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11.キングサイズのベッドが届いてしまった。

数日後の朝——。


ディーズベルダが屋外で開拓計画の確認をしていたその時だった。


——ドドドドドドドッ!!


地響きを伴う馬蹄の音が、遠くから押し寄せるように響いてくる。


「……え?」


振り向くと、地平線の向こうから騎士たちの大部隊が整然と馬を駆る姿が見えた。

朝日を受けて銀色の甲冑が輝き、軍の規律を感じさせるほどの動きで、次々と魔王城の前に整列していく。


「な、なに!?」


(こんな大軍、呼んだ覚えはないんだけど!?)


騎士団だけではない。


彼らの後方には、明らかに騎士には見えない、屈強な男たちも多数混ざっていた。

鍛え抜かれた筋肉を誇示するような男たちが、荷車を押しながら並んでいる。


ディーズベルダは思わずエンデクラウスの方を向いた。


「エンディ!? どういうこと!?」


すると彼は、どこまでも涼しげな表情のまま、にこやかに微笑んだ。


「実は……。」


「実は?」


「先日から住民の間で喧嘩が起こったり、ディズィの寝室やクラウディスの寝室を襲ったりする輩が増えてきたので——。」


「……え!? そうなの!?」


ディーズベルダは目を見開いた。


「俺が事前に手配していた見張りの騎士たちが対応していたので、ディズィが気づくことはなかったでしょうけど。」


(え、確かにここ最近は何も問題なく過ごせてたけど……そんなことになってたの!?)


「それに最近は、俺と一緒に寝ているでしょう? 安全な寝室の中では気づかないのも無理はありません。」


彼は優雅に微笑むが、ディーズベルダは一瞬、耳を疑った。


「……それ、言い方が誤解を招くんだけど!?」


「事実じゃないですか?」


「そ、それは……そうだけど……っ。」


ディーズベルダは、何とも言えない気恥ずかしさを覚えながらも、

とにかくこの大軍のことを確認しなければならないと頭を切り替えた。


「じゃあ、この人たちは?」


「家を建てるための職人たちです。王都から腕の立つ大工と石工を集めました。」


「そ、そう……。なるほど。」


開拓を進めるためには、住民たちの安全を確保しながら住環境を整えるのが最優先だ。

それにしても、エンデクラウスの動きが早すぎる。


「エンディ、本当に準備がいいわね……。」


「ええ、ディズィとクラウディスの安全のためですから。」


(……この夫…有能過ぎる!!)


しかし——。


「ん? あれは何?」


彼女の視線が、大きな荷物を載せた荷馬車に止まる。


大工や騎士たちが荷馬車の上から慎重に下ろそうとしているそれは——


どう見ても異様に大きな家具だった。


エンデクラウスは、その荷物を見て、何でもないことのように答えた。


「ベッドです。」


「……ベッド?」


ディーズベルダは、しばし呆然とした。


「誰の?」


「俺とディズィのベッドに決まってるじゃないですか。」


「えぇっ!?」


彼女は驚きのあまり、思わず大声を上げた。


荷馬車の上から降ろされるそれは、豪奢なキングサイズの天蓋付きベッド。


彫刻が施された太い柱、深紅のベルベットのカーテン、ふかふかの羽毛布団——。

もはや、王族の寝室にでも置かれるような代物だった。


「ちょ、ちょっと待って!? なんでそんなものを!?」


「夫婦ですから。」


「いや、そうだけど!! そんな仰々しいベッド、必要ないわよ!?」


ディーズベルダが慌てるが、エンデクラウスはいつも通りの微笑を崩さない。


「ディズィ、今まで窮屈な思いをして寝ていたでしょう? これならゆったりと眠れますよ。」


「あれで十分だったのに!?」


「でも、最近『狭い』って言ってましたよね?」


「それは……その……抱きしめられると、確かに動きにくいけど……。」


言い淀むディーズベルダを、エンデクラウスはにこやかに見つめる。


「つまり、俺の判断は正しかったですね。」


(違う! そうじゃない!!)


「ちょっと! もう少しコンパクトなのでも良かったんじゃ!?」


「せっかくなら、最高の寝心地で。」


「どこの王族よ!!」


慌てふためくディーズベルダをよそに、職人たちは手際よく豪華なベッドを寝室へと運び込んでいった。


その様子を、エンデクラウスはどこまでも満足げな表情で眺めている。


(いやいや、満足してる場合じゃないわよ!?)


ディーズベルダは、未だに目の前の王族レベルのベッドが現実とは思えず、

混乱したままエンデクラウスを振り返った。


「ねぇ、私たちって……政略結婚、だったわよね?」


彼女が確かめるようにそう尋ねると、エンデクラウスはゆるく微笑んだ。


「はい、表向きはそうですね。」


「え?」


(表向きは……? どういうこと?)


彼の言葉に違和感を覚えた瞬間——。


スッ——


不意に距離が縮まった。


「気付きませんでしたか?」


耳元で、低く甘い囁きが落とされる。


「俺が裏で手を回したに決まってるじゃないですか。」


「え……?」


理解が追いつかない。


だが、彼の囁きが耳に響いた瞬間——。


ディーズベルダの思考は、一気に真っ白になった。


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


驚きのあまり、思わず大声を上げる。


心臓が一瞬で跳ね上がるのを感じた。


(ちょ、ちょっと待って!? つまり何!? どういうこと!?)


「ちょっと、ちょっと待って!!」


彼の肩を掴みながら、ディーズベルダは必死に問い詰める。


「いつから!?」


「さぁ?」


エンデクラウスは、挑発的な笑みを浮かべながら、余裕たっぷりに言葉を濁す。


(なにそれ!! なんなのこの人!!)


ディーズベルダは真っ赤になりながら、思わず拳を握る。


しかし、彼の瞳は終始穏やかで楽しげで——。


(……まさか本当に、最初から仕組まれてたってこと?)


彼の意図がどこまでだったのかは分からない。


でも、一つだけ確かなことがあった。


(完全に……この男の手のひらの上だわ。)


まるで彼に絡め取られるような感覚。


悔しいのに、どこか心地よさすら感じてしまう自分が腹立たしい。


そんな彼女をよそに、エンデクラウスは相変わらずの優雅な微笑を崩さず、静かに言った。


「さて、今夜からは広々としたベッドで寝られますね。」

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