アスタの双子の妹
魔王を倒したパーティは葵やディンブラとともに故郷への帰路につく。
その中でも一番最後に別れたのはアスタ。
チョコもシャロンもキャメリアも見送り、最後は東の大陸の端に葵とディンブラと共に行き、そして別れた。
大陸の端の、さらに離島に故郷を持つアスタは港で巡回船に乗ろうとしていた。
ふと、振り返る。
3人の仲間を得て、魔王討伐という大業を成し得た。
十分すぎる功績を携えて帰るのだが、決してそれは故郷に錦を飾ることはできなかった。
なぜなら、世界的に影響力の高い魔王を討伐したとなると、魔王軍から保護の条約を結んでいたり、取り引きのあった国や組織はのきなみ危機に晒されることとなる。
その原因ともなれば、パーティはおろか、家族や故郷さえも狙われる。
そういった事情により、みんなで事実を漏らさないことを誓った。
その際にアスタが言った。
「俺たちは魔王軍討伐ができたんだ!もっとすごいことで伝説になってやろうぜ!!」
この台詞は果たされることはあるのだろうか?
それとも、社交辞令のように言葉が時と共に風化していくのだろうか?
「楽しかったな、みんなと旅ができて」
アスタは仲間の顔を思い出していた。
船の汽笛が鳴り響く。
大陸に背を向けて船に乗り込んだ。
黙って出て来たことや、一緒に出た仲間を連れずに帰ったことなど、怒られる要素しかない帰郷に恐る恐る島の土地に足を踏み入れた。
しかし、意外にも島民も、父さえも快く受け入れてくれた。
それどころか、魔王討伐に関して自分の功績だと確信してくれていた。
これほど嬉しいことはない。
久々の父との再会も嬉しかった。
さらに、朗報が舞い込む。
島を追放された女性たちが戻って来たと言うではないか。
それでみんながアスタのことを優しく受け入れて、さらに魔王軍が崩壊したことを知っていたのも納得できた。
その後、父と共に帰宅した。
家の前で初めて会う父の妻と娘がいると聞き、緊張する。
「父ちゃんの妻ってことは、俺の母ちゃん的な存在になるの?」
「そうだな!もうあの2人にはアスタのことは話しているよ!2人も会うのを楽しみにしていたよ!」
アスタは大きく息を吸い込んだ。
少しためてから呼吸を吐き出す。
『娘ってことは・・・俺の血の繋がらない双子の妹!!き、緊張してきた!!』
「ただいま!アスタを連れて来た!」と父が先に入る。
ドギマギしながら後から入ると、女性が2人いた。
1人は父ほどの年齢で、リネン生地の白いシャツに若草色のスカートと前掛けをし、父のように赤みがかった髪を三つ編みにして結んでいて、こちらを見る目はとても優しい表情をしていた。
もう1人はアスタほどの年齢で、ワンピースを着ている。
父や母のように同じく赤みがかった髪をオールバックにして頭の高い位置で結び、それから三つ編みにしていた。
顔は・・・父に少し似ていた。
つまり、アスタのタイプでは無かった。
ラブロマンスはもうないだろう。
「紹介するよ!俺の家内と娘だ!アスタの戸籍上の家族だ!」
「よ、よろしくお願いします!」
緊張しながら頭を下げる。
「よろしく、アスタ!今日から私がたくさんご飯作ってあげるから、たくさん食べてね!」
「よろしく!家族が一気に増えてなんだか嬉しいわね!」
2人ともとても良い人だ。
ただ、憧れだった血の繋がらない双子の妹とのラブロマンスはもうない。
ため息を吐きながら、一緒に島を出たメンバーが並んで座り、空を見上げていた。
「血の繋がらない双子の妹は父似だったよ」
「それは萎えるな」
そう答えたのは頬にそばかすがあるラペ。
「父の面影がある女子は萎えるね」とカプレーゼも続けて重ねる。
「そういえば、ファルシはあの彼女、どうしたんだよ?」
アスタが聞いた途端、大きなため息を吐いた。
「あの子ね」
「短かったな」
カプレーゼとラペが苦笑いしながら言う。
「てかみんなあの天国からなんで戻ってきたんだよ?」
カプレーゼがファルシの背を摩ってやる内にラペが経緯を話した。
「なんかさ、あの町って美女多かっただろ?この女にも恋愛にも慣てない俺らは見ての通り舞い上がっていた。だけどあの天国は始めだけ。あとは失敗すれば厳しく怒られるし、やりたい仕事でもなかったし。でも、そんなことよりももっと地獄が待っていたんだよ」
3人揃ってまた大きなため息を吐いた。