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月桂樹の葉を編む  作者: 叶笑美
勇往邁進
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天高く掲げる

帰ると、迎えてくれたマタリがジャトロファからバスケットを受け取り、布を少しめくって中を確認した。

「おおー!さすが!」

「まあな!」

「俺らだからな!」

2人が鼻高々と自慢する。

「え?シスターじゃないの?」

「全然」

「シスターはこういうのはできないからいつも俺らがやってんだよ」

軽く何度か頷いてバスケットに視線を落とす。

「これさ、2人がいなかったら成立しなかったってことだよな?」

「まあ、そうだね」

「本当、よかったよ」

それからチョコにそのバスケットを差し出した。

「え?またこれをどっかに持って行くの?」

「そうだな。とりあえずその中身を見てみろよ!」

そう言われて不思議そうに布をめくった。

すると、中には5本のピンクのバラをリボンでまとめた花束があった。

「こ、これは?さっきから運んでたバラの一部だよね?花束にされてる・・・」

「それはチョコ用にみんなで作ったんだよ!」

まだ状況が読めないでいるチョコに続ける。

「それ持って、アイリスさんの墓参りして来いよ!バタバタしてたし、行けてないんだろ?」

チョコが目を丸くしてマタリを見た。

「これの中見なかったの偉いな。ここにみんなへの指示が書いてあったんだよ」

そう言ってみんなに逐一ちくいち見せていた手紙を渡すと、チョコが内容を読んだ。

そこには、チョコの大事な姉代わりの保護者のお墓参りをさせてあげたいという内容が書かれていた。

チョコがどれだけアイリスを大事に思っていたか、しかし悲しい別れがあったこと、それに見合う花束として花言葉が「感謝」のピンクのバラに、「あなたに出会えた喜び」という意味のある5本のバラを組み合わせた花束を作りたいとあった。

そのためにロザの一族にはバラを、ビストートには装飾のリボンを、シスターにはそれらをまとめる役をお願いしていた。

しかし、その下にも白いユリの花が入っていた。

「そのユリはシスターから!」

「俺とジャトロファが束ねて結んだから、シスターは何もできてないからせめてユリだけでもって!おすそ分け!」

ジャトロファとソルガムがユリを指させて言った。

「チョコ、育ったあすなろ荘も、育ててくれたアイリスさんも一気に失くして、一族や自分と同じような境遇の孤児たちの敵討ちのために仲間として戦ったパーティとも離れ離れになった心細さもあるだろうが、この街にいる俺たちみんな、チョコの仲間であり家族だ。何かあれば1人で抱えないで欲しいし、気を張ったり、使ったり、そんなことで疲れて欲しくない。みんなお前の味方だからさ、安心してここに住めばいいよ」

その瞬間にチョコの瞳が一気に潤んだ。

かと思ったら、大粒の涙が頬を伝い落ちていた。

「何泣いてんだよ?」と笑うマタリにチョコはバスケットを抱えて泣いた。

「あ・・・ありがと・・・。僕・・・本当は寂しかった・・・。みんなみんな、いなくなって・・・ひとりぼっちなんだって・・・。あすなろのみんなも・・・パーティも・・・いなくなって・・・・本当にひとりぼっちになっちゃったんだって・・・思ってた・・・!!」

手の甲で涙を拭う。

「ありがと・・・みんな!!」

「気にすんなよ。よくがんばったな!」

頭を撫でながら励ましすマタリ。

さらに横からジャトロファとソルガムが背を摩ってくれたり、肩を軽く叩いて励ましてくれた。

「チョコは立派なみんなの英雄だよ」

チョコはたまらず、大きな声をあげて泣いてしまった。


泣き止んでからアイリスの墓へと花束を持っていった。

「姉さん、僕、みんなと一緒に魔王を倒したよ。みんなの仲間になる勇気をくれてありがとう。また来るね!」

墓地を後にしてから、次に向かったのはラテルネ墓地だった。

ヘルハウンドにピアノを弾いてあげる。

一曲弾き終わった後に少し話していた。

「魔王軍から助けてくれてありがとう」

「僕ってよりは葵さんだけどね。きしめんに1人で戦えるだけの実力はないよ」

しかし、ヘルハウンドは首を横に振った。

「いや、あの時のみんなが私を助けてくれたんだ。みんなが四天王の葵を味方にしたから私は助けてもらえた。全て繋がっているんだよ」

「・・・そっか」と鍵盤に視線を落とす。

それからしばらく指をもてあそんだ後、再度ヘルハウンドを見た。

「僕ね、もう一度あのパーティに会いたいんだ。会ってみんなで旅がしたい!・・・でもみんなは東の大陸にいるし、もう魔王を倒しちゃって旅する目的もないし・・・会う理由がない。もう会えないのかもって思うとすごく寂しくなるんだ・・・」

チョコの目が寂しそうに伏せる。

「そうか。他の3人は東の大陸なのか・・・。それは寂しいな」

ヘルハウンドもどこか寂しそうにしていた。

「でもさ、どこかで諦めきれない感情もある。・・・いつか、また会えるよね?」

「ああ、会えるよ、きっと。みんな生きているんだ。必ず会える、諦めなければな」

チョコはやっとニコッと笑顔を見せた。

「そうだよね!それまで、僕もがんばるよ!もっともっと強くなって、みんなを守れるようになるよ!!」

「ああ!応援してるよ、チョコ!!」


それからチョコは大使館の手伝いをしつつ、再びコロシアムにも出場するようになった。

相棒のギンリョウソウを携えて、拍手喝采の中、優勝杯を天高く掲げた。

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