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5.第一子誕生!?

壊れかけの扉が崩れ落ち、その向こうに異様な光景が広がった。


薄暗い部屋の中に並ぶのは、中世の世界には到底存在しないはずの研究設備。

石造りの壁に組み込まれたガラス張りの棚には、色とりどりの液体が入った試験管やフラスコがずらりと並び、

巨大な机の上には、魔道具とも科学機器ともつかない謎の装置が無造作に置かれている。


まるで、どこかの現代科学実験室のような光景だった。


「……これ、やっぱり研究施設じゃない。」


ディーズベルダの青い瞳が、驚きと興奮に揺れる。


「この中世みたいな時代によくこんなもの作ったわね。」


彼女は呆れたように言いながらも、興味津々で机の上に並べられた研究ノートを手に取った。


(こんなもの、普通に考えてこの世界の人間が作れるわけない……)


ページをめくると、書かれていたのは——


「……読めるのですか? この字が。」


エンデクラウスが、横から覗き込みながら微笑を浮かべる。


「えぇ……。」


ページの上に綴られていたのは、間違いなく——


日本語。


「やっぱり! 他の世界から来たんですね、ティズィ!」


エンデクラウスは、驚きと興奮の入り混じった声を上げる。


「うん……。前々から分かってるくせに…。」


ディーズベルダは適当に相槌を打つが、完全に研究ノートの内容に意識を奪われていた。


転生者が創った国

(……げ。世界の核心に触れてしまったかも)


研究ノートには、転生者の意図が赤裸々に記されていた。


「魔法と剣のファンタジー世界を作りたかった」

「モ〇スターハ〇ターがしたかった」

「ド〇クエの世界を目指していた」


(……まるでゲームの設定みたいなことを書いてるわね)


ディーズベルダは呆れつつも、次のページをめくる。


そこには、この土地を覆う霧の晴らし方が詳細に記されていた。

まるでゲームの攻略本のように、「霧を晴らすコマンド」が忘れないようにメモされている。


「……これか。」


彼女は、研究ノートの横に置かれていた装置をじっと見つめた。


「エンディ、外を見てきて? どうなってるか。」


「わかりました。」


エンデクラウスは軽やかに頷くと、その場を離れた。


ディーズベルダは再びノートに視線を落とす。


(海を越えたら、現代並みに進んだ文明がある大陸があるのかしら……?)


そんなことが記されているページを見つけ、思わず眉をひそめる。


(……でも、船がまだないから行けないわよね)


他のコマンドもないかとページをめくっていると——


「凄いですよ!」


エンデクラウスが駆け戻ってきた。


「青空が広がって、空気も澄み渡っています!」


彼の紫の瞳は、まるで少年のように輝いていた。

滅多に見ない、彼の無邪気な表情にディーズベルダは思わず微笑む。


「エンディ、この装置に血が必要みたいなの。協力してくれない?」


「血、ですか?」


エンデクラウスが首を傾げる。


ディーズベルダは氷魔法を使い、指先ほどの小さな氷柱の針を作り出した。


「まずは私からね。」


彼女はためらいなく、自分の指先に針を押し当て——プツッ。


赤い雫が滲み、装置の小さな受け皿に落ちる。


「ティズィ!?」


突然、エンデクラウスが驚いたようにディーズベルダの手を取ると——


彼の唇が、そっと指先に触れた。


「っ……」


ディーズベルダの心臓が、一瞬大きく跳ねた。


(……な、何をしてるの!?)


エンデクラウスは、色気たっぷりに彼女の指を舐め取り、口元を綺麗に拭う。

その仕草はまるで、甘い蜜でも味わうかのようにゆったりとしていた。


ディーズベルダは目を丸くして、思わず顔が熱くなるのを感じた。


(……いやいやいや、今ラブコメしてる場合じゃないでしょ!!)


「エンディ、早く。」


ディーズベルダは慌てて氷柱の針を差し出した。


エンデクラウスは、面白そうに笑いながら針を受け取り、同じように指先を突き、装置に血を捧げた。


その瞬間——


ゴゴゴゴ……!


装置が低く唸りを上げ、先にあった巨大な水槽がボコボコと泡立ち始めた。

泡とともに、白い煙が吹き出し——


——パァァッ!!!


煙の中から、1歳くらいの赤ん坊が現れた。


「パパ! ママ!!」


「おーーーー。」


ディーズベルダは感情が追いつかず、思わず乾いた拍手を打った。


エンデクラウスは、その場で膝をつくと、信じられないような顔で呻いた。


「こんな形でティズィと子供を作りたくなかった……。」


エンデクラウスは膝をついたまま、呆然とした表情で目の前の赤ん坊を見つめていた。

紫の瞳が揺れ、衝撃と喪失感が入り混じった複雑な感情が滲んでいる。


彼の反応に、ディーズベルダはふっと息をつく。


(……まぁ、こうなるわよね。)


研究ノートを読んだ限り、この装置がどういうものなのかは把握していた。

魔法と科学の融合により、「適合する遺伝子情報を元に完全な子供を生成する装置」——


どうやら、転生者たちはこの大陸に人間を作るために、この装置を作り上げたらしい。


(……まぁ、それでも普通びっくりするわよね。)


ディーズベルダは、呆然とするエンデクラウスを横目に、そっと赤ん坊を抱き上げた。


小さな体——まるで雪のようにふわふわとした銀色の髪。

そして、ディーズベルダの青い瞳ではなく、エンデクラウスの紫の瞳がこちらをじっと見上げている。


「……しっかりと私たちの遺伝子を受け継いでるわね。」


赤ん坊の顔を覗き込みながら、思わずそう呟く。


その顔立ちは——エンデクラウスそっくりだった。

幼いながらも整った造りの顔は、将来女性を虜にする未来が容易に想像できるほどの端正さを持っている。


「……どうして俺に似たんですかね?」


エンデクラウスはやや複雑そうに眉を寄せ、赤ん坊をじっと見つめる。


「それはもう、あなたの遺伝子が強いからじゃない?」


ディーズベルダは軽く笑いながら、赤ん坊を優しく揺らした。


赤ん坊は嬉しそうに笑い、ディーズベルダの指をぎゅっと掴む。


その小さな手の温もりに、彼女の心は自然とほころんだ。


「一緒に育てましょうね、エンディ。」


彼女は赤ん坊を抱きしめながら、真っ直ぐにエンデクラウスを見つめる。


エンデクラウスは一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて表情を緩めた。


「ティズィ……まぁ……あなたがそういうなら。」


彼はゆっくりと立ち上がり、赤ん坊の髪を優しく撫でた。


その仕草には、まだ戸惑いながらも、どこか守るべきものを見つけた者の温かさがあった。


「……で、名前はどうしますか?」


「名前をつけてあげないとね。何か候補はある?」


ディーズベルダは、赤ん坊の髪を撫でながら問いかける。


エンデクラウスは少し考えた後、落ち着いた声で答えた。


「男の子ですし、クラウディスなどいかがでしょう?」


「クラウディス……。良い名前ね。そうしましょう。」


ディーズベルダは微笑みながら、赤ん坊——クラウディスの頬をそっと撫でた。


「クラウディス、今日からあなたは私たちの家族よ。」


赤ん坊は、彼女の言葉を理解したのかしていないのか、満面の笑みを浮かべて「ま!」と元気に声を上げた。


エンデクラウスはその様子をじっと見つめ——深いため息をついた。


「……新婚生活、たった四日しか過ごしていないのに……。」



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