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25.飲み水問題

翌日、ディーズベルダが会議室に入ると、すでに何人かの重要な人物が集まっていた。

大工長、農業担当、医療担当の軍医、そして住民代表の数名が、すでに険しい顔をして座っている。


「お集まりいただきありがとうございます。」


ディーズベルダが椅子に腰を下ろすと、すぐに大工長が重い口を開いた。


「奥様、まずお伝えしなければなりません。現在、我々が確保している水源は、魔王城の謎の装置からでる水と、時折降る雨水の二つのみです。」


「ええ、それは把握しているわ。けれど、どうして住民たちは雨水をそのまま飲んでいるの?」


「そ、それが……」

住民代表の一人が少し気まずそうに視線を逸らした。


「魔王城の水は、貴族の方々や騎士団が優先されるものだと思っている者が多くて……。また、城まで汲みに行くのが面倒だと言う者もおりまして……。」


(なるほど……。)

ディーズベルダは腕を組みながら、彼らの言葉をじっくりと噛みしめる。

確かに、住民たちは長年、貴族から厳しい扱いを受けてきた人々が多い。

「城の水は自分たちのものではない」と思い込んでしまうのも無理はない。


しかし——


「……わかったわ。でも、だからといって雨水をそのまま飲むのは危険よ。衛生面で問題があるし、病気の原因にもなるわ。」


「確かに、軍医としても水の問題は気になっております。」

軍医が眉をひそめながら言う。


「できるだけ煮沸するように言い聞かせていますが、薪を確保するのが大変だという声も上がっていまして……。」


「薪の問題……。」


水を煮沸するのに必要なのは、火を起こすための燃料。

しかし、最果ての地では、薪の確保すら容易ではない。


「他に何か方法は?」


「井戸を掘るのはどうでしょうか?」と大工長が提案する。


「井戸ね……。」


ディーズベルダは少し考え込む。

確かに新しい井戸を掘れば、水源が増えるかもしれない。

けれど、掘った井戸の水が安全かどうかはわからない。

何かしらの不純物が混ざっていれば、結局煮沸しなければ飲めないのだ。


「うーん……薪がないなら、いっそのこと煮沸しなくてもいい方法を探したほうが早いかもしれないわね。」


「そんな都合のいいものがあるのでしょうか?」


(あるのかしら……。)


ディーズベルダは頬に手を当て、考え込む。

前世の記憶をたどってみても、水の浄化に関する知識はそれほど詳しくない。

この世界にはろ過装置もなければ、化学的な浄水技術もない。


(となると……心の図書館に行くしかないわね。)


「とにかく、一度、私のほうで何か手を打てないか考えてみるわ。今日のところは解散しましょう。」


「かしこまりました。」


会議室にいた人々が、次々と立ち上がり、退室していく。

ディーズベルダは、それを見送りながら、小さく息を吐いた。


(やっぱり、私が動くしかないみたいね……。)


◇◆◇◆◇


寝室へ戻ると、ジャスミンがすでに部屋を整えて待っていた。


「奥様、お休みの準備を整えておきました。」


「ありがとう、ジャスミン。でも、ちょっと調べ物をするから、しばらくそばにいてもらえる?」


「かしこまりました。」


ディーズベルダはベッドの上に腰を下ろし、ゆっくりと深呼吸する。


(さて……心の図書館へ行くわよ。)


まぶたを閉じ、意識を集中させる。

次の瞬間——視界が暗転し、見慣れた"知識の館"が広がっていた。


(さて、水の浄化に関する本は……。)


ディーズベルダは迷いなく書架の間を歩き、目的の情報を探し始めた。


目を開くと、私は無数の書架が立ち並ぶ"心の図書館"の中に立っていた。

果てしなく続くように見える書架には、前世で私が知っていた現代日本の知識が詰まっている。

しかし——


魔法に関する本は一冊もない。


ここには、魔道具の作り方も、魔力の流れを操る理論も存在しない。

あるのは、電気や科学、工学といった前世の知識だけ。

けれど、これがあれば、この異世界でも応用できる技術はきっとあるはず——


(さて、水の浄化に関する本は……。)


私は迷うことなく書架の間を進み、背表紙を指でなぞるように確認しながら歩く。

"水質改善"、"飲料水の安全基準"、"災害時の浄水法"など、気になるタイトルが目に入るたびに手を止め、必要な情報があるかを素早く判断する。


(ろ過装置の仕組みや、水質を改善する方法の本があればいいんだけど——)


ふと、一冊の本が目に留まった。

それは、ほかの本よりもわずかに前に飛び出している。

まるで「ここにあるわよ」と言わんばかりに。


(……あった!)


私は素早くそれを手に取り、表紙を確認する。


「家庭でできる水の浄化法」


(これは……前世で読んだことがある本ね。)


パラパラとページをめくると、そこにはシンプルながら実用的な水の浄化方法が書かれていた。


(なるほど……この方法なら、いくつか応用できそうね。)


私は本を片手に持ちながら、これまでの経験と照らし合わせ、今の領地で実現可能な方法を考えていく。


結論——ろ過機能を持ったウォーターサーバーを作り、改造するしかない。


前世でのような本格的なろ過装置を作るのは難しい。

水道管を敷設するには膨大な時間と労力がかかるし、技術的な問題も山積みだ。

それに、この地には未だ水のインフラが整っていない。


(ならば、錬成装置を使って、簡易的なウォーターサーバーを作るしかないわね。)


私は本を読みながら、今の環境で実現可能な方法を整理していく。


・水を浄化するためのフィルター(砂・炭・小石を層にした簡易ろ過装置)

・清潔な水を貯めておくための容器(錬成装置で生成できるタンクを利用)

・住民が管理できる仕組み(水汲み当番制度の導入)


(錬成装置を使えば、ある程度の素材は作り出せるはず……。)


この地の住民はまだ雨水をそのまま飲む習慣がある。

ならば、きちんと管理された水を供給するために、ウォーターサーバーのようなシステムを作るのが最善策だろう。


(……やるしかないわね。)


私は本を閉じると、深く息を吸い込んだ。

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