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デビュタント1

 今日は待ちに待ったデビュタントの日だ。


 私はハートネット家のメイドたちに、頭のてっぺんから足のつま先まで綺麗に磨かれて、丁寧にマッサージまでされた。

 全身をピカピカに磨き上げられたあと、先日届けられたデビュタント用のドレスを着付けてもらった。


 純白のドレスは、胸元のラインがストレートになっていて肩紐のないビスチェになっている──デビュタントに相応しい王道タイプだ。胸元の切り返し部分には別素材の艶やかなシルクが使われていて、シンプルすぎないようになっている。


 背中側は、リボンで編み上げになっている。今日は試着の時以上に、背中のリボンもキツいくらいぎゅうぎゅうに締め上げられていた。


 ヘアスタイルはサイドに編み込みのあるアップスタイルにしてもらい、マダム・アンタレスおすすめのタンザナイトのイヤリングとネックレスも着けてもらった。


 肘上丈の純白のオペラグローブの内側には、こっそりブレスレット型の魔道具を隠してある。


──鏡の中の私はまるで花嫁さんのように綺麗で、これが本当に自分だなんて信じられないくらいだった。


 ちょうど私の支度が終わった頃に、お義母様が部屋に入って来られた。


「あぁ、エヴァ、とっても綺麗よ。品があって、素敵だわ」


 お義母様はうっとりと褒めてくださった。


「ふふっ。ありがとうございます! お義母様も今日のドレス、素敵ですわ!」


 お義母様は私の親族として出席されるため、今日は夜空のような藍色のノースリーブのドレスを着られていた。耳元には、私と同じタンザナイトのイヤリングが煌めいている。

 凛とした大人の女性の風格があって、とても格好いい。


「そうそう。セルゲイ君が迎えに来たわよ」

「えっ、もう!? す、すぐに行くきます!」

「こらこら、慌てないのよ!」


 私が慌てて出迎えに行こうとすると、お義母様に嗜められた。



 ハートネット家の玄関ホールに向かうと、セルゲイが待っていた。


 セルゲイは、今日は黒の燕尾服を着ていた。本来は白の蝶ネクタイをするところ、黒の塔の魔術師らしく黒の蝶ネクタイをしていた。黄金色の髪も綺麗にセットされていて、いつも以上に凛々しい雰囲気だ。


 背が高くて、フレデリカ様に似て華やかに整った顔立ちをしているから、きっとセルゲイの中身を知らなければ、一目で恋に落ちてしまう女の子が続出してしまうかもしれない──そのくらい、今日の彼は飛び抜けてカッコいい。


「待たせてしまったかしら?」


 私が声をかけると、セルゲイがこっちを振り返った。

 一瞬にして、彼の印象的な青い瞳が大きく見開かれた。


「いや、今到着したところだ。その……見違えるようだ……」


 セルゲイはフイッと視線を逸らすと、口元を片手で押さえてボソボソと言った。頬も耳も少し赤らんでいる。


「セルゲイも今日は素敵ね! とても格好いいわ!」


 私は逆に堂々と褒めてあげた。


 セルゲイは少し面食らったように驚いて、「い、行くぞ」と慌てて腕を差し出してきた。

 私もその腕に手を添える。


 いつもは私の方がセルゲイに驚かされたりヤキモキさせられることが多いから、今日はちょっぴり「してやったり!」と得意な気分になった。



 オルティス侯爵家の馬車に乗ると、セルゲイが口を開いた。


「そういえば、何か黒くて身につける物はあるか? 少し気が早いかもしれないが、エヴァはデビュタント後に黒の塔に所属するのだろう?」


 特殊魔術研究所に所属する魔術師は、社交の際にどこかに黒い物を身にまとうというルールがある。呪い魔術を扱うから、下手にちょっかいをかけて呪いを受けてしまわないよう、警告の証らしい。


「ちゃんとあるわよ」


 私は黒い絹のリボンを取り出した。細身のブレスレットのようなリボンで、今日のドレス姿にも邪魔にならないようなデザインだ。


「着けようか?」

「いいの? お願いするわ」


 セルゲイにリボンを手渡すと、白い手袋をした大きな手で、私の手首に器用に着けてくれた。


 別に手で直接触れるようなことはないのだけれど、少しだけセルゲイの顔が近づいて、この時はやけに胸がドキドキとうるさかった。



***



 王宮に到着すると、まずは玉座の間で国王陛下と両妃殿下に挨拶をする。

 これは今年社交界デビューする女性だけの儀礼(イベント)なので、セルゲイは近くまではエスコートをしてくれるけれど、陛下方の前へは私一人で挨拶に行く。


 真紅色のカーペットが敷かれた玉座の間には、正面の玉座にライアン国王陛下が、その右側の玉座には正妃のイザベラ殿下が、陛下を挟んで反対側の玉座には側妃のエレノア殿下がいらっしゃった。


 ライアン陛下は赤髪赤目の美丈夫──いわゆるイケオジだ。かなりがっしりとされた体格で、王位に就かれる前は王国騎士団にも所属されていたみたい。


 イザベラ殿下は、ひと目を引く華やかな美貌をされている。色鮮やかな金髪を結い上げ、澄んだ赤い瞳はつり目がちで、女性らしくゴージャスな印象だ。


 一方で、エレノア殿下は赤茶色の髪と瞳をされていて、落ち着いた雰囲気の方だ。優美で繊細に整った美貌をされていて、優しげで儚げな印象だ。


 玉座の間正面の廊下の方にまで、挨拶待ちの女性たちが列をなしていた。


 この国のトップの方々にご挨拶申し上げるのだ──冷や汗が出るくらい、とんでもなく緊張する。それに、もしこの場でドレスの裾を踏んで転んだりしてしまえば、一生の恥とも言われている。


 挨拶待ちの女性の間では、とてつもない緊張感が漂っていた。コルセットの締め付けがキツいのか、それとも緊張しすぎて参ってしまっているのか、列には何人も顔色の悪そうな女性たちがいた。

 私もそんな彼女たちにつられて気持ちが落ち着かなくなりそうだったので、普段はあまり見れない玉座の間を観察して、なんとか気分を誤魔化していた。



 私の挨拶の順番になって、私はお義母様に鍛えられた通り、ピシッと背筋を伸ばして優雅にカーテシーを披露した。静々と挨拶の言葉を述べる。


「王国の太陽と月にご挨拶申し上げます。ハートネット伯爵家が長女、エヴァと申します」


「うん、ハートネット伯爵家のエヴァ嬢だね。楽しんで行って」


 国王陛下は一つ頷くと、軽く声をかけてくださった。でも、私の前の順番の女性も、全く同じようなことを陛下から言われていた。


 今夜の舞踏会には、今年社交界デビューする年頃の女性が大勢押し寄せているのだ──人数が多すぎて、悲しいかな、陛下方の前ではほぼ流れ作業になっていた。


 あれほど緊張したというのに、陛下方へのご挨拶は呆気なさすぎるくらいに簡単に終わった。



 挨拶が終わって玉座の間から出ると、すぐさまセルゲイが迎えに来てくれた。


「無事に終わったようだな」


 セルゲイが苦笑して、エスコートしようと手を差し出してくれる。


 何気ないことだけれど、私のことを気にかけて来てくれただけで、肩のこわばりが解けていくような感じがして、なんだかとても安心できた。


「うん。どうにか。本当に緊張したよ〜……」

「みんな広間の方に向かっている」

「私たちも、行こうか」


 私たちは、王宮の舞踏会が開かれる大広間の方へと向かった。





※次から3話連続ざまぁ回です。


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