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sideダルトン子爵家(ミア・ダルトン視点)

「うふふっ! これでぜ〜んぶ私のものよ!」


 私はお気に入りの自分の部屋で、くるりくるりと回った。

 お行儀が悪いけど、嬉しくってバフンッとふかふかのベッドの上に倒れ込む。フリル付きのピンク色のクッションが跳ねた。


 メイドのリリーが「良かったですわね、お嬢様」とにこにこと祝福してくれた。


 これでダルトン子爵家当主の継承権も、かっこいい婚約者もぜ〜んぶ私のもの!!

 今までお義姉様が独り占めしてたものは、ぜ〜んぶ私が奪い取ってやったわ!!!



 私の婚約者になったアラン様は、二つ年上でロッドフォード伯爵家の三男。中級魔術師として王宮魔術師団に勤めている優秀なお方だわ。


 アラン様は優しげでハンサムな顔立ちで、黄金色の長い髪と青い瞳をしている。

 初めてお会いした時から私の胸はときめいていたし、私じゃなくてお義姉様の婚約者だと紹介された時は、ものすごくショックだった。


 どうにかしてアラン様に振り向いてもらいたくて、お義姉様じゃなくて私を選んでもらいたくて、私は猛アピールした。


 お義姉様はいつも忙しそうにしてたから、アラン様がダルトン子爵家を訪れた時には、私が代わりにおしゃべりをして彼を歓迎してあげた。


 アラン様からのお茶会の誘いも、代わりに私が積極的に出席してあげた。


 アラン様もいつも「ミア嬢に会えて嬉しいよ」とか「君と一緒にいる方が楽しい」と言ってくださった。


 そして、婚約者でなくても、私の誕生日には心を込めたプレゼントを贈ってくださった。


 お父様もお母様も、私がアラン様と仲良くなることは歓迎してくださったし、「エヴァよりもミアを婚約者にした方が良かったな」と常々おっしゃってた。



 でも、アラン様は「エヴァがダルトン子爵家を継ぐから」と、婚約者を私に変えることには頷いてくださらなかった。ロッドフォード伯爵から許可が下りなかったみたい。



 だから私は考えた──私がダルトン子爵家を継げばいいって!


 正直、お義姉様には可愛げがない。

 地味だし身なりは全然気にしてないし、いつもしかめっ面でにこりともしなかった。それに、婚約者のアラン様のこともいつも放ったらかしで、可哀想だったわ。


 そんな風に愛想が無ければ、アラン様からもお父様からも嫌われても仕方ないわよね。


 ただ、女性としての魅力は私の方が上でも、お義姉様には魔術師として才能があるらしい。魔術を使ってるところなんて、全然見たことないけど。


 お義姉様は、火水風地の四大属性の魔術と呪い魔術に適性があるというし、魔力量は上級魔術師レベルとも言われている……らしい。噂に聞いただけだけど。


 一方で、私の魔術適性は火と、風に少し適性があるだけ。魔力量は体調にもよるけど、調子がいい時でも中の下くらい。


 ダルトン子爵家は昔ながらの魔術師家系だから、当主になる人間は優秀な魔術師の方がいいって……さすがにこれでは私も勝ち目がなかった。



 でもそんなある日、私はとある噂を聞きつけた──「ラングフォード魔術伯爵は、魔術を使える女性であれでば誰でも王宮魔術師団への推薦状を書いてくださる」と。


 私の価値も上げつつ、完膚なきまでにお義姉様のプライドをズタズタにできる方法──これしかないって閃いたわ!


 お父様に相談すると、即座に反対された。

 王宮魔術師団は、王国騎士団の遠征や演習について行って、魔物の討伐にも参加することがあるからって。とても危ないお仕事だから、可愛い私のことをすごく心配してくださったみたい!


 ただ、お母様は『ミアがダルトン子爵家の当主になれるなら、チャレンジすべきよ』と、私の背中を押して応援してくださった。



 それからは、私はお母様にこっそり協力してもらって、いろいろな方のお茶会に足繁く通ったわ。どうにかこうにか伝手を見つけてたどって、ラングフォード魔術伯爵にお会いしたの。


