バスケットへ
サンスベリアへ行くと、ビストートがテーブルに座ってメニューを書いていた。
しかし、その他にロザの一族のガートルードとスプライがいた。
「チョコ!」「どうしたの?」とビストートに代わって対応してくれる。
「さっきの装花配りに来たんだ!2人は何してたの?」
「僕たちは前からビストートに頼まれてたバラのチップスを作ったからそれを持ってきたのと、それを使った料理の試食だよ!」
ガートルードが天真爛漫に答える。
2人の肩越しに真剣な様子のビストートを覗いた。
「ビストートは何してるの?」
「ビストートはね、来月のメニューを書いてるよ!」
すごく真剣すぎてチョコが来たことすら気づいていなさそうだ。
「ビストート!!」と大きな声で呼ぶとやっと気づいた。
「あん!?・・・あ、チョコか」
「怖いよ」とビストートの威嚇に少し身を縮める。
「どうした?」
「装花を届けに来たよ!あとこれ読んで!マタリが書いてくれたんだ!」
「装花?なんで・・・まぁいいか」と言って手紙を読む。
読んでから何度か頷き、立ち上がった。
厨房へと向かいながらロザの2人に言う。
「ガートルードとスプライ!悪いけどテーブルの花瓶に装花挿してってくれるか?」
「いいよー!」と返して2人で取り掛かる。
そして何かを漁り、小さな声で「あった!」と独り言を言った。
それから顔を上げてチョコに声をかける。
「チョコも試食してけよ!魚とバラチップスの組み合わせだ!」
「え?いいの?食べたい!!」
小皿に白身魚の刺身と、オリーブオイルと岩塩がかけられていて、その上から鮮やかなバラチップスが一枚乗せられている。
「すごい!綺麗!!」
口に入れるとバラの香りが鼻に抜けた。
その後からオリーブオイルと岩塩の香りが追いかけてくる。
「美味しい!!それにいい香り!!」
「そうだろ?それ、来月のメニューに入れようと思ってんだ!」
そう言いながらまた手書きのメニュー表と向き合う。
「ビストートは何でそんなにも真剣に書いてるの?」
チョコの質問も入ってこないくらいにもう集中していたので、代わりにガートルードとスプライが答える。
「字を綺麗に書くのが苦手なんだって!」
「メニュー表だからたくさん書かないとだし、お客さんが見るものだから真剣なんだよ!」
「そうなんだ。相変わらず仕事熱心だね」
チョコが立ち上がってビストートに声をかける。
「それじゃ、そろそろ行くね、ビストート!ご馳走様!」
「おう!またな!」
こちらを見ずに返していた。
それから残りのバラが入ったバスケットを持って教会へと向かった。
だいぶん本数が減ったので足取りも軽い。
教会へ行くと、ジャトロファとソルガムがいた。
「こんにちは!」
「よ!チョコ!」
「こんにちは、チョコ!」
挨拶を交わしてから質問する。
「シスターはいる?」
「ああ、中にいるよ!」
ジャトロファが親指で教会の中を指して答えた。
「2人は何してたの?お手伝い?」
「ま、そんなところかな。献花を頼まれてた周辺の店とかから集めて教会に持ってきたんだよ」
ソルガムの返答を聞き、少し驚く。
「へー、そんなこともするんだ!」
「まあな!花もかさばると重いし、男手があればシスターも助かるだろうからな!」
「それもそうだね!それじゃ、僕行くね!」
2人と手を振って別れ、教会の中に入ってシスターの元へと行く。
「シスター、ロザの一族から頂いたバラを持ってきました!!」
「あら?チョコが?」
不思議そうに傾げて近寄る。
「うん!今日から大使館のお手伝いをしてるんだ!」
そう言ってあの手紙を渡す。
中を黙って読んで一つ頷いた。
「わかったわ。お使いご苦労様!少し休んで待ってて!ジャトロファ!ソルガム!」
「はい!」と2人声を揃えて走ってくる。
「少し手伝って!」
また揃った返事をしてシスターについて行った。
それはさながら軍隊のようである。
しばらくしてからシスターがバスケットに布をかけて戻ってきた。
それをジャトロファに渡す。
「それじゃ、よろしくね!」
「わかりました!」と2人で元気よく返事をして受け取った。
「チョコ、一緒に行くよ!」
ソルガムに言われて不思議そうにするが、きっと2人に託したということは大事なものなのだろう思い、頷いて一緒に帰ることにした。