side円卓の魔女会議(グレース・ハートネット視点)
「よく来てくれたわね。まさか三家も来てくれるとは思わなかったわ」
私、グレース・ハートネットは、今回の会議の参加者を見回して言った。
代々使われている年季の入った大きな円卓の周りには、私の他に三人の参加者が定位置に座っていた。
姪っ子のエヴァから手紙を受け取って、私はすぐに円卓の魔女会議を招集した。
私の元には、エヴァからの私個人宛ての手紙と、円卓の魔女の家に向けた手紙の二通が届いた。
やはり他の円卓の魔女の家にも同じ手紙が届いたみたいで、私が臨時会議を開く連絡をすると、すぐに返答があった。
王都のとある一軒家の隠し部屋で、円卓の魔女会議は開かれる。
そこには特殊な魔術が敷かれていて、各家に伝わる特別な魔道具を持って来ないと、中に入ることさえできない。
「こんな手紙をもらったら、出席するしかなかろう」
ファビアン・ブレイザーが、例の手紙片手に肩をすくめて言った。
彼はブレイザー侯爵家の当主で、教会の上級神官も務めている。口髭をたくわえた、神経質で気難しそうな面立ちをしている。
「エヴァちゃん、婚約も解消したんでしょう? うちの傍系のロッドフォード伯爵家からも連絡があったわよ。ロッドフォード家も、エヴァちゃんがダルトン子爵家を継がないからって、もったいないことするわね」
フレデリカ・オルティスが、真っ赤な唇を尖らせて言った。
彼女はオルティス侯爵家の当主で、王宮魔術師団の先代の魔術師団長だ。見事な金髪に青い瞳の美女で、魔力量が多いから見た目は若いけれど、百歳を超える大魔術師だ。
「エヴァがダルトン家を抜けたのなら、次はミアが継ぐのか? ハリー・ダルトンでさえアレなのに、ダルトン子爵家はもう先が長くないのかもしれないな」
ギデオン・エッジワースが、静かに発言した。
彼は赤茶色の短髪に、四角張ったゴツい面立ちをしている。テーブルの上で組まれた手は、大きくて節くれ立っている。ドラゴニア王国一の魔道具師とも言われている。
「それで、エヴァちゃんは今どこにいるの?」
シンプルに、フレデリカが尋ねてきた。
「今は占いの館ルナテミスの主人マダム・アンタレスの家で、お世話になっているみたいね」
私は、エヴァからの手紙に書かれていたことを共有した。
「そういえば、エヴァは占い師もしていたな。さすが、占術のダルトン家の血を引き継いでいるだけはあるな。エヴァに行く所が無いなら、ブレイザー家が預かろうか? わが家には聖剣バカと魔術バカしかいないが、悪い奴らではないぞ。どっちもまだ婚約者はいない」
ファビアンが、口髭を指先で摘んでニヤリと笑って提案してきた。
「ちょっと! エヴァちゃんがフリーになったのなら、うちの息子だって一人空いてるわよ!」
すかさずフレデリカが反論した。
ビシッと、真っ赤に塗られたネイルの指先をファビアンに向ける。
「お前の家の倅も、魔術研究バカだろ」
ファビアンが嫌そうに顔を顰めて、軽口を叩く。
「ちょっと待ちなさいよ! エヴァの母親はハートネット家出身よ! まずはうちで預かるのが筋でしょう? 誰に嫁ぐのかなんて後よ、後!」
私が声を張り上げると、ファビアンもフレデリカも渋々押し黙った。
「では、エヴァはハートネット家が預かるのでいいな? 四大魔術の適性もあり、魔力量も多い。それにダルトン家の占術の才もある……市井で野放しにするには、もったいない人材だな。ハートネット家なら、遅れてた分の教育も施せるだろう」
ギデオンは冷静に話をまとめると、チラリと私の方に視線をよこした。
エヴァは、早くに先代のダルトン子爵家当主である祖父を亡くし、彼の後を追うように祖母が亡くなり、三年前には私の妹でエヴァの母に当たるソフィアも相次いで亡くした。
エヴァは幼い頃の魔力検査で、火水風地の四大魔術と呪い魔術の適性、それから上級魔術師に匹敵する魔力量を持っていることが判明した。
エヴァの祖父母とソフィアは、このことをとても喜んだ。エヴァが立派な魔術師になれるよう、教育を惜しまなかったし、愛情を込めて大切に育てた。