 とあるサロンでお会いしたラングフォード魔術伯爵は、アラン様以上にかっこいいお方だった。


 スラリと背が高くて、優美で繊細に整った顔立ち。

 瑠璃色の髪は上級の水魔術師に現れる色だというし、色鮮やかな黄金色の瞳は、魅入られちゃうぐらい美しい。

 仕草も立ち居振る舞いも、洗練されていて完璧だった。


 私がラングフォード魔術伯爵に見惚れていると、コホン、とわざとらしい咳払いが聞こえてきた──ラングフォード魔術伯爵の取り巻きの女性たちからだ。


『し、失礼いたしましたわ。お初にお目にかかりします、ハリー・ダルトン子爵が次女のミアでございます』

『よろしくね、ミア嬢。それで今日は私にどんな用事なのかな?』


 噂ではラングフォード魔術伯爵は女性にはとてもお優しい方だと伺っていたけど、私の無作法もさりげなく見なかったことにしてくださったみたい。


 ラングフォード魔術伯爵に優しく訊かれて、私の胸はドキドキと高鳴った。


『私、王宮の魔術師を目指しているんです! なので是非、推薦状をしたためていただけないでしょうか!』


 私は思い切って、ラングフォード魔術伯爵にお願いをした。


 彼の後ろでは、取り巻きの女性たちが扇で口元を隠して、何やらコソコソとおしゃべりしていた。

 彼女たちの視線は、私を値踏みするような、粗探しをするような嫌味なものだった。


 でも、私はこんなところで負けてなんていられなかった。

 ダルトン子爵家の家督が、アラン様が、私には待っているのよ!


『お願いします! 私、ラングフォード魔術伯爵しか頼れるお方がいなくて……』


 ここは必殺「潤んだ瞳で見上げる」ね!

 これはお母様秘伝の技で、お父様にもアラン様にもバッチリ効いた技よ!


 私が健気そうに胸の前で手を組んで、涙目でラングフォード魔術伯爵を見つめていると、


『仕方がないね。私は困っているレディには弱いからね。少し待っていてくれるかな? すぐに書いてあげるよ』


 彼はどこからかペンと手紙を取り出すと、さらさらと推薦状をしたためてくださった。


 取り巻きの女性たちからの視線は痛かったけど、目当てのものは手に入れたわ!


 ラングフォード魔術伯爵からは『もし良かったら、今度お茶でも……』と誘われたけど、取り巻きの女性たちの表情がものすごく怖かったし、私が誘いに頷けば、何をされるか分かったものじゃなかった。


 私は『私には心に決めた方がいるんです!』と慌てて逃げ帰って来た。



 その後、推薦状を持って、王宮魔術師団の入団試験を受けに行った。


 推薦状があるからか、入団試験は呆気なく終わったわ。

 簡単に魔術が使えるかどうかのテストを受けて、無事に下級魔術師として王宮魔術師団に所属することが決まった。



 入団が決まってすぐに、私は家族水入らずのディナーの時に、サプライズでお父様に伝えたわ。


『お父様、私、王宮魔術師団に合格しましたの!』

『何だと!? 入団を許した覚えはないぞ……!!』


 てっきりお父様は喜んでくださると思ってたのに、見たこともないような真っ赤な顔で怒鳴られてしまったわ。


『酷いわ! 私、頑張ったのに……そんな風に怒らなくても……!』


 私が目に涙を溜めると、お父様はハッと我に返ったように急に態度を変えられた。

 お母様も『あなた……』と、お父様を少し咎めるような口調で私に加勢してくださった。


 お義姉様は忙しいとか何とかで、ちょうどディナーの席にはいなかった。


『ミアのことを叱りたかったわけではないんだ。王宮魔術師団は、魔物退治にも行くんだ。とても危ないところなんだぞ?』


 お父様は困り顔で、理由を教えてくださった。


『でも、私は下級魔術師だから、そんなすぐには魔物退治には行きませんわ!』


 私はすぐに反論した。

 入団は決まったけど、王宮魔術師団の教官からは、私にはまず訓練が必要だと言われていた。


『……下級魔術師……そうか』


 お父様は納得してくださったのか、呆然とはしていたけど頷いてくださった。


『あなた。ミアは頑張ってこの国一番の魔術師が集まる王宮魔術師団に入ったのですよ。ダルトン子爵家の次期当主として、これでもう恥ずかしくないでしょう? 王宮魔術師団にも入れていないエヴァよりも、ミアを次期当主に据えた方が格好が付くんじゃありませんか?』


 お母様が親しげにお父様の肩に手を置いて、タイミング良く提案してくださった。


『おお、そうだな。それに、ミアはアラン君のことを気に入っていただろう? ロッドフォード伯爵家も、ミアが当主になるなら婚約者を変えることに頷いてくれるだろう』


『まぁ! ありがとう、お父様!! 大好き!!』


 私はとっても嬉しくって、お父様に抱きついた。

 お母様も『ミア、良かったわね』と笑顔で祝福してくださった。


 とっても幸せな瞬間だった。



──これで、お義姉様のものだった家督の継承権も婚約者もぜ〜んぶ私のもの! やっと私はお義姉様に勝ったのよ!!




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