縁側で
山茶花とキャメリア、幼い日の事。
縁側で足を外に投げ出して、ぶらぶらと動かしながら手元にあるハスノハカズラ(ステファニア)の犬の張子を山茶花はつまらなさそうに見ている。
「お姉ちゃん、何してるの?」
そこへ同じく幼いキャメリアが来た。
「んー?・・・これさ、お父様から貰ったの。ハスノハカズラっていう妖精なんだって。ワンちゃんの姿してんの」
「へー!かわいい!」
喜ぶキャメリアに呆れながら返す。
「あのね、そんなにいいもんじゃないわよ?」
「どうして?」と聞き返す幼い妹にまたやるせなく言い返す。
「だって、ワンちゃんってことはほら、散歩させないといけないんじゃないの?」
ハスノハカズラは張子の状態で動けなかったが、全力で首を横に振りたい気持ちでいっぱいだった。
妖精と犬を一緒にされちゃあ、困る。
「散歩したらウンチも出すのよ?あと予防接種に去勢手術もいるかしら?」
本当に犬扱いである。
唖然と姉の話を聞くキャメリアを見て何か閃く。
「そうだ!椿ちゃん!あなたにあげるわ!!」
「え?」
ぐいぐいと犬の形をした張子を押し付けてくる。
「だ、だめだよ!だってお父様がお姉ちゃんにってくれたんでしょ?」
「私じゃだめよ!だって予防接種も、去勢手術もお金無いもん!!」
「そんなの私もだよ〜!!」
姉が何故かほっぺに押し付けてきていた。
「大丈夫よ!椿ちゃんにしかこの子は懐かないわ!!私だと召喚に応じてくれないかも!!」
「私なんてまだ召喚すらできないよ!!」
「そんなのその内できるわよ!!」
そう言って手に握らせられる。
「え?え?でも!だめだよ!お父様に何て言うの?」
「それは自分で考えてー!!!」
姉を見ると遥か遠くにいた。
この頃から走る才能はあったようだ。
「そんなことあったぁ?」
またとぼける姉。
さすがにイライラする。
「あと家事についてだけど!あれだって別にお姉ちゃんが不得意なんじゃなくて、無精なだけでしょ!?面倒だからって全部私に良いように言って押し付けてただけじゃない!!」
「えぇー?そう?」
また指を頬に当てて傾げていた。
幼き日の姉妹再。
「椿ちゃん!食器の洗い物しよー!」
「やるー!!」
台を用意してあげて、キャメリアを乗せる。そしてキャメリアが洗っているのを横から見ていた。
「お姉ちゃんはやらないの?」
「私は椿ちゃんが洗ったのを拭くわ!」
「わかった!」と言ってまた一生懸命洗う。
そして洗い終わったものを丁寧に拭いていく山茶花。
そうしている内にまた新たに洗い終わった皿ができる。
いつしか積み上がり、キャメリアが洗い終わった頃には・・・2枚は拭けたようだ。
「お姉ちゃん、お手伝いしようか?」
「え!?本当!?お願ぁい!!」
そう言って持っていた布巾を渡す。
「・・・お姉ちゃんは拭かないの?」
「私?私はほら、お皿をしまうから」
「そっか!」
一生懸命に皿の水を拭く妹を背に、自分の拭いた皿を食器棚にしまう。
その時、勝手口から友達の声が聞こえた。
「さーざんーかちゃーん!」
「あーそーぼー!」
「行く行くー!!」と幼い妹のキャメリアを置いて行ってしまったのだ。
キャメリアは唖然として姉が去った所を見ていた。
「別にお姉ちゃんだってできたけどやってこなかっただけじゃない!!」
「あっれぇー?そうかなー?」
真っ赤になって怒るキャメリアに対し、とぼけながら困ったような笑顔を向ける山茶花。
「てか椿ちゃんよく覚えてるねー」
「当たり前よ!!今でも思い出したらイライラするんだから!!」
父は呆れていたが、柊は隣でキャメリアを「まあまあ」と落ち着かそうとしていた。
そんな柊を手で制し、腰を上げて姉に怒りをぶつけるように聞き返す。
「なんでそんな嘘吐くのよ!?出てった理由も世間の刺激云々(うんぬん)と言ってたじゃない!!」
「だってぇ、納得できる理由無いとみんな頷かないでしょ?」
平然と言う姉についに呆れ果てた。
「てなことがあったのよ」
「大変だな、キャメリアも」
そう言ってアスタはキャメリアの実家の縁側で、出されたお茶を飲んでいた。
『てか・・・』と思考を一区切りさせると遠くで柊と山茶花がお互いを呼び合う声が聞こえる。
「山茶花さーん!!」
「柊さーん!!」
その後はきっと抱きつき合っているのであろうということは容易に想像ができた。
『何で柊さんはあんな人にここまでぞっこんで居続けられんの?』
アスタの疑問は正当であった。