げる。
ハルカは苦笑しながら抱き締めてくれたが、ナナはサッと感じで私を避けていった。
「じゃあさっさと行くわよ」
「へーい」
喫茶店を出てすぐに左へ曲がる。人混みを避けながら大通りを歩き、ほんの数分程度で目的の場所へと着いた。
外観は相変わらず水晶に覆われていて他と変わらないが、ぶら下がっている看板の絵を見る限り武器とか売ってるんだろうなって事がすぐに分かった。
慣れないジャンルの店舗に少しソワソワしながら二人の後を付いて店に入る。
武具屋の隣りの建物が寂れていて、誰も人が居なさそうな雰囲気なのが少し気になった。
「いらっしゃい! 何かお探しですか?」
「この子の武器と防具を……そうね、このくらいの予算で見繕って貰えるかしら?」
ナナが慣れた様子でテキパキと話を進めるのを聞きながら、店の中を見渡してみる。
剣とか槍とか、鎧とか以外にもどう使うのかさっぱり分からない不思議な武器? もあって見てるだけで楽しい。
「かしこまりました! お嬢さんのステータスを見せて貰っても?」
「どうする?」
「別に良いけど?」
ハルカの確認に両手で頭の上に丸を作る。
あれか、ステータスが足りないと装備できなかったりするからかな。
剣士に槍を持たせても意味ないし、ナナみたいな呪術師に大剣なんて装備できないだろうし。
って事で武具屋の店主さんに私のステータスを開示する。
「どれどれ……………………えぇ? いや、これ……えぇ……」
「困惑してるじゃない」
「えぇとか言ってるぞ」
「うぇへへ」
何とも言えなくてとりあえず笑って誤魔化してみる。
「魔法使いというより、格闘家としての装備を見繕った方が……?」
ブツブツと何かを呟きながら店主が奥へと引っ込んでいく。
「困らせちゃったみたい」
「まぁ、初見だと困惑するわよね」
「職業って今からでも変えられねぇのか?」
「無理よ」
まぁ、全部ダイスの結果だから変えられるとしても変えないけどね。絶対に。
「うーん、これなんかどうです?」
二人と雑談しながら待っていると、十分程度で店主が戻って来た。
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レア度:☆☆★★★★★★★★
名称:青銅の篭手
種別:装備品
攻撃力:75
耐久値:200
魔力伝導率:G+
装備条件:筋力120以上
説明:青銅で出来た篭手
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レア度:☆☆★★★★★★★★
名称:革の胸当て
種別:装備品
防御力:80
耐久値:250
魔力伝導率:G+
装備条件:筋力130以上
説明:革の胸当て
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「ほほう、なるほど」
最初の古びたナックルガードよりも何倍も凄い装備でテンション上がってきた。
しかしながらナナやハルカの表情は何とも言えない微妙のものだった。
「うーん、雛美の筋力に耐え切れずに壊れそうね」
「無いよりはマシだろうが……」
「しかし、お客様の予算ですとこのくらいが限界かと……」
何やら私以外の皆が頭を悩ませてしまっているらしい。
話の内容を聞くに、どうも私のステータスが魔法使いレベル3相当ではないのが原因だと。
普通の魔法使いレベル3であればこの程度で問題はない――実際に魔法使いと似た呪術師のナナはこれくらいの装備を着けている――のだが、私の場合はステータスが全体的に高い上に筋力に尖っている。
強い武器だろうと、弱い武器だろうと、自分に見合わない不相応の装備を身に着けると困る事が多いらしい。
「もうちょっと予算を上げるべきかしら?」
「敵の遺骸は自分の装備を整えるのに売り払ったばかりだぞ」
「ん? 敵の遺骸って売れるの?」
「えぇ、売れるわ」
「あ、マジ?」
じゃあ二人に奢って貰わなくても良い感じかこれ?