一方で、父親のハリーはこの魔力検査を機に、エヴァを無視するようになった。
ハリー・ダルトンが、実の娘の才能に嫉妬しているのは、はたから見てもよく分かった。
でも、他家の人間がそうそう口出しすることはできなかったし、エヴァの祖父母やソフィアが彼女を庇って、ハリーを嗜めてくれていた。
ソフィアが亡くなってからは、ダルトン家でエヴァを表立って守れる人間は一人もいなくなってしまった。
この時点でエヴァをハートネット家で引き取れれば良かったのだけれど、エヴァはダルトン子爵家の次期当主に指名されていたから、その願いは叶わなかった。
さらにおかしくなったのは、ハリー・ダルトンが、後妻シエンナと実の娘のミアをダルトン家に迎え入れてからだ。
エヴァの魔術の先生や家庭教師は全員辞めさせられて、当主の仕事をエヴァに押し付けるようになったのだ。エヴァがまだ十三歳の時だ。
エヴァは、慣れない当主の仕事に忙殺されるようになってしまった。
一方で、本来の当主であるハリーや後妻のシエンナや義妹のミアは遊んでばかり。彼らの浪費癖は、貴族たちの噂話にもよくのぼっていた。
だから、エヴァが必死にダルトン家を潰さないように奔走するしかなかった。
エヴァにはせっかく素晴らしい才能があるのに、まともに教育も受けさせてもらえないなんて……私はずっと歯痒く思ってた。
「ええ、分かったわ。任せてちょうだい」
私は力強く頷いた。
今度こそ、エヴァのためにきちんとした教育を。そして、あの子がちゃんと安らげる環境を。
会議の他のメンバーも、これにはしっかりと頷いてくれた。
「それから、ダルトン子爵家をこれからどうするかだな」
ファビアンが話題を変えた。
「今回の臨時会議招集の手紙も、送ったのよね?」
フレデリカが、私の方を見て確認してきた。
「ハリー・ダルトン宛てに送っているわ。でも返答なしよ。彼、本当に仕事してないみたいね」
私は、お手上げって感じで肩をすくめて言った。
「エヴァの手紙通り、ハリー・ダルトンが今後も円卓の魔女会議に出席するかどうかは分からないか……エヴァが、ダルトン子爵家の代わりに出席することはないのか?」
ギデオンが会議のメンバーを見回して尋ねた。
全員が一気に黙りこくる。
「……今までの円卓の魔女の事例では、奇跡的にエヴァがダルトン子爵家当主につくか、新たに貴族として陞爵されるかしない限りはダメだろうな……」
ファビアンが腕を組み、苦い表情で答えた。
「そうなると、今後もハリー・ダルトンが出席しないようなら、ダルトン子爵家には継承者がいなくなったということで、円卓の魔女からは外すことになるな」
ギデオンが淡々と話をまとめた。
今までも、上手く次代に「円卓の魔女」を引き継げなかった家は、円卓の魔女の家柄から外されてきた。
家自体は残っていても、もう魔術師家系ではなくなってしまった貴族家もある。
円卓の魔女の家柄は、建国当初より魔術的な面で陰ながらドラゴニア王国を支えてきた。
魔術師の家柄として力不足ともなれば、外されても仕方がなかった。
「ねぇ、継承するかどうかのこともそうだけど、エヴァちゃん本人にも、今後どうしたいのか確認しないとじゃない? 次の会議では、エヴァちゃんにも是非出席してもらいたいわ」
フレデリカが至極真っ当なことを言った。
「それもそうね……とにかく、まずはうちでエヴァを保護するわ。それから、次の円卓の魔女会議は、あの子が落ち着いてから開催するのでいいかしら?」
私は、会議の参加者全員の顔を見回した。
「賛成」
「賛成よ」
「賛成だ」
三人とも、即座に同意してくれた。
そして、今夜の会議はこれでお開きとなった。
──まずはエヴァを迎えに行かないと。あの子のために部屋も準備しなきゃだし、服とかも揃えなきゃね。うちは一人息子だけだったから、女の子が来てくれるのは華やかになって嬉しいわ。それに、追々エヴァの教育係とかも決めないとね……いろいろと忙しくなりそうだわ!




