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3.いざ、突き進め!

どことなく紫色に見える大地が広がっていた。

空はくすんだ灰色で、太陽の光すらどこか弱々しく感じる。


地面はひび割れ、まばらに立つ枯れ木は、まるでこの地の絶望を象徴するかのように黒ずんでいる。

風が吹くたび、乾いた土埃が舞い、耳の奥でかすれた音を立てる。


「……荒れ地とは聞いてたけど、想像以上ね。」


馬車から降り立ったディーズベルダは、ため息混じりに呟いた。


これが、彼女の新たな領地——最果ての荒れ地。


そして、ふと目を凝らすと、遥か彼方にそびえ立つ城が目に入った。


「……魔王城?」


「ええ、今は廃墟になっていますが、かつて魔王が住んでいた城です。」


エンデクラウスが穏やかに答える。


「いまだに魔物が残っていて、ここは危険だとされているんですよ。」


彼の言葉を裏付けるように、遠くで不気味な影が動くのが見えた。

岩陰からこちらをじっと見つめる異形の生物——魔物たち。


それを見た瞬間、ディーズベルダは思わず声を上げた。


「うわ、魔物とか初めて見ました。」


彼女は警戒しながら、エンデクラウスの袖を引く。


だが、彼はまったく動じる様子もなく、淡々と答えた。


「そうですか?俺は何度かここへ遠征に行かされていたので見慣れていますよ。」


その言葉に、ディーズベルダは彼を見上げる。


「わー…さすが元・次期公爵。」


彼女が乾いた拍手を送ると、エンデクラウスはくすくすと微笑んだ。


パチ、パチ。


枯れた空気の中に、虚しく響く拍手の音が、さらに場の寂しさを引き立てる。


ディーズベルダは魔物たちが潜む荒れ地を見渡し、少し考え込む。


「どーするかなー……。」


そして、ちらりとエンデクラウスの方を見る。


彼は相変わらず、ニコニコとした穏やかな笑みを浮かべ、こちらを見つめていた。


「どうしますか?」


柔らかな声音とは裏腹に、その紫の瞳にはどこか楽しそうな色が宿っている。


(……なんでそんなに余裕なのよ、この人。)


ニコニコと微笑みながらこちらを見ているエンデクラウスを横目に、ディーズベルダは小さく息を吐いた。


荒涼とした大地には、しばらく人が住めるような場所はなさそうだった。

枯れ木が不気味に揺れ、紫がかった大地がどこまでも広がっている。


「……しばらくは馬車で寝泊まりね。」


現状、この馬車が唯一の避難場所であり、生活拠点になる。

幸い、追放される際に持ち出した荷物の中には、保存食や寝具も含まれていた。


ディーズベルダは考えながらスコップを手に取り、地面を掘り始めた。

土を軽く掬い、指で感触を確かめながら考え込む。


「……土に異常はなさそうだけど……ふむ。」


土壌自体に大きな問題はなさそうだったが、育てる作物によっては工夫が必要になりそうだ。

だが、それよりも先に片付けるべき問題がある。


「エンデクラウス様はどのくらい強いですか?」


ディーズベルダはスコップを置き、隣の彼に目を向けた。


エンデクラウスは少しだけ考え込むように視線を上げた後、肩を軽くすくめる。


「さぁ? ですが、ここで倒せなかった魔物はいないです。」


その言葉に、ディーズベルダはじっと彼の顔を見つめた。


(……やっぱり、底が知れないわね、この人。)


「魔王城まで突っ切ろうかと思うのだけど。」


彼が余裕であるなら、それを利用しない手はない。


エンデクラウスの紫の瞳がわずかに輝き、口元に小さな笑みが浮かぶ。


「へぇ。面白いことを考えますね。」


ディーズベルダは腕を組み、遠くに見える魔王城を見据えながら、慎重に言葉を紡ぐ。


「なーんか引っかかるのよね、魔王城って。」


古びた城の輪郭が、曇った空の下でぼんやりと浮かび上がっている。

魔王が倒れた今、ただの廃墟になっているはずだが、何か違和感が拭えない。


「御者を頼んでいい? 私が魔法で魔物を倒すわ。」


エンデクラウスは微笑みながら頷いた。


「もちろん。」


彼に御者を任せ、ディーズベルダは魔法の準備をする。

空気がひんやりと冷たくなり、彼女の手元には淡い青白い輝きが生まれ始める。


——ゴゴゴゴ……


魔物たちが馬車の動きに気づき、徐々に近づいてきた。


「さあ、来なさい。」


ディーズベルダは手を振り上げると、冷気を込めた魔法を解き放った。


——ドンッ!


氷の刃が魔物たちを貫き、動きを止める。


魔物の体がバキバキと凍りつき、そのまま地面に倒れ込む。

近づいてきた敵を次々と倒しながら、彼女は魔王城へと向かっていった。


だが——


「っ!」


一匹の魔物が思ったよりも素早く突っ込んできた。


それは鋭い牙を持つ狼型の魔物。


間に合わないと判断したディーズベルダは、とっさに自身の腕に氷を纏わせ、防御態勢を取る。


(……噛ませて、動きを止めてから倒す!)


しかし——


ボッ……!!


鮮やかな炎が狼の魔物を包み込み、その場で消し去った。


「……!」


ディーズベルダは思わずエンデクラウスの方を振り返った。


彼は片手を軽く上げたまま、何事もなかったかのように微笑んでいる。


「エンデクラウス様は魔法も使えたんですね。すごーーい。」


ディーズベルダは乾いた拍手を送る。


「エンディと……呼んでください。ディズィ。」


エンデクラウスは優雅に微笑みながら、彼女を見つめる。


「エンディすごーい。」


パチパチと、先ほどより少し気の抜けた拍手を送るディーズベルダ。


だが——


(ん? 火……?)


ふと彼女の脳裏に、ある閃きがよぎる。


(……私の氷、溶かしちゃえば水になるのでは?)


ディーズベルダの頭の中で、一つの可能性が閃いた。


最果ての荒れ地には水源がない。

しかし、自分の氷魔法を使えば、水を生み出せるのでは?


(火と氷を組み合わせれば……いけるかも。)


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すごーい('-' ノノ"パチパチ
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