「敵の遺骸なら沢山持ってるよ」
「え?」
「ほら、ずっとチュートリアルを周回しまくってたからさ……えっーと、ざっと900体くらいあるよ」
「は?」
だいたい一回のループで最大6体は狩れたし、途中で回復とかに使ったけど、体感でも100回以上は確実にループを繰り返したから結構溜まってたんだよね。
計算する限り150回は確実にループしてたっぽい。
「おっちゃん、これ全部売ったらもうちょっと良い装備買える?」
「どれどれ……………………いや、流石にこの量を一度には引き取れねぇよ」
「あり?」
「そうだなぁ、300体までなら俺だけでも引き取れるぜ」
「じゃあその分を予算に加算して!」
「あいよ、ちょっと待ってな」
店主が奥に引っ込んだのと同時に後ろへと振り返り、二人へと向かってドヤ顔でVサインをする。
「貴女、本当に頑張ったのね」
「自分で誘っておいてなんだが、初心者がよくこんな苦行を達成できたな」
「ぶっちゃけこのゲームの事をよくも知らないうちから変わり映えのしないループを何回も繰り返すの辛かった」
思わず遠い目をしてしまう……ムカつくあん畜生をぶん殴りたいというモチベはあったが、それでも途中で何度か心が折れかけた。
友達から誘われただけで、まだこのゲームについてよくも知らない内からリアルタイムで二週間も同じ周回をさせられて頭がどうにかなりそうだった。
「すまねぇ、すまねぇ……ウチが誘ったばかりに……」
「良いって事じゃんよ、約束したじゃんか………三人でトップを目指そうって」
「してないわよ」
「ヒナミっ……!!」
「ハルカっ……!!」
ハルカとお互いに抱き締め合い、そして同時にナナへと顔を向けて期待の眼差しを送る。
「やらないわよ」
「へい、お待たせしました……何をしてるんで?」
「気にしないでちょうだい」
ノリの悪いナナに文句を言おうとしたけど時間切れらしい。
ハルカと顔を見合わせ、そして同時にやれやれといった仕草と共に溜め息を吐く。
「呪いあ――」
「わー! わー! 店主さんは何を持って来たのかなぁー!?」
「ヒナミの新しい装備だもんな! 楽しみだなー!」
「はぁ……」
慌てたように二人で店主さんに駆け寄る。どうやらナナからは見逃して貰えたらしい。セーフ。
「増えた予算内だとこれらになる」
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レア度:☆☆☆★★★★★★★
名称:玉鋼の篭手
種別:装備品
攻撃力:250
耐久値:580
魔力伝導率:F
装備条件:筋力500以上
説明:玉鋼で出来た篭手
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レア度:☆☆☆★★★★★★★
名称:玉鋼の胸当て
種別:装備品
防御力:300
耐久値:620
魔力伝導率:F
装備条件:筋力500以上 耐久250以上
説明:玉鋼の胸当て
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「おぉ〜」
「まぁ、これなら当分は良いんじゃねぇか? ヒナミ本体の耐久力と変わらないくらいだし」
「そうね、次の装備が見付かるまでの間は多分保つでしょ」
二人からのお墨付きも貰ったし、これで決まりだぁー!
「おっちゃん! ありがとう!」
「どういたしまして、こちらこそお買い上げありがとうございます。コチラ装備の代金を引いた買取金額になります」
早速購入した物を装備してみる。
「どやっ!?」
装備をした状態でファイティグポーズの構えで二人に迫る。
「うーん」
「完全に武闘家ね、魔法使いには見えないわ」
「……魔法使いです」
「「無理がある」」
二人に突っ込まれてションボリしながら、ちょっと気になった事を最後に店主に聞いてみる。
「おっちゃん、隣りの建物は何もやってないの?」
「え? ……あ〜、隣りの建物はもう何百年も前に所有者が行方不明になったらしくて、管理組合も扱いに困ってるみたいですよ」
「へぇ〜、教えてくれてありがとう」
疑問を解消して店を出たところで、二人それぞれにお金を返す。
「自分ので足りたから返すね」
「分かったわ」
「コーヒーの代金は返さなくて良いからな」
にしても一気に小金持ちになったな。使い道がまだよく分からないけど。
「それじゃあ、早速タワーを登ってみましょうか」
「よっしゃ行くぜぇ!」
「どんな感じなんだろうな」
大通りを真っ直ぐ進めば良いだけだから道には迷わない。というか、街の何処に居ても塔は見える。
「こっちよ」
いつ見てもその巨大さに感嘆する『追憶のクリスタルタワー』に入り、入口からすぐ横にある螺旋階段を登り始める。
「……」
何だか知らないけど、相変わらずこの塔に入ると何処からか視線を感じる気がする。
気の所為かも知れないけど、なんだか首の後ろ辺りがチリチリして落ち着かない。
「ここね」
いくつかの階層を過ぎ去り、10Fに到着する。
そこには最初の階層にあった緋色のクリスタルよりも更に巨大な、群青色のクリスタルが鎮座していた。
その周囲には多くのプレイヤーが待機していて、待ち合わせをしているのか、それとも仲間たちと打ち合わせしているのか、賑やかな声が辺りに反響している。
「チュートリアルと同じく、これに触れれば良いだけみたいよ」
「へぇ」
という訳で早速触れてみる。
――汝、滅びの運命に抗う者よ
あ、やっぱり語り掛けてくるのね。
――これより向かうは人類最後の国家、最後の組織的抵抗の地である
「ん、なんか不穏な言葉……」
「そういうコンセプトらしいから」
――受け容れ難い裁定を覆したくば、死力を尽くして抗うがいい
「なんかちょっとワクワクしてきた」
「分かる、盛り上げ上手だよな」
――汝らに、帝国の追憶を授ける
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難易度:☆☆☆☆☆☆☆★★★
ワールドクエストNo.1
名称:終末人類圏ミーティア
種別:人類史修正
時刻:C.C4587/10/24/12:38
説明:空気は淀み、大地は汚染され、海は濁り、国家は悉く滅ぼされた。数多の難民が集い、未だ抵抗を続ける人類最後の地。一人の少女が治める帝国の滅亡を回避せよ。
報酬:現代の人類圏が拡大する
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現れたクエスト画面を見て、これはクリアは難しそうだなと諦める。
もうチュートリアルクエストとテキストの内容が段違いっていうか、難易度もあの儀仗兵と同じレベルなんだもん。
「まぁ、気楽に行こうか」
「そうね」
「初心者だしな」
二人と軽く言葉を交わし、そして一瞬だけ光に包まれたかと思えば、私たちの目の前に見知らぬ少女が立っていた。
「――ややっ! もしや新しいプレイヤーの方ですね? 早速ですが我らが〝とぅるーひすとりえ〟に加入しませんか!?」
興奮気味にそう捲し立てる少女の足下には、多くのプレイヤーらしき人々が倒れていた。
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