船内での再会
葵とディンブラは来た時と同じように海路を使って西の大陸に渡った。
船の甲板から離れゆくイーストポートを眺める。
「葵くん」
「ディンブラ・・・」
ディンブラも隣に並んで眺めていた。
「こっちの大陸には多くの協力者がいたね。君の家族も」
「ああ、だから離れたんだ。危険な目に遭わせるわけにはいかないからな」
十分に離れた頃、葵は船内の様子を伺いつつディンブラと話しを続けた。
「気持ちはわかるけどさ、たまには頼ることも覚えなよ。・・・あと、僕にもそんな風には思うなよ?」
「え?」と意外そうな顔でディンブラを見る。
「だから、危険な目に遭わすわけにはいかないとか。僕は君の共犯者だ!仲間だ!遠慮しないでよ!・・・たしかに、葵くんのこれまでの仲間よりは頼りないかもしれないけどさ」
葵は視線を逸らせた。
「あー・・・いや、そう感じさせたのなら悪い。・・・俺は人と接するのがどちらかというと苦手なんだ。四天王の時だって、部下を持ってかなり苦戦した。他のみんなは割とすぐに打ち解けていたけど、俺は時間がかかったんだ。頼りにしてないわけでもないけど、その・・・表現が下手というか・・・」
ディンブラは表情を緩めた。
「そんなの、わかってるよ!君が人間関係やその表現が下手なことくらい、エディブルの花園の時から見ててわかっていたよ!苦手ならさ、訓練していこ!乗り越えよ!」
少し不安げにディンブラを見ていたが、葵も次第に微笑み出した。
「そうだな。魔王軍の時だって乗り越えたことだ。組織じゃない分、より一層がんばるよ!」
「そんなにがんばらなくてもいいよ。君らしくいたらいい。別に否定しないからさ」
「ありがとう」と返し、またすぐに表情が硬くなった。
「ディンブラ、気を付けろよ。もしかしたらこの船の中に大陸間の門で俺たちを狙って来た人物がいるかもしれない」
「そうだね・・・心休まらないね」
ディンブラは隣でため息をついた。
「今のところは特にいった殺気は感じない。視線は・・・」
葵とディンブラを取り巻く視線は多かった。
しかし、みんな敵意ではなく好意ではある。
使い回された表現をすると、”目がハート”である。
そう、この2人腐っても顔面だけはイケメンなのだ。
主に女性からの蕩けたような好意の目線、殺気も混じり始めたが、それは女性の視線を独占する2人への男性からの僻みの上に来るものだ。
「・・・部屋に戻ろうか」
「・・・うん」
2人はさっさと部屋へと帰っていった。
2人分のベッドが置いてある個室に入り、鍵をかけてカーテンを閉める。
「しばらくは大丈夫とは思うが、順番に休もう」
2人は交互に睡眠を取りつつ、到着を待った。
葵が寝ている時にドアからノック音が鳴る。
「はい」と言ってディンブラが出ようとした時、葵にノブに向かって伸ばした手を掴まれた。
「待て。嫌な感じがする」
「え?」
ディンブラを退げさせる。
カーテンを開けて周囲を確認していると、廊下の遠くに走って行く人影が見えた。
「ディンブラはここで鍵をかけて待て。俺が見てくる。絶対に俺が戻るまで出るなよ」
「葵くん!!」
ディンブラの制止も聞かずに葵は飛び出して行った。
「もう!何で1人で勝手に行くかな〜?」
少しイライラしたように言うが、葵の言う通り鍵をかけた。
「でも・・・今は葵くんを信じるしかないか。葵くんの方がこういう状況を何度も潜り抜けてきただろうし、その経験値に賭けるしかない」
葵は追いかけて甲板まできたものの、見失った。
大きな客船は客室が2階建て構造となっており、甲板もそれぞれの階にある。
そのうち、2階の甲板にはベンチがあり、海風に当たりながら談笑をしたり軽食を食べる人々が集まっていた。
『人が多いな・・・。だが、殺気は無い』
葵は見渡しながら進んで行くと、呼び止められた。
「あれ?葵?」
振り返ると葵の兄、三男の高嶺がいた。
「高嶺兄さん!!どうしてここに?」
「それはこっちのセリフだよ!まだ東の大陸にいたのか?」
高嶺が近づき、辺りを見渡す。
「あれ友達は?」
「ディンブラなら部屋にいます。それより、高嶺兄さんはお一人ですか?」
それには首を横に振って答えた。
「いや、兄さんたちもいるよ!これから東の大陸で仕事なんだ!ファッションショーがあるからね!母さんも旅行がてら連れてきたよ!」
この三兄たちは昔から幼い葵へのいたずらで培った服飾の創作技術でなんとプロのデザイナーにまでなったのだ。
さらにはそれなりに有名ブランドで色んな地でファッションショーがあれば呼ばれて新作発表をしている。
ちなみに、長男王林は服、次男紅玉はアクセサリーや帽子など、三男高嶺は靴が得意なのである。
そして四男葵はモデルとして名刺になり各関係者に恥ずかしい写真が配られている。
だが、雑誌などには他のモデルに混じって兄たちのブランドを身に纏い、まともにモデルをしたことも一応あるが、それはまた別の話。
『母さんまで!!こんな時にややこしい!とりあえず、相手に俺の関係者だと認識させてはダメだ!すぐに離れよう!!』
「あ!兄さんたち!葵も乗ってたよ!」
高嶺が呼ぶと王林も紅玉もやってきた。
「あ、本当だ!」
「葵もいたんだ!」
葵の表情が歪み、汗を垂らす。
『まずい!早く離れないと!!』
「兄さんたち、僕友達を待たせているのでそろそろ行かせてもらいますね!」
船内のアナウンスが鳴り響く。
「まもなく、ウェストポートに到着いたします。本日もご乗船ありがとうございます」
「それでは、そろそろ港にも着くようなので失礼します!」
葵が離れようとした時、背後から肩を叩かれた。
「葵ちゃん?」
振り返ると母がいた。
「やっぱり、葵ちゃんじゃない!同じ船に乗ってたのね!」
母まで集まってしまい動揺していると、強い殺気を感じた。
「危ない!!」
母を抱きしめて飛んできた矢を体で受け止める。
「ぐっ!!」
「きゃぁ!!」
驚く母を背に隠し、矢が飛んできた方向を睨みつける。
「今、僕は狙われています!!母さんを連れて早く逃げて!!」
王林が母の手を引いて頷く。
「わ、わかった!」
「何かわかんないけど、葵も気を付けろよ!!」
「葵、これ!!」
そう言って高嶺に渡されたのは絆創膏だった。
「いや、これじゃどうにもなりませんて」
葵の目から感情が失せた。