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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
勇往邁進
8/110

アスタの双子の妹

魔王を倒したパーティは葵やディンブラとともに故郷への帰路につく。

その中でも一番最後に別れたのはアスタ。

チョコもシャロンもキャメリアも見送り、最後は東の大陸の端に葵とディンブラと共に行き、そして別れた。

大陸の端の、さらに離島に故郷を持つアスタは港で巡回船に乗ろうとしていた。

ふと、振り返る。

3人の仲間を得て、魔王討伐という大業を成し得た。

十分すぎる功績を携えて帰るのだが、決してそれは故郷に錦を飾ることはできなかった。

なぜなら、世界的に影響力の高い魔王を討伐したとなると、魔王軍から保護の条約を結んでいたり、取り引きのあった国や組織はのきなみ危機に晒されることとなる。

その原因ともなれば、パーティはおろか、家族や故郷さえも狙われる。

そういった事情により、みんなで事実を漏らさないことを誓った。

その際にアスタが言った。

「俺たちは魔王軍討伐ができたんだ!もっとすごいことで伝説になってやろうぜ!!」

この台詞は果たされることはあるのだろうか?

それとも、社交辞令のように言葉が時と共に風化していくのだろうか?

「楽しかったな、みんなと旅ができて」

アスタは仲間の顔を思い出していた。

船の汽笛が鳴り響く。

大陸に背を向けて船に乗り込んだ。


黙って出て来たことや、一緒に出た仲間を連れずに帰ったことなど、怒られる要素しかない帰郷に恐る恐る島の土地に足を踏み入れた。

しかし、意外にも島民も、父さえも快く受け入れてくれた。

それどころか、魔王討伐に関して自分の功績だと確信してくれていた。

これほど嬉しいことはない。

久々の父との再会も嬉しかった。

さらに、朗報が舞い込む。

島を追放された女性たちが戻って来たと言うではないか。

それでみんながアスタのことを優しく受け入れて、さらに魔王軍が崩壊したことを知っていたのも納得できた。

その後、父と共に帰宅した。

家の前で初めて会う父の妻と娘がいると聞き、緊張する。

「父ちゃんの妻ってことは、俺の母ちゃん的な存在になるの?」

「そうだな!もうあの2人にはアスタのことは話しているよ!2人も会うのを楽しみにしていたよ!」

アスタは大きく息を吸い込んだ。

少しためてから呼吸を吐き出す。

『娘ってことは・・・俺の血の繋がらない双子の妹!!き、緊張してきた!!』

「ただいま!アスタを連れて来た!」と父が先に入る。

ドギマギしながら後から入ると、女性が2人いた。

1人は父ほどの年齢で、リネン生地の白いシャツに若草色のスカートと前掛けをし、父のように赤みがかった髪を三つ編みにして結んでいて、こちらを見る目はとても優しい表情をしていた。

もう1人はアスタほどの年齢で、ワンピースを着ている。

父や母のように同じく赤みがかった髪をオールバックにして頭の高い位置で結び、それから三つ編みにしていた。

顔は・・・父に少し似ていた。

つまり、アスタのタイプでは無かった。

ラブロマンスはもうないだろう。

「紹介するよ!俺の家内と娘だ!アスタの戸籍上の家族だ!」

「よ、よろしくお願いします!」

緊張しながら頭を下げる。

「よろしく、アスタ!今日から私がたくさんご飯作ってあげるから、たくさん食べてね!」

「よろしく!家族が一気に増えてなんだか嬉しいわね!」

2人ともとても良い人だ。

ただ、憧れだった血の繋がらない双子の妹とのラブロマンスはもうない。


ため息を吐きながら、一緒に島を出たメンバーが並んで座り、空を見上げていた。

「血の繋がらない双子の妹は父似だったよ」

「それはえるな」

そう答えたのは頬にそばかすがあるラペ。

「父の面影がある女子は萎えるね」とカプレーゼも続けて重ねる。

「そういえば、ファルシはあの彼女、どうしたんだよ?」

アスタが聞いた途端、大きなため息を吐いた。

「あの子ね」

「短かったな」

カプレーゼとラペが苦笑いしながら言う。

「てかみんなあの天国からなんで戻ってきたんだよ?」

カプレーゼがファルシの背を摩ってやる内にラペが経緯を話した。

「なんかさ、あの町って美女多かっただろ?この女にも恋愛にも慣てない俺らは見ての通り舞い上がっていた。だけどあの天国は始めだけ。あとは失敗すれば厳しく怒られるし、やりたい仕事でもなかったし。でも、そんなことよりももっと地獄が待っていたんだよ」

3人揃ってまた大きなため息を吐いた。

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