表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

色々なスローライフ

かつて魔王だった男のスローライフ

作者: 仲仁へび



 数か月前まで、俺は魔王という役を演じ、世界の敵だった。

 それは、そうする必要があったからだ。

 俺がいる世界は、多くの国が争いあっていた。

 そのせいで毎日たくさんの人が死んでいった。


 ある日、

 そんな毎日はもう嫌だ、と思った者達が、

 同じ人間同士で傷つける事は馬鹿らしいと思った者達が、

 大嘘をつくことにしたのだ。


 それが世界の危機の演出だ。


「ふはははは、人類なんて我が滅ぼしてくれる!」

「そうはさせない! 私達はあなたを倒して明日を掴むわ!」


 必要だったのは人類共通の悪と、皆をまとめる勇者。


 その片方が俺だった。


 魔王としての日々は本当に大変だった。


 体を張った演技をしすぎて、命を落とすかと思った。


 だが、とうとうやりとげた。


 後は平和になった世界で、のんびり過ごすだけ。


 なのだが。





 その後をサポートしてくれる人が。いない。


 俺は最果ての荒れ地でぽつんと建っているボロ小屋で過ごしながら、一人の幼馴染に聞いていた。


「本当に他に来てくれるいなかったの?」

「うん」


 魔王の演技が真にせまりすぎたと言う事か。


 一仕事終えた後、かつて「引退後は何でも手伝うよ」と言ってくれてた人達が、まとめていなくなった。


「引退した後は、一緒に目立たない土地でのんびり暮らそう」とか言ってくれてた人達が。


 俺は自炊能力が低いから、「なら、当てにさせてもらうぜ」なんて言い合ってたのに。


 残ったのは、幼馴染の少女だけだ。


 勇者として俺に立ち向かう演技をしてきた少女だけだ。


 俺は悲しくなって、出てきた涙が目に染みた。






 全く人手が足りない。


 が、生きていくためにはあるものでやっていくしかない。


 俺達は小屋を修理して、生活道具を整えた。


 道具は幼馴染が持ってきてくれたから、大丈夫だが、ノウハウなんてありはしない。


 修理する際に、更に壊したりして大変だった。


 その後は、自給自足ができるように作物を育て始める。


 近くには森があるから、肉が食べたい時は、狩りで調達だな。


 狩りや農作物の知識は幼馴染だよりだ。


 お貴族様のボンボンとして育った俺とは違い、農村出身だから助かった。


 そんな俺達が、人の前に姿を現すのは最低でも2、30年経ってからだ。


 幼馴染はともかく、俺は魔王だったのだから、顔が変わるくらいの年月をかけないと、まともに出歩けないだろう。


 まったく人と交流できない日々が続くが、それでも魔王として生きていた怒涛の日々を思えばましなものだった。






 なにごとも慣れなのか、数年も経過すれば、スキルは上達する。


 保存食のつくり方は分かってきたし、建物や家具の修繕だってコツがつかめてきた。


 近くの湖で一日中釣りをしたり、広々とした草原で薬草を摘んだりするのは思ったより苦じゃない。


 魔王だった頃には無理な、太陽が昇るころにおきて、沈むころに眠るという規則正しい生活は、心を安定させ潤してくれる。


 あの頃は、眠れなかったし、忙しかったし、戦いばかりだった。


 ようやく眠ったと思っても、命の危機を思い出して飛び起きたりもした。


 それは勇者だった幼馴染も同じようで「あの頃は大変だったよね」なんて二人で笑いあう事もある。






 一度偶然通りかかった旅の人間二人が、馬車が故障したので家に泊めてほしいといってきた。


 馬車がおんぼろ過ぎたので、可哀想に思って家にいれてやったのだが、これが面倒なものたちだった。


 かつて敵対していた人類共存派の魔王軍部下、四天王の一がいたのだ。


 かつての俺の組織は、世界なんてどうなってもいいやという人間たちや、闇組織の人間を集めて作ったものだ。


 だけど、生きてると途中で色々あったりもするもので。


 人類滅ぼすのやめようとなった者が、四天王から出てきたのだ。


 その人物は、魔王VS勇者の決戦後、紆余曲折を経て勇者率いる救世軍の幹部と結婚。


 色々あって駆け落ちしているらしい。


 滅茶苦茶面倒くさい関係の二人と同じ家で過ごす事になった俺たちの心労は計り知れない。


 外に出て対応に出る前に、顔を仮面で隠していてよかった。


 けど、お客さん二人が、魔王の気配がするなんて言い始めたときには、久しぶりに命の危機を感じたくらいだ。


 頑張って勇者と協力しながらお酒で酔いつぶし、泥酔していたから気のせいじゃない?


 と、ごまかせたからよかったものの。






 そんなこんなで、(一部を除いて)俺の平穏な日々は過ぎていった。


 平和になった世界がまた荒れ始めて、「倒された魔王は実は生きていた」なんてことにならなくてほっとしている。


 荒れていた国たちは互いに協力し合い、友好関係を結んでいるままだ。


 彼らが争いのために武器を手に取らない限りは、俺達はまだこの地で過ごしていられるだろう。


 生きている限り、そんな日が来ることがないと良いのだが。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