本当の身分
パーティがこの道に蜂を大量に繁殖させた原因を作った張本人であることをみんな悟ったが、そのまま黙って明日にはこの村を朝早くから発とうとしていた。
幸い、宿屋の店主もこちらが子どもなので何か関与しているとは到底思っていなさそうだ。
明日に備えて眠ろうとしたが、どうにも眠れない。
悪いことをして見つかるまでの緊張感のようなものを覚える。
『見つかったらどうしよう』『怒られるかな?』というような感情に悩まされる。
3人ともモゾモゾと寝返りをして何もかもを忘れようと努めた。
そんな中、ドアがノックされる。
「はい」とアスタが体を起こして返事をした。
そしてドアを開けると宿屋のおじさんがいた。
「夜分に悪いね・・・って、あれ?もう寝るのかい?まだ19時だよ?」
「あ!いや、メリリーシャに急いでるし、明日早く出ようかなって!!」
「でも全然眠れなかったの!気にしないでください!!」
キャメリアも起き上がって焦って答える。
シャロンも何となく起きた。
眠れないのは罪悪感だけではなく、単に時間が早すぎたのもあるようだ。
19時から寝ようとするのがまず持って無理な話である。
バカが露見していた。
「それより、何?」
「それがね、君たちにお客さんなんだ・・・」
アスタが怪訝そうな顔をして首を捻る。
「お客さん?俺らに?」
「ああ、下で待たせているからおいで!」
3人にで階下に下りると、日中に出会った蜂に腕を食べさせていた自己犠牲の男性がいた。
みんなで目を丸くする。
「やあ!」と気さくに手を挙げて挨拶をしてきた。
笑顔は爽やかだが、血色は悪く青白い肌をしている。
3人は目を合わせ、仕方なくリビングのソファーに腰掛けた。
「あのー、何かご用でしょうか?」
恐る恐るアスタが伺うと、相手はニコニコとしながら答えた。
「君たちと旅をさせてもらおうと思ってね!」
「え!?」
驚きの発言に声を揃える。
それからアスタが真っ先に聞く。
「な、何で!?」
「君たちが私に声をかけてくれたからだよ!」
3人が揃って目を丸くする。
「そんなの、あの辺通る人は大抵声かけるでしょ!?」
「そうだよ!シャロンたちだけじゃないはず!!」
「うん、うん」と頷いて聞いていたが、また口を開いた。
「いいや、君たちしか通らなかったよ!あの道も人通りがめっきり減ってしまってね」
『そうだ、凍土解消で蜂湧いて人通り無くしたの自分たちだった・・・』
下唇を噛み締め、なんとも言えない苦苦しい顔をする。
「俺たちと旅に出るって、なんで急にここを離れようと思ったの?」
「そうよ、お兄さんこの辺の人じゃないの?」
アスタとキャメリアの質問に首を横に振った。
「いや、私に定住の地は無いよ。そう言えば自己紹介が遅れたね。私は犠牲の魔女、幸福の王子だよ」
言い終えた途端に“ガチャン”と陶器がぶつかる音がした。
見ると宿屋の主人がお茶を淹れてくれたのだが、動揺からお盆を揺らしてしまったようだ。
「す、すいません・・・」
「いえいえ」と笑顔で返す。
動揺していたのはパーティも同じだ。
「あの、魔女って魔王軍が狩り尽くしたんじゃ・・・?」
「何を言ってるんだ?あんなのは自治体に頼まれた分を一部狩っただけだよ!元より、数はそんなにいないから確かに絶滅したと思われても仕方ないけどね!ただ突然変異の魔獣なんてゴロゴロいるからね。いつでも魔女は現れるもんなんだよ」
「そ、そっか・・・」とシャロンが呟くように言った。
「人はみんなここのご主人のような反応をするんだけどね、君たちみたいに堂々と話してくれたのは初めてだったんだよ。だから、魔女に慣れているのかな?とか、どこか私が安住できる場所を知っていないかなとか思ったんだよ」
その言葉に宿屋のおじさんが目を丸くしてパーティを見る。
勿論パーティも滝のような汗を流していた。
「君たち、魔女と関わりがあるのかい?」
みんな黙って必死に首を横に振る。
「おや?おかしいなぁ。そこの召喚士の妖精の一つからチキン・リトルの魔力が感じられたんだけどな・・・」
「え!?」とおじさんがキャメリアを睨みつける。
キャメリアは身を縮めた。
「しかも魔導師の女の子の杖からは白雪姫の魔力が感じられたんだけど・・・」
「白雪姫だって!?」
一層目を見開いて見てきたおじさんにシャロンも身を縮めた。
さらに幸福の王子がトドメを刺す。
「その白雪姫の記憶から見えるが、君たちが凍土を解消してくれたんだってね!ありがとう!そのお陰でこの辺まで私が来ようと思ったんだよ!その道中で出会った女王蜂とこの辺まで来たら、居着いてね!今では私が餌をやるからあんなにも増えることができたんだ!みんな喜んでいるはずだよ!」
「ひゃぁっ!!」とパーティが手を口元に当てて息を呑み、汗を滴らせる。
「なんだって!?」とおじさんも更に睨みつける。
もう目の前の魔女への恐怖より、パーティへの怒りの方が強い。
3人は目の前の魔女よりも血色が悪く、縮こまっていたし汗もタラタラと流れ落ちていた。
「何か言い訳はあるか?」
おじさんに追い詰められて、アスタが観念したように仲間に言った。
「なぁ、もう言い訳できないとこまで来たし、仕方ない。責任取って、この魔女と一緒に旅に出よう」
「それもそうね」
「ねぇ、幸福の王子さん、一緒に旅に出たらこの辺の蜂さんはいなくなる?」
シャロンに聞かれて笑顔を向けて答える。
「私から頼んでおこう!」
それから宿屋のおじさんに向いた。
「そういうわけで、自分たちの責任を取ってここを出させていただきます」
「いただきます」
キャメリアに次いでシャロンも言う。
「うん」と腕を組んで大きく頷いた。
「あのー、今日はもう夜だし、明日の朝でも良いですか?」
「泊まるなよ!今すぐ行け!!」
宿泊代は免除してくれた。




